第二十四話 この世界の命の重さ
人が死ぬシーンがあります。
苦手な方は飛ばして読んでください。
シゼルの勧誘話が一段落した後は最初のようなピリピリとした空気が馬車の中に充満していて光野にとっては居心地が悪すぎて仕方なかった。
「あ、あの・・・、これから行く副都ってどういうところなんだ?」
そんな空気に耐えられない光野は何としてでも気を紛らわせたかったため、これから行くことになっている副都について聞くことにした。
光野たちはこの世界に呼ばれてから王都から出たことがなく、それ以外の地理について何も知らなかったためこの機会に少しでもこの世界について知ろうと思ったのだ。願わくばこの空気を換えられるかもしれないと思いもしているようだが。
「これから行く副都は簡単に言えばこの国の産業が集まっている所です。」
「もっと分かり易く言えば商売が盛んな都だ。」
「簡単だな本当に。」
ルミテスとシゼルの簡単な説明を聞き苦笑いを浮かべる光野だが副都がどういったところなのか何となく想像がついた。
「つまり副都はこの国の経済を担っている所なのか?」
「そうですね、王都でも産業はやっていますが副都のそれに比べると微々たるものですから。」
光野の理解にルミテスが頷く。
「それじゃあ、副都の同盟関係の用ってもしかして・・・。」
「コウノさんが考えている通り物資の供給についてです。」
「それは重要だね。」
今回の副都の訪問の内容が重大なことだと改めて理解した光野は気を引き締める。そんな中でシゼルはずっと外の景色を眺めていた。
「シゼル君は知ってたの?」
「知ってたよ、副都に用があるって言った時点で。」
そんなシゼルに声をかける光野。横でルミテスが笑顔を浮かべているのが気になるシゼルだが隠すことなく答える。
「すごいなシゼル君は。」
「副都に用がある奴のほとんどが働きに出るか何かを求める奴ばかりだからな。」
そんなシゼルに純粋な賞賛を送る光野に平然とした様子でそう返す。まるでこんなことは当たり前だという様に。
「ちなみに今回の物資は勇者様方に持たせる装備についてなのでコウノさんにもいろいろと手伝っていただきます。」
「分かった、もちろん協力するよ。」
「有難う御座います。」
今回の物資が武器だという事で光野が面倒ごとに巻き込まれるようだと笑顔で礼を言うルミテスを見て理解したシゼルだがその眼に同情の目はなかった。
「副都が経済を担っているってことは王都も何か担っているの?」
「はい、王都は主に政治を担っていますよ。」
「ちなみにこの国には帝都ってところもあってそこでは国の戦力を担っている。」
光野の質問にルミテスが答えシゼルがそこに帝都の事を付け加える。
「王都に副都それに帝都か。」
「三つの都を総じて国の三本柱って言うぞ。」
政治で支える王都、経済で支える副都、戦力で支える帝都。
これらの都市がアーティスタ王国を支え合っているためにつけられた呼び方が国の三本柱だ。
これはアーティスタ王国ができたころから言われ続けてきたことで今でも語り継がれている。
この三都市の関係は今まで途切れたことがなく、戦乱の時でさえこの三都市の力があったことで戦乱中も戦乱後も人間は生き残ることができたのだ。
「この不屈の同盟が今まさに必要なために私たちは同盟の結束を固めなければならないのです。」
「そうだね。この世界の歴史はまだ分からないけど三都市の同盟が必要だってことは分かったよ。」
「今最も必要なのは戦力だがな。」
この国の歴史を光野に教えるルミテスは同盟の強化を訴えるも、その言葉に水を差すシゼル。
シゼルは物資の供給よりも先に勇者の強化をすべきだと考えている。
たとえこの世界の人間より強いとはいえ、吉村の力を見ていると他の勇者の実力まで疑問に思えてならないからだ。
