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復讐を願う魂と拒絶されし者  作者: 聖天騎士
第二章 動きだした者は止まることを知らず
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幕間 光野の後悔

少し短いですがどうぞ。

 ~光野said~

 吉村の暴走から二日が経ち、週に一度の休日日となったのを利用し、俺たちは王宮に集まっていた。

 この日は俺たちが学園でうまくやって行けるのか確かめる為に集められる日だった。


「それで、学園の居心地はいかがでしたか皆様?」


 俺たちの顔色を確かめながら学園の事を尋ねてくるルミテス様にほとんどの生徒が良かったと伝える。

 その勢いはすさまじく、一国のお姫様が少し引く勢いだった。まあ、俺もあの学園の雰囲気は良かったと思う。

 俺たちが入っているEクラスは学園の中でも落ちこぼれのクラスと言われているが、教室の雰囲気はそこまで暗い訳でもなく逆に明るいくらいだ。

 それにEクラスには貴族がいないからそこまで気を使う必要が無いのも理由の一つだとは思うが、他の貴族がいるクラスみたいに俺たちを取り込もうとする視線がなかった。

 他のクラスの所に行った奴のほとんどが貴族と関わりを深めようとさせられて苦労したと言っていたからそこまでの気苦労もなかった。


「それは良かったです。」


 俺たちの反応が良かったことに安堵するルミテス様だがたった一人だけあまりいい反応をしなかった吉村を不安げに見ていた。

 それは彼女だけではなく、他のみんなも同じだった。

 どうやら吉村が起こした出来事はもうみんなに伝わっているようだが、彼女だけが何があったのか知らない様子のようでどう声を掛けたらいいのか図りあぐねていた。


「えっと、どうして吉村さんは不満そうなんですか?」


「それは簡単よルミテス、あいつが学園で問題を起こして退学にされたからよ。」


「一体何があったんですか!?」


 学園にいくまでの三日間の間で仲良くなった夏姫に何があったのか尋ね、返された内容に驚きを隠せないルミテス様。


「そのことでルミテス様に報告したいことがあります。」


「聞かない方が幸せなのでしょうが、そうも言ってられないのでしょうね。」


 俺が吉村の起こした出来事を報告しようとすると、頭を押さえながら聞こうとするルミテス様を見て苦笑いしか出てこないが、学園で起きたことを報告する。

 合同授業中の暴走で学園の校則を破ったこと、そこでけが人を出させたこと、そのけが人を守るために出てきた生徒に圧倒的な実力差で倒されてしまったこと、野外実習終了後に退学させられてしまう事全てを報告した。


「まさか、そんなことになっていたなんて。」


 全てを聞き終えたルミテス様は手で口を隠しながらそう呟き、吉村に視線を向ける。

 他のみんなもあいつが圧倒的な実力差で倒されたことは知らなかったのか慌てていた。

 それもそうだと思う。かくいう俺も未だに信じられないでいた。


「けがをした生徒の方は心配ですが、吉村さんを倒した生徒は気になりますね。」


「召喚の影響でここの世界の人間より遥かに強い勇者の一人を倒したからですか?」


 俺たちは召喚の影響で日本にいた時よりも強くなっており、ここの世界の人間とは比べ物にならないほどの魔力量と適性を持っているらしい。

 この世界では無詠唱が高等技術とされているが俺たち全員が初級魔術程度なら無詠唱できるのが決定的だった。

 それほどの実力を持つ勇者を寄せ付けないほどの強さを持つ人間がいるなら引き込む価値はあると考えていると、


「おそらくコウノさんが考えている通りだと思います。ですからその生徒の事を詳しく教えたいただけませんか?」


「いいですけど、俺もよく知らないんです。」


 そう言って俺は吉村を倒したシゼル君の事をできる限り詳しく伝える。

 しかし俺が知っていることは彼がシゼル・エトワールと名乗っていること、クラスでは一人でいることが多い事、中級魔術を素手で防ぐこと、これくらいしか分からないのだ。

 それを聞いたルミテス様も彼の事を図りあぐねており、表情が困惑していた。


「さすがにそれだけではどんな人なのか分かりませんね。」


「俺も力になりたいんですがこれくらいしか知らないんです。」


「困りましたね、もう少し詳しく知りたいのですが・・・。」


 シゼル君の情報が少なすぎることに俺たちは手の打ちようがなかった。

 ルミテス様も俺からはこれ以上、彼の情報は引き出せないと理解したのか一人で考えだしたところで、


「シ、シゼル君の事なら私がもう少し知っています。」


 後ろから声をかけてきた時雨の一言でルミテス様が俺を押しのけて駆け寄る。


「一体どういう人なのですか、どんな些細なことでもいいので教えてください。」


「わ、わ、わ、分かりました。」


 滅多に人の事を語ろうとしない時雨が突如として人の事を語ろうとしたことに俺だけでなく他のみんなも同じように驚いていた。

 彼女の横にいる夏姫の驚きようでこれが自分の意思だと感じた俺たちは彼女が怖がらない位まで近づき集中して聞く。

 彼女が語るには普段は自分の事を僕と呼ぶが感情的になると俺に変わってしまう、適性属性が六つあること、面倒ごとを避ける傾向がある、敵には容赦がない、逆にこちらから何もしなければ無害だという事。

