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復讐を願う魂と拒絶されし者  作者: 聖天騎士
第三章 動き出した者は復讐者となり
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プロローグ

~シゼルsaid~

「はぁ!」


 吉村の暴走から二日が経ち、学園が休日日となったので魔領の森に戻り、魔物と戦い続けていた。

 なぜなら、学園のレベルがあまりにも低すぎて達成感などが感じられず、全く強くなった感覚がしないのだ。

 やはり、学園に入ったのは間違いだったのではないのだろうかと考えていると、


「っ!そこか!」


 俺の死角から突如と【ライトニングランス】が飛んでくるのをギリギリで察知して魔力を手に纏わせて弾く。

 中級魔術で俺にこれを使わせられる人があの人しかいないため警戒はしていたが、やはりと言っていいのか魔術を死角から飛ばしてくるのは変わらないようだ。


「反応が遅れてるわよシゼル、学園生活はやっぱり退屈だった?」


「ああ、とっても退屈だよ。・・・母さん。」


 木の陰から俺の反応速度の鈍りを指摘しながら現れたのは俺の恩人であり、師匠であり、唯一俺に愛情を注いでくれた母さん・・・アリス・エトワールだ。


「私の予想通りで何よりよシゼル、そして、おかえり。」


「・・・ただいま。」


 こうして俺は前世を含めて生まれて初めての居場所に帰ってきたのだった。

 ただ、少しの不満もあったので、


「できれば出迎えの言葉の時は死角からの攻撃をやめてくれると有難いんだけど?」


「それは無理よシゼル、だってこれが私たちの挨拶みたいなものでしょう。」


 そう言い合いながら俺は母さん目がけて複数の魔術を放ち、今度こそ決定打を入れる為に駆け出し、母さんが俺から攻撃を当てられないように逃げる。

 こうして俺たちは魔領の森を駆け抜けての戦闘が始まるのだった。






「はぁ・・・、はぁ・・・。」


「やっぱりシゼルはまだお子様ね、母親を捕まえられないなんて。」


 あれから一時間ほどして俺は地面に倒れ伏していた。


「上級・・・魔術すら・・・当たる・・・気配を・・・見せない・・・人が言っても・・・説得力が・・・ないです・・・。」


 母さんと一時間も戦い続けた俺の体力はすでに底をつき、喋るのがやっとで指一本動かせなかった。


「シゼルの上級魔術が隙だらけなのが悪いのよ。」


「母さんの・・・基準が・・・おかしい・・・だけだ・・・。」


 本来の上級魔術は避けるなんて選択肢を取らず同威力の魔術をぶつけるか、別方向から魔術をぶつけて軌道を逸らすかのどちらかだけだというのに母さんは初級魔術を避ける感覚で避けるため全く当たる気配を見してくれない。