「シゼル様が私たちに協力してくだされば解決する問題です。」
「しませんけどね。」
そんなシゼルの考えを理解したのかルミテスが睨みながらシゼルに協力を促すが、それを受け入れない。
「もう、一体どうしたら協力してくれるのですか?」
「無理ですね、僕を動かせるとしたらたった一つのものだけです。」
「・・・たった一つのもの?」
「一体それは何なのですか?」
その瞬間、馬車の中は緊張で張りつめられていたのと同時に光野は自分の体に寒気が襲ってくるのを感じられた。
このとき、光野はそれを聞いてはいけないような気がした。なぜかは知らないがそんな感覚がよぎってしまったのだ。
これを知ってしまったら自分はきっと後悔する、と。そう思ってしまったのだ。
「・・・冗談ですけどね。」
「くっ!一杯食わされました!」
「あははは、シゼル君って冗談も言えるんだ。」
シゼルの冗談で馬車の中に張りつめられていた緊張が一瞬で散ってしまい、ルミテスはシゼルが協力してくれるかもしれない希望を打ち砕かれたことで悔しそうにしていた。
逆に光野は苦笑いを浮かべていた。内心で安心しながら。
その後もちょっとした雑談を踏まえて進んでいき昼頃になり光野がピリピリとした空間に慣れ、副都までもう少しの所までに差し掛かったところで、
「そう言えば聞いてなかったけど、今日中に帰れるのか?」
シゼルから今日中に帰れるかどうかの事を聞かれてルミテスと光野は今思い出したかのような顔で驚いていた。
「す、すまないシゼル君、先にそれを伝えるべきだった。」
「これは私たちのミスです。申し訳ありません。」
「・・・野外実習までには帰れるんだろうな?」
どうやら素で忘れていたルミテスと光野は慌てて謝罪する。
おそらく、自分をこの護衛に誘い、勧誘話をすることで頭がいっぱいだったのだろうと考えるシゼルは二人の慌てぶりを見ながらため息を吐く。
そして二人を見ながら野外実習までに帰れるのかどうかを尋ねるシゼル。
「予定では明日に帰る予定なので大丈夫です。」
「・・・だったらいいんだ。」
明日には帰れるようだと理解したシゼルは一安心してまた外の景色を眺めていると突如と馬車が止まりだした。
「一体何事ですか?」
「どうやら仕事のようだ。」
そう言ってシゼルは馬車の窓から敵を見据えていた。
「へへぇ!随分派手な馬車だな?」
「こりゃ絶対、貴族が乗ってますよアニキ。」
「別嬪なお嬢様だったらいいですね。」
「ちげぇねえ。」
そんな会話で盛り上がりながら高笑いするのは四人組の盗賊のようだ。
「どうしますか、あんなこと言ってますが?」
「もちろん倒してください、もちろん殺しても罪にはなりませんのでお好きに。」
「え?ちょっ・・・、」
「了解。」
そう言ってシゼルは馬車の中から飛び出して、四人組の盗賊と相対する。
「さてとお前ら、覚悟はできてるんだろうな?」
「なんだてめぇ?男には用ねえんだよ!とっとと消えろ!!」
そう言って四人のうち三人がシゼルに向かって襲い掛かってくる。
三人とも剣を使いシゼルに切りかかるも、その全てをことごとく躱し続ける。
しかし盗賊たちはそんなシゼルを見ても余裕な顔で切りかかってくる。まるで何か策があるかのように。そして、
「おいてめぇら!そろそろだ!」
切りかかっているリーダーらしき男がそう合図をすると他の二人はシゼルから距離を取り、後ろに下がる。
「今だ!やっちまえ!!」
そうして、リーダーらしき男は残っていた最後の仲間に合図を送る。しかし、
「アニキ!魔術が発動しねえ!」
「何だと!?そんな訳あるかよ!」
「本当だ!!もう少しで魔方陣が完成するところで消えちまったんだよ!!」
「だったら今度は詠唱してやれ!もう一回時間を稼ぐからよ!」
仲間にそう言うと三人でまたシゼルに切りかかってきた。
