第二十一話 激突する勇者と復讐者
やっと主人公が恨んでいる相手と戦わせることができたよ。
~光野said~
「分かってるんだろうな吉村、やり過ぎるなよ。」
「うっせえな!俺は自分の好きにやるだけだ!」
「絶対やり過ぎるなよ!!」
そう言って吉村をフィールドに行かせた俺だが今ではその判断を後悔している。
あいつは試合開始と同時にこの授業の主旨を無視して一人で駆け出してガルべ君という生徒を殴り飛ばし、【ファイヤーボール】を直撃させた。
本来ならこの時点でアンジェリカ先生かBクラスの担任が試合終了の合図を出す筈だが、その合図が一向に出なかった。
なぜかと思いフィールドを見渡すと教師が【サンドドーム】で何重にも覆われており、合図が出せないでいた。どうやら試合開始と同時に無詠唱で【サンドドーム】を発動させて邪魔になる教師から動きを封じたようだ。
そんなことを考えていると吉村はさらにガルベ君に【ファイヤーボール】を叩きこんで痛めつけていた。
そして、それを止めようとしたBクラスの生徒まで殴り飛ばして魔力切れにさせてさらに痛めつける為に【ファイヤーボール】を放つも、ブライア君が【サンドウォール】で守ってくれた。
腰を抜かしたガルベ君を守ってくれた彼を見て俺も飛び出そうとするが、
「駄目よカズマ、王様との約束を忘れたの?」
夏姫が俺の行動を止めてきた。
「言ってる場合じゃないだろ!早くあいつを止めないとブライア君がもたないんだぞ。」
「それは分かってるけど待って、彼を助けようとしてるのはカズマだけじゃないわ。」
興奮する俺を夏姫は落ち着かせながらどこかを指示した。
その方を見ればライラさんの必死な説得を頭を掻きながら聞いているシゼル君がおり、その横にいるスレイさんとラッセルさんが今にも飛び出してしまいそうな腱膜でフィールドを見つめていた。
「あれでもまだ約束を破ってまで動くって言うの?」
「・・・分かった、ただ、あの四人がやられそうになったら動くからな。」
「分かったわ。」
夏姫の言葉に一様は納得するがもしもの時には動くことを伝える俺。そんな俺の意図を察したのか頷きフィールドを見る彼女の顔にそうなったら自分も動くというような顔をしていたのを見逃さなかった。
そうして俺も視線をフィールドに戻すと魔力切れになったブライア君に【ファイヤーボール】が直撃するところだった。
【ファイヤーボール】の直撃を受けてもなおガルベ君を守ろうとする彼に【ボルトアロー】直撃しようとする。誰しもが目を背けようとしたがブライア君だけは目を背けようとしなかった。何故なら、
「へっ・・・、信じてたぜ。」
「お前は無茶をし過ぎなんだよ。」
さっきまで俺たちの近くにいたシゼル君がいとも容易く【ボルトアロー】を弾いていたからだ。
~シゼルsaid~
「へっ・・・、信じてたぜ。」
「お前は無茶をし過ぎなんだよ。」
ボロボロな状態で苦笑いを向けてくるブライアに呆れながらもこちらに向かってくる【ボルトアロー】を弾く俺に何が起きたのか分からないような顔になる吉村。
「ブライア!またあんたは無茶して!」
「さすがにこれはやられ過ぎだよブライア君、なんで逃げなかったの?」
「うるせぇ、そんなもんは俺の勝手だろうが。」
俺が吉村を警戒していると、ブライアのそばに涙を堪えているライラとあいつの状態を心配そうにしながらラッセルが近づく。
「これだけの重症なんだけど無いよりマシかもね、ライラちゃんお願い。」
「分かってます、光よ、かの者を、癒したまえ。【ヒール】!」
ブライアの傷の状態に応急処置を施すように促すラッセルに従うライラは光の初級魔術【ヒール】を発動させる。これで、止血程度はでいるだろう。