「これからは魔術の命中精度を上げていくことね。」


 そう言って俺の体力を回復させるために光属性の中級魔術【ヒーリング】を無詠唱で発動しながら次の課題を言ってくる。


「今でも狙ったところに百発百中なのにどうしろって言うんだよ、母さん?」


「さあ?そこは自分で考えるのよ。」


 母さんの課題に不貞腐れながら文句を言うと、笑いながら俺に助言もせずに俺に丸投げしてくる。

 母さんはいつもこれだ、課題を出すだけ出して助言もせずに俺の成長を図るやり方は修業時代にとても苦労させられた。

 しかし、今はそんな苦労も嬉しく感じる。

 最近の自分に一番足りなかったもので何より、やっと帰ってこれたという懐かしさを感じれたからだ。


「ところで、どうしていきなり帰ってきたの?」


 そんな懐かしさに浸っていると母さんが今更な質問をして来る。

 しかし、今回帰ってきたのは報告したいことがあるから帰ってきたために母さんのおかげで回復した体を起こして、


「母さんに知らせておきたいことがあったから帰って来たんだよ。」


「シゼルが突然帰って来るのだから相当なことが起きたのね。」


 真剣な顔をした俺に何が知らされても驚かないような覚悟を見せる母さん。

 そんな母さんと共に俺たちの家に帰りながら学園で何が起きたのか詳しく語るのだった。







「異世界からの勇者・・・、とうとう現れたのね。」


「皮肉にもほとんど俺の知っている人間ばかりだったけど。」


 魔領の森の中心部に立つ家の中で学園で起きたことを語り終えた俺は母さんの気配が膨らむのを感じながらも平然としている。


「でも、シゼルの本気も出せない勇者なんて本当に勇者なの?」


「・・・それは間違いないと思うよ、前世の俺がいた時のそいつの力より強くなっていたから。」


 俺の本気の力が勇者の実力と同等だと思われていることに不満を覚えるがこれが母さんの基準だと思い直して勇者の事を語る。


「それにしても出来過ぎた話ね、前世のシゼルがいた世界の人間がこの世界に召喚され、その人たちの中に前世のシゼルを殺した人間が紛れ込んでいるなんて。」


「俺もそう思うけど、これはいい機会だよ。」


「あなたの目的である復讐が始まるから?」


「そうだよ、母さん。」


 俺の目的である復讐の内容を知っている母さんは勇者の中に前世の俺を殺した人間がいることで試すような言い方で俺に尋ねてくる。


「でもまだ動かない。もう少し力を蓄えてから動く。」


「・・・そう、ならよかったわ。もしここで早速動くなんて言ってたらお仕置きだったから。」


「・・・俺もまだ死にたくないからな。」


 俺がまだ動かず、力を蓄えることを知った母さんはいつの間にか持っていた拷問器具を下げた。

 正直言って母さんのお仕置きは下手をすれば死ぬ勢いだ。その時のトラウマは今でもその体にしみこんでいる。

 昔に魔領の森の主に戦いを挑み死にかけた時があった。その時はギリギリのところで母さんが助けに来てくれて一命はとりとめた。

 しかし、本当の地獄はここからだった。

 魔領の森の主との戦いの傷を治してもらった後はこっ酷く説教を食らった。これが言葉だけならまだましだった。しかし、説教の際にお仕置きと称して言葉に表せないほどの拷問を受けた。

 その拷問はすさまじく、今も無事に生きていられるのが不思議なくらいだった。

 そのために俺の体はお仕置きと聞く度に震え上がる。


「それで、力を蓄えるって言ってもどうするの?」


「そこが問題なんだよ、勇者の実力は迷宮探索の時に図るからいいけど、俺自身の力をどうやって蓄えるかなんだよ。」


 母さんの言う通り俺は自分の実力が伸びにくくなっていることに悩んでいた。

 魔領の森にいた時は体ができていなかったこともあり、それほど成長速度を意識したことがなかったためにどうやったら実力が伸びるのか悩んでいた。


「一つだけ手があるけど現実的じゃないし。」


「困ったものね、これじゃあいつまでたっても復讐が始められないわね。」


 俺の悩みを茶化してくる母さんに殺気を飛ばすが全く意味も返さない様子を見るとため息しか出ない。


「なあ、母さん、いきなり強くなれる方法はないのか?」


「あるわけないでしょう。私だって時間をかけてここまで来たんだから。」


「だよな。」


 俺の質問を聞き当たり前の事のように返してくる母さんに不貞腐れる。

 こうなったら俺が試せる方法はただ一つだった。


「母さん、これから修業をつけてくれよ。」


 俺よりも圧倒的な実力がある母さんに修業をつけてもらい、取り込めるところを一つ一つ取り込んでいくしかなかった。


「ふふ、もちろんいいわよ。ただし、手加減しないわよ。」


「勿論それで結構だよ。むしろそうして欲しいから。」


 そう言って俺は母さんと久しぶりの修業を開始するのだった。






「まだ詰めが甘いわよ!」


「ぐはっ!」


 あれからずっと母さんとの修行を続け、日が傾くころには俺の体はボロボロになっていた。それなのに俺は母さんに一撃も入れることができなかった。

 この戦いでは魔術だけでなく武器の使用も認めているために俺は前世の知識を使い魔術で刀を自作して切りかかっているが母さんには掠りもしない。


「武術と魔術の組み合わせが甘過ぎよ!もっと工夫を入れなさい!」


 もちろん母さんも武器を使ってくる。

 母さんが使っている武器は両手で持つような大剣だが、母さんはそれを片手で二本も持ちながら切りかかってくる。

 俺を殺さないように手加減されているとは言っても、二本もの大剣を振るう姿を見ていると本当に手加減しているのか疑問に思えてくるレベルだが今まで死んでいないため信用はしている。