 彼女が意気揚々とシゼル君の事を語る姿に俺たちはついていけなかったが、俺よりも詳しく知っておりとても有益な情報だと思った。


「それに、食堂のご飯はいつも定食ものを食べ、口は悪いけど少し優しいし、戦う姿がとても・・」


「分かったわ時雨、少し落ち着いて。」


「え?・・・っ!」


 夏姫の声でようやく自分が何を口走ろうとしていたのか気付いた時雨は顔を真っ赤にさせてしまい、俯いてしまう。

 彼女が此処まで他人を語る姿を見たのは中学以来だ。もちろん語っていたのは自分の事を助けてくれた人の事だった。

 名前も知らないその人の事を語る彼女の姿が今の顔にそっくりだったことに俺と夏姫が笑いを堪えるのに必死になっていると、


「シグレのおかげで少し詳しい人柄が分かりました。有難う御座います。」


 どうやらルミテス様が何か思いついたようだ。


「コウノさん、明日の学園は休んでください。」


「どうしてですか?」


「少し、お願いしたいことがあるだけです。」


 そう言って俺にお願い事を語りだす。

 内容は副都と呼ばれる都市までの護衛らしいが、本当の目的は副都との同盟関係の事で勇者に会わせろと言われ、王国側がこれを承諾したために近いうちに誰かを向かわせるつもりだったらしい。


「理由は分かりましたけど、どうして俺なんですか?」


「それは簡単です。その護衛にシゼル・エトワールも連れて行くからです。」


 ルミテス様はシゼル君をその護衛に誘うために同じクラスの人間がいたほうが警戒心が薄くなると考えたようだ。

 ちなみに夏姫と時雨は女性より同性の方がさらに警戒心を薄くできると考えられたから学園を休むのは免除だそうだ。ちなみに蒼真が選択肢に入っていないのは当たり前だ。


「一体どうしてシゼル君まで?」


「副都までは馬車で行きますのでその中で私たちに協力できないか掛け合うつもりだからです。」


 どうやら副都にいくまでの間にシゼル君をこちらの戦力として引き込むために掛け合うつもりのようだ。

 もちろん彼のような強さは今の俺たちにとって強力な武器となるためにとても心強い。

 しかし、ルミテス様には悪いが彼が俺たちと共に戦ってくれる姿が思い浮かばない。どちらかというと彼が俺たちに協力してくれる姿が思い浮かばないと言ったいた方が正しいと思う。

 なぜなら、彼とは学園で初めて会ったような感じがせず、彼が日本にいた樟と雰囲気が似ていると感じているからだ。

 もし、樟ならば絶対に引き受けてはくれないと確信しているから思ってしまう不安だった。


「承諾してくれますかね。」


「それは分かりませんが試してみる価値はあります。」


 俺の不安からささやいた呟きにルミテス様は俺の不安をかき消すように答える。


「そうと決まれば明日の朝一からコウノさんにはシゼル・エトワールと会ってもらいますね。」


「分かりました。」


 こうしてシゼル君を勧誘するための作戦が決まり、あとはそれぞれ自由に行動してもいい事になったために俺は一人、王宮の中庭に出ていた。


「シゼル・エトワール・・・、樟 刹那・・・、なんで雰囲気が似てるんだろうな?」


 答えが出ないと分かっているのにどうしても頭から離れなかったことを考える為に一人になりたかったのだ。

 樟が一人孤独な世界を見て来たから俺も一人になれば答えが出ると思ったからだ。

 しかし、いくら考えても答えなんて出なかった。まるでそれが答えだというように。


「一体何を考えているのカズマ?」


 俺がシゼル君と樟の事で悩んでいると俺の横に座り込んできた。


「さっきの話の事でな、樟の事を思い出していたんだよ。」


「どうしてシゼル君の勧誘話が樟 刹那に繋がるの?」


 そんな夏姫の疑問に苦笑いをしながら説明していく。

 俺がシゼル君と初めて会った気がしなかったこと、どことなく雰囲気が樟に似ていること。

 そうやって俺の疑問に思っていることを上げると彼女は納得したように頷き、


「やっぱり後悔していたのね、彼を助けられなかったことに。」


「後悔か・・・、確かにそうかもしれないけど今は関係ないよ、だって・・・」


「そう、樟 刹那はもう死んだのよ私たちがこの世界に転移される前に、だから雰囲気が似てたって意味がないわ、だからシゼル君と彼は別人よ。」


 死

 その言葉が俺の胸に刺さって苦しくなった。まるで自分の胸にくぎを打ち込まれたかのような感覚に見舞われる。


「なんで樟は死んだんだろうな。」


 そんな感覚に見舞われているせいか、そんな言葉を漏らしてしまう。所詮、いまさら言っても意味のない言葉だと分かってはいるのだが耐えられなかったのだ。


「それは誰にも分からないわ、きっと彼自身にもね。」


 そんな言葉を語りながら夏姫は俺の手を握る。

 そんな彼女の手のぬくもりを感じながら俺は心を落ち着かせる。明日のために。

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