「そっちはまかせた。」
「分かったわシゼル。」
「早くあんな奴やっちゃいなよ。」
二人のその言葉を聞き、吉村のほうに向きなおる俺に【ファイヤーボール】が飛んでくるも慌てずに片手で弾く。
「てめぇら、よくも邪魔してくれたな。」
「実際にお前を邪魔しに来たからな。」
「だったらお望み通り潰してやるよ、【ファイヤーボール】、【ファイヤーボール】、【ファイヤーボール】!」
俺の言葉に切れた吉村が【ファイヤーボール】を三発も放ってくる。ご丁寧に俺だけでなくライラとラッセルまで狙って。
「土よ、【サンドウォール】。」
突如として現れた【サンドウォール】はライラとラッセルを守る様にして現れたため二つの【ファイヤーボール】は防がれ、俺は片手で弾きながら声のしたほうを向く。
「シゼル・エトワール、こいつらは俺が守ろう。」
「不本意ですが、お願いします。俺は、あいつを完膚なきまでに叩き潰しますので。」
声がしたほうを向けばスレイが二人を守る様にして立っているために守りを任せる。
「俺を叩き潰すだと?逆につぶしてグヘッ!!」
「うるさい、少し離れるぞ。」
吉村が喋っている間に顔面を殴り飛ばす。目の前から仕掛けられているにも関わらずに全く反応できていない此奴に本当に勇者が務まるのかが疑問に思えてくる。
「てめぇ!俺の顔面をいきなり殴っておいてタダで済むと思うなよ。」
「目の前から遣られているにも関わらずに気付けないお前が悪いんだよ。」
今にも飛び出しそうに睨んでくる吉村に警戒しながら三人の直線上から離れる俺。此奴との戦いは誰にも邪魔されたくないために余計な気をまわすつもりは最初からない。
「けっ・・・、まずはてめぇからだ。」
「遣れるものなら遣ってみろ、後悔することになるがな。」
「だったら遠慮なく行かせてもらうぜ!【ファイヤーボール】!」
「【ファイヤーボール】。」
意気揚々と【ファイヤーボール】を放つ吉村に俺も【ファイヤーボール】を放ち、ぶつけ合う。
それが開戦の合図の様に俺と此奴は無詠唱で魔術を放ち始める。
【ファイヤーボール】には【ファイヤーボール】を、【ボルトアロー】には【ボルトアロー】を、【サンドジャベリン】には【サンドジャベリン】をぶつけ合う。
吉村が放つ魔術を俺が同じ魔術で相殺し続ける。
傍から見れば地味な戦いに見えるが、無詠唱の連続行使と狙った場所に狙った魔術を当てる正確さは凄腕の魔術師でも難しい事だ。そのため、三十発あたりを過ぎると、
「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・、くそっ。」
吉村の顔に疲労が見えてき始めた。
「どうした、その程度かよ勇者さま?」
「何で・・・てめぇは・・・平気なん・・・だよ。」
「この程度の事はこの学園に来るまでは当たり前だったからな。」
自分だけが疲労に追い込まれたいる状態に怒りをさらけ出す吉村。そんな姿に平然としながら此奴の疑問に答える。
魔領の森では集中力を切らしたら生きていけるような環境ではなかったために、それを維持する体力なども鍛えられる。そのために無詠唱の初級魔術を狙った個所に数百発撃つ程度の事は目を瞑っていても出来る。
そんなことを思っていると、吉村が魔術を放つのをやめる。
「だったら・・・今度はこっちで行くぜ、【ロックアーマー】【フレイムエンチャント】!」
今度は【ロックアーマー】を纏い、そこに【フレイムエンチャント】まで加えてくる吉村は肉弾戦で俺に向かってくる。
「魔術戦が無理だと分かればこれか、哀れだな。」
「なに言ってるかは知らねぇが、これだ終わりだ!」
俺の呟きを気にも留めない吉村は炎を纏った岩の拳で殴り掛かってくる。その顔はこれで俺に勝てると確信しているような顔だった。しかし、