最初と違って時間を稼ぐためではなく殺しに来ていると若干思いながらもシゼルは軽々と三人の剣を避け続ける。
そして、タイミングを見計らい最後の一人が発動しようとしている魔術を無属性魔術で打ち消す。
「アニキ!また発動しねえ!」
「いったいどうなってんだよ!」
「・・・【ライトニングランス】を使おうとしても無駄だよ。」
「なっ!なんで俺が使う魔術を・・・、」
シゼルは最初から盗賊が使おうとしている魔術を完成する瞬間に無属性の中級魔術【アビリティブレイク】で打ち消していた。
【アビリティブレイク】は【リブート】の強化版で中級魔術までの魔術を全て打ち消す魔術だ。
これの便利なところは詠唱中または魔方陣を描いている最中でも打ち消すことができる所だ。
「ちぃ!こうなったら全員馬車を・・・」
狙え、と言おうとしたところで、リーダーらしき男の首がシゼルによって切られてしまった。
その手にはいつの間にか【アイスソード】が握られており、リーダーらしき男は何が起きたのか分からないままその命を消してしまった。
「行かせる訳ないだろ、それが仕事なんだから。」
「ひぃ!ア、アニキが・・・、」
「く、くそぅ!アニキの仇だ!」
リーダーの男がいとも容易く殺されてしまったことでパニックになる盗賊は無謀にもシゼルに切りかかっっていく。
「死ねぇ!」
「お前がな。」
しかし、さっきまで剣を躱し続けていたシゼルにとって、盗賊たちの剣は全く脅威にならず、簡単に避け、その瞬間に切りかかってきた盗賊の首も【アイスソード】で切り落とす。
切りかかってきた盗賊はいつ切られたのか分からないまま地面に倒れこむ。
「さて、これで残りは二人か・・・。」
二人目を殺し終えたシゼルは残りの二人に目を向けると、一人は恐怖で腰が抜けてしまい、もう一人は仲間が死んだことでその場で吐いていた。
「メンタル弱すぎだろ・・・。」
そんなことを呟きながら【アイスソード】を解き、馬車の方に戻っていく。
「これでいいんだろ。」
「シゼル君、これはちょっとやり過ぎだろ・・・。」
「いいえ、違いますよコウノさん。これがこの世界の現実なのです。皆さんがどんな世界で生きているのか知りませんがこの世界では人の命はこうも軽いものなのです。」
「そんな・・・。」
日本の常識がしみ込んでいる光野にとってシゼルが行ったことに悲観的な視線を向けるも、ルミテスに指摘されてしまい落ち込んでしまった。
もちろんシゼルも前世で日本にいたために光野が落ち込む理由は分かるが、自分の置かれ続けていた環境のせいで人としての倫理観の殆どが狂わされてしまった為に今更人を殺すことに何も感じなかった。
「そんな事より残りの二人をどうする?」
「勿論、副都まで連行して兵に引き渡します。」
「分かった。」
ルミテスの指示で盗賊の残りを縄で縛り馬車の中に連行する。
「それにしてもなぜ、盗賊の方が発動しようとした魔術が消えたのでしょう?」
「さあ?」
そんなことを笑顔で訊ねて来るのをシゼルはとぼける。
おそらくルミテスは盗賊が使おうとした魔術を消したのがシゼルだという事は分かっているも、その方法が分からないはずだとシゼルは睨んでいる。
そのため、好き好んで自分が無属性魔術を使えることを語るつもりはシゼルにはないかった。
「それより、もうすぐ副都なんですから急ぎましょう。また盗賊が来るかもしれないので。」
「・・・そうですね、コウノさん、そろそろ行きましょう。」
「ああ・・・。」
どうやら光野はまだ落ち込んでいるようでその返事にも威勢がなかったのをシゼルとルミテスは見抜くもどうもしようとはしなかった。
どうせ、魔王討伐の際にあたる壁だと理解している二人は口出しをするつもりがなかった。
こうしてシゼルたちは一人が落ち込んだ中で副都へと向かう。