「やっぱりまずはこれを慣らすべきか。」


 かあさんの猛攻が二本の大剣からくることをこれまでの経験で体に覚えこまされていた俺は学園でも密かに練習していたことがあった。


「行くぞ!」


 そう言って俺は二本目の刀を作り出し、母さんの二本の大剣に相対する。


「それがあなたの成長なのね、だったら試してみなさい!」


「ああ、これで今度こそ届いてみせる!」


 母さんの大剣と俺の刀が何十回と交差する中、俺は母さんから放たれる魔術を無属性の魔術で打ち消し、斬撃の邪魔にならないようにする。そうでもしなければ母さんの斬撃を捌き切れなかった。


「魔術の打ち消しは上手くなったようね。」


「そうでもしないとここまで届きませんから。」


 魔術が打ち消されることを理解している母さんは魔術を放つのをやめるのと同時に斬撃が鋭くなってくる。

 これまでの斬撃でやっと捌けるレベルだと言うのにさらに鋭くなる母さんの猛攻に必死に食らいつく。


「どうしたのシゼル!そんな防戦一方じゃあ私に届かないわよ!」


「わかって・・・ますよ!」


 母さん大剣の猛攻を何とか捌き切り、懐に潜り込む。しかし、


「本当にお子様ね、シゼルは。」


「しまっ・・・!」


 気付いた時にはすでに遅く、懐に仕込まれていた魔方陣から放たれる魔術に直撃してしまい吹き飛ばされてしまう。


「こんな簡単に誘導されていたら命がいくつあっても足りないわよ。」


「ゲホッ・・・、ゲホッ・・・。」


 頭では分かってはいるが、母さんほどの実力者との戦いになると先走り過ぎてしまい、今のような罠に何度も引っかかってしまう。


「今日の修業はここまでよ。」


「俺はまだ・・・!」


 やれる、そう言おうと立ち上がろうとしたら足に力が入らず、その場に倒れこんでしまう。


「もうやめなさい、強くなりたいのは分かるけど体を壊してまで強くなっても意味なんてないわ。」


 そんな俺に最初に会った時にかけてくれた【ホーリーヒール】を掛けながら無理に立ち上がろうとするのを止める母さんに従い、俺は楽な体勢になる。


「シゼルは少しずつ強くなっているわ。だから焦らないで。」


 そんなことを言いながら頭を撫でてくる母さんに俺は無抵抗でされるがままだった。

 俺の頭を撫でてくれる母さんの手の気持ちよさがとても居心地が良いからだ。それに、こんなことをされていると本当に愛されていると感じられるからでもある。


「それでも俺は強くなりたいんだ。」


「でも、強くなりすぎたらそれだけ誰かが干渉してくるのよ。例えば勇者とか。」


 母さんの言っていることは間違っていないだろう。

 勇者を圧倒的な実力差で倒してしまった俺の事を王国側は引き込みに来るだろう。

 もちろん協力するつもりなんて最初からない。

 俺があいつらと手を取り合うなんて死んでもごめんだ。それに何より、


「なにがあっても、俺は母さんの味方だから。」


「まだ言うか、このお子様が。」


 母さんが背負わされているものを背負わせた人間どもに協力する気なんてこれっぽちも持ち合わせていない。

 未だに母さんの過去は分かり切ってはいないが、何があっても俺は母さんを見限るつもりなんてなかった。


「あなただけが唯一俺に手を差し伸べてくれたからですよ。」


「今の言葉を聞いてあなたを拾ったことをすごく後悔したわ。」


 そんな会話をしながら俺は学園の門限まで母さんと笑いあった。

 そうして学園に戻るまでの間で俺は新たに決意する母さんを苦しめた人間どもにも復讐すると。

 たとえなんと言われようとも。

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