表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
復讐を願う魂と拒絶されし者  作者: 聖天騎士
第三章 動き出した者は復讐者となり
33/42

第二十六話 会談開始

 ~ルミテスsaid~

「ルミテス王女殿下、この度はバルゼハット家の屋敷においで下さり誠にありがとうございます。」


「あなたは相変わらずですね、セバス。」


 バルゼハット家の屋敷に足を踏み入れた私たちを出迎えたのは執事服が決まっているセバスだ。

 彼の本名は執事として雇っている雇い主すら知らないと言われているほどの謎の人物であるが、その働きぶりにだれも疑う事をしないのだ。

 ちなみに彼の事をセバスと呼んでいるのは彼が自らで名乗りだしたからだ。


「いえいえ、これが執事である私の仕事ですから。」


「あなたほどの働き者をみすみす手放すことになったことを私は後悔していますよ。」


 セバスはいろいろな貴族の下を転々と渡って働いている。そのため、王宮にも働きに来たことがある。

 その時は私の世話役として働いたいたため、彼の仕事ぶりをこの中では一番知っている。


「それでは、主様のもとまでご案内いたしますので護衛の方の武器を預からせていただきます。」


「分かった。」


 私と軽口を言い合ったセバスはシゼル様を護衛だとすぐに見抜き、彼の武器を預かると近くにいた別の執事に手渡しどこかへ持って行かせた。


「それでは参りましょう。」


 そう言ってセバスはバルゼハット家の屋敷の扉を開ける。


「す、凄いなこれは。王宮にも負けてない。」


 コウノさんが開かれた扉から見える光景に驚愕している。まあ、それも仕方ないと思います。

 なぜなら、彼の言う通りバルゼハット家の屋敷は王宮と刺し違えないほど豪華な造りとなっているのですから初めて来られる方は皆同じ反応をします。


「いちいち驚くな、貴族の屋敷なんだから豪華なのは当たり前だろ。」


「こんな所でも平常心でいられるシゼル君が羨ましいよ。」


「本当だなコウノ君。」


 そんな中でもシゼル様は平常心でいれているようですね。バーゼス様までもが苦笑いでコウノさんに同意しています。


「主様は食事の間にいらっしゃいます。そこにはお食事も用意させておりますので有意義な会談を。」


「有難う御座いますセバス、食事の間は知っていますのであとはいけます。」


 どうやらバルゼハット様達は食事の間にいるようですね。

 私はバルゼハット家の屋敷はあまり好みませんが食事の間だけは違います。


「早く行きましょう、これ以上待たせるのもバルゼハット様達に失礼ですから。」


「分かったよ、行こうルミテス様。」


 私の声にコウノさんだけが答え、それ以外が頷くところを確認すると玄関の扉からまっすぐ進んだところにある扉を開ける。







「ようこそおいで下さいましたルミテス王女殿下、今宵は有意義な会談に致しましょう。」


「そうですねフェリス様。」


 食事の間に着いた途端に私に声をかけてきたのは副都の居住区を統治している貴族、フェリス・アングレイ様。

 ここに集まる貴族の中でも唯一の女性のため私が会談に来ると、とても張り切って会談に臨むため少し苦手な相手だが決して嫌いな相手でもない。


「フェリス殿、少し落ち着かれよ。」


「うるさいわよギュエル、凍らせるわよ。」


「君のその言葉は冗談では片づけられないからやめてくれ。」


 私が来たことで盛り上がるフェリス様を止めるのは生産区を統治している貴族、ギュエル・ガルジオル様。

 彼はここに集まる貴族の中でも一番の苦労人であり、フェリス様とは幼馴染で子供のころから氷漬けにされ続けてきた被害者でもある。


「うるさいぞ、集まったのならさっさと会談を始めるぞ。」


 私たちが挨拶を交わしていると突如とそんな声が私たちの会話を止める。

 その声の主はこの副都の全てを統治している貴族、エルキット・バルゼハット本人だった。


「さっさと席につけ、私は早く用を済ませたい。」


 そんな言葉を私たちに言い放ち、席に座るエルキット様に私たちも席に着く。


「ルミテス様、俺は後ろで控えていた方がいいか?」


「なにをしている勇者、貴様はルミテス王女殿下の横に座れ。そして、護衛は後ろで控えておれ。」


「・・・分かりました。」


 コウノさんが私に確認を取ろうとするもエルキット様が私に隣に座るよう指示をし、シゼル様に至っては後ろで控えさせるよう言い放つ。

 その指示にコウノさんはしぶしぶ従い、シゼル様は無言で後ろに控えている。


「エルキット、流石にその言い方はない。それに護衛だってルミテス王女殿下を守る義務がある。せめて席に座らせろ。」


「ちっ、好きにしろ。」


 しかし、バーゼス様がエルキット様の言葉に異議を唱えると彼はしぶしぶそれに従う。


「有難う御座います、バーゼス様。」


「なに、流石にエルキットの態度が王女殿下に見せるような態度ではなかったのでね、注意させてもらっただけだよ。シゼル君、聞いてのとおりだ座りたまえ。」


「はぁ、どっちだよ。」


 バーゼス様の指示に溜息を吐きながら席に座るシゼル様を見ていると本当に緊張していないんだなと思い、苦笑いが出てしまう。


「それじゃあ、早速会談を始めちゃいましょうか。」


 シゼル様が座ることを確認したフェリス様が会談を始める。


「今回の議題は異世界の勇者が召喚されたことによって王都側が副都に物資の供給についてです。」


「それと同時に三都市の同盟の強化を図るという事だね。」


「はい、たとえ勇者が動けていても私たちが連携しなければ勇者様たちを支えることができないと思いますので。」


 会談が始まると同時に私は今回の議題を言い放ちバーゼス様がそれに付け加える。


「確かにそうね、前者は検討するとして後者は確実に必要ね。」


「こちらも同盟の強化には賛成だ。しかし、物資の供給は検討させてもらいたい。」


 どうやら、フェリス様とギュエル様は同盟の強化には賛成で物資の供給については検討するという結論が出たようですね。

 あとは一番の難関になるエルキット様ですが、


「こちらも同じようなものだ。」


 エルキット様もどうやら他の方々と同じような意見のようですね。


「私は物資の供給も賛成だ。」


 そんな中でもバーゼス様だけは物資の供給には賛成の意見のようです。

 今の状況は二対三で私が不利という状況ですか。

 まあ、ここまでは私の予想通りですね。ですので次の段階に入りましょう。


「どうして物資の供給に検討なのでしょう?」


「決まっているだろう、商売区以外に利益がないからだ。」


「ええ、それじゃあ生産区と居住区の利益がなさすぎるわ。」


「利益のない事に生産区は協力しない方針なので物資の供給は利益が出るかどうか検討するしかないでしょう。」


 やはり私の予想通り物資の供給における利益を図るつもりのようだ。

 だからここで少し深く切り込むとしましょう。

 何故なら私はここにいる全員を頷かせる必要などないのですから。


「皆様の意見は分かりました。でしたら次は私の意見を聞いてください。」


 さあ、ここからが私の腕の見せ所です。


「確かに物資の供給については一見、商売区にしか利益がないように思えます。それは物資の売買における金銭の動きから見てわかります。」


 私の意見に他の四名は頷く。

 この副都で一番効果があるのは権力ではなく金銭だ。そのために金銭が一番動く商売区以外が損をしていると思われがちだが私の意見は違う。


「ですが、商売区に供給を依頼したとしてもそれを揃えるのは商売区ではありません、ではどこが揃えるのでしょう?」


「まさか・・・。」


 どうやらギュエル様は私が何を言いたいのか理解したようですね。


「ギュエル様の考えている通り物資を揃えてもらうのは生産区にお願いします。」


「確かにそれなら生産区にも商売区の売り上げから何割かをもらえますね。」


 これが私の生産区を引き込むための作戦です。

 物資の売買を商売区がして、物資の生産を生産区がする。お互いの相互利益を出すための一番手っ取り早い方法だ。


「これはやられましたな、まさか売り上げを独り占めできないとわ。」


 バーゼス様が私の意見に苦笑いを浮かべながらそう呟くが私にはそれが作りものだと分かる。

 何故ならこの作戦はバーゼス様に前々から相談済みですでにこちら側に引き込んでいるからだ。


「生産区のギュエル・ガルジオルは物資の供給に賛成の意見にする。商売区の独断をさせないのもあるし、何よりこちらに利益があるのなら拒否する理由はない。」


「有難う御座いますギュエル様。」


 これで賛成の意見が増えたので私たちが有利になります。しかし、まだ足りません。


「それなら尚更、居住区は物資の供給を検討するしかなくなるわよ。私たちに利益が出るかどうかなんてさらに分からなくなったんですから。」


 ここでフェリス様を納得させなければ私たちの意見は通りません。

 やはり彼女は周りに流されませんでしたか。これだから私は彼女を嫌うことができません。

 形はどうあれ真剣な話し合いの場では周りに流されず自分の意見を貫ける意志の強さがあるからです。


「分かっていますフェリス様。ですからもう少し話を聞いてください。」


「まだあるというの?」


 もちろんですよフェリス様。何故なら私の作戦はまだ終わっていないのですから。


「物資を売買するのが商売区、その物資を作り、揃えるのが生産区です。」


「ええそうね、だから私たち居住区に利益は・・・。」


「しかし、生産区で物資を作る人手はどうするんですか?」


「!、ちょっと待ってもしかして・・・。」


 そう、これが私が考えた作戦です。


「生産区ではきっと人手が足りないでしょう。ですから足りない人手を居住区から人手を雇い、その人たちに働いた分だけ金銭を払う。これでもまだ利益がないと言いますか?」


「・・・いいえないわよ。逆に利益しかないわよ。」


 どうやら私の意見にフェリス様も反論できないようですね。


「私の負けよ、フェリス・アングレイは物資の供給に賛成よ。」


 これで賛成の意見が四つになりました。これなら物資の供給が拒否されることはないだろうと思いますが気を緩めませんなぜなら私たちにはまだ反論されるかもしれない人物がまだ残っているからです。


「話は分かった、確かにルミテス王女殿下の言っていることは副都の利益につながるであろう。」


 エルキット様が私たちの意見にようやく口をはさんできた。


「商売区が物資の売買、生産区が物資の製造、居住区が雇われてお金をもらう。確かにお金が動いているな。」


「ええ、ですから物資の供給が副都にとっての利益が出ることが分かってもらえたはずです。」


「確かに利益にはなる、だが勇者が副都の物資を使用するだけの実力があるのか?」


「え?それってどういう・・・。」


「簡単な話さ勇者よ、君たちが本当に魔王を倒せるのかどうかと言っているのだよ。」


 やはり、エルキット様は勇者の実力を問題視してきましたか。

 確かに勇者の力はこの世界の人間よりもはるかに強力だと言われており、私もこの目でそれを確認しています。しかし、副都の人々はまだそれを知らないのだ。

 つまりは、実力も分からないような者たちに物資を与えていいのかと言っているのだ。

 その意見に先程賛成の意見を出したフェリス様とギュエル様も揺らぎ始めてしまった。

 ここは何としてでも反論せねばと思っていると、


「確かにエルキットの言う通りだな。実力も分からない者に賭けていいのか疑問に思えるだろう。」


 ここでまさかのバーゼス様がエルキット様の意見に同調してしまい、不利になってしまった。しかし彼は止まらず、


「ここにいる勇者は確かにまだ未熟だ、それは私が彼の精神的な脆さを見抜いたからだ。」


「!!」


 バーゼス様の言葉にショックを受けたコウノさんは顔を俯けてしまう。しかし、


「しかし、それと同時に彼の強さも見抜いた。それは私たちにはない別の強さだ。」


 バーゼス様のさらなる言葉に此処にいるほとんどの人が彼に視線を向ける。


「バーゼスよ、貴様の意見は分かったがその強さがどうだというのだ?」


 そんな中、エルキット様だけが冷静にバーゼス様に問いかける。


「簡単だ、賭けてみる気はないか?これから私が勇者と戦って、彼が勝てば物資の供給をすると言う賭けを。」


「貴様、正気か!!」


 バーゼス様の賭けの内容にエルキット様が驚愕する。

 もちろん私たちも驚く、何故なら、


「貴様は元Aランク冒険者だ!未だ未熟な勇者が勝てる確率などたかが知れているだろうが!」


「そうだろうな、だから賭けになるんだよ。」


 元Aランク冒険者、策略のバーゼス。

 バーゼス様が参加した大型魔物の集団戦において、彼自身が先陣に立ちながら支持を出したことでの姿からつけられた二つ名だ。

 もちろん戦術だけでなく、彼自身の実力も上から数えたほうが早かったほどだ。


「どうする、ここですべてを決めるのは勇者である君だよ、コウノ君。」


 そう言ってバーゼス様はコウノさんに視線を向けると私たちも一斉に振り向き答えを待つ。


「俺は・・・」


 そう言ってコウノさんが出した答えは・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