「そんな・・・ありえねぇ・・・。」
「舐められたものだな、この程度の事で俺を倒せると思われていることに。」
俺は片手で炎を纏った拳を受け止める。
「糞が・・・なんで炎にあたってるのに痛がらねぇんだよ。」
「この程度の炎で熱いと言ってたらドラゴンの炎なんか弾けるわけないだろ。」
「ドラゴンの炎だと・・・それこそあり得るかよ・・・!」
そう言って俺を殴り飛ばそうとさらに力を籠めるも、俺は微動だにしない。
「なんで俺が・・・こんな奴を・・・殴れないんだよ!」
「さあな、お前の力より俺が生き抜いていたところに生息している魔物の方が遥かに強いからだろ。」
「俺が・・・魔物ごと気に・・・劣るだと・・・ふざけんじゃねぇ!!」
「現に俺に攻撃が届いてないだろう。」
自分が魔物より劣っていると言われた吉村はさらに力を籠めるも、俺に届く気配がない。
俺の予想では勇者と言われるくらいだから両手を使って少し吹き飛ばされるくらいの力はあると考えていたが、どうやら見込み違いだったようだ。
「そろそろ飽きたから終わらせるな、【リブート】。」
「なっ!」
俺を殴り飛ばすために力を込めていた吉村は突如として【ロックアーマー】と【フレイムエンチャント】が解けたことでその場で体勢を崩して転んでしまう。
「なんで俺の魔術が解けた?」
「そんなことも分からないのかよ。」
転んだ態勢で自分の魔術が解けた驚きからなかなか抜け出せない吉村に呆れるしかできない俺。本当になんでこんな奴が勇者に選ばれるのか皆目見当もつかない。
俺が使ったのは無属性の初級魔術【リブート】だ。
これは発動しているまたは発動しようとしている初級魔術に目に見えない無属性の魔力の塊をぶつけて魔術を打ち消す魔術だ。初級魔術しか消せないのと消費魔力が多いところを除けば目立った弱点が無い魔術のため学園内で使う分には効果がてきめんすぎるのでに今まで隠していたのだ。
「一体をした、答えろ!!」
俺が何かしたという結論にようやく気付いた吉村は叫びながら【ロックアーマー】と【フレイムエンチャント】を発動させてまたも襲い掛かってくる。
「わざわざ自分の手の内を教えるわけないだろ。」
「うるせぇ!!勇者が答えろって言ったら答えるんだよ!!それがこの世界での決まりなんだよ!!」
襲い掛かってくる吉村を捌きながら手の内を明かすことを拒絶すると理不尽なことを言ってくる。
それに膨張してか他の生徒からも俺の手の内を明かせと騒がられるが無視を決め込み炎を纏った岩の拳を捌く。
「ちょこまかすんじゃねぇよ!!いい加減当たれ!!」
「嫌に決まっているだろ。【リブート】、【リブート】。」
俺に攻撃を当てようと必死で足搔く吉村にもう一度【リブート】を発動させて、魔術を打ち消す。ついでに教師を覆い隠している【サンドドーム】も打ち消し、教師たちを開放すると二人に驚いたような顔で見られる。
どうやら教師の二人は俺が何をしたのか一目で見抜いたようだ。
「くそっ!!なんで魔術が解けるんだよ!!」
「お前が未熟すぎるからだよ。」
「うるせぇ!!だったらこれでどうだ!!【ロックブラスト】!!」
どうやら吉村は未だに理解できないようだ。教師が解放されているにも関わらずに中級魔術を使ってくるあたり、冷静さを失ってしまったようだ。
「未熟な奴が中級魔術を使っても怖くはないな。はぁ!」
そう呟き飛んでくる【ロックブラスト】を素手で打ち砕く。
その光景に俺の実力を知らないBクラスの生徒と教師、吉村までもが言葉を失う。ただ、アンジェリカ先生だけは腹を抑えて笑っていた。
「う、嘘・・・だろ・・・。」
「悪いが本当だ。」
あまりの光景に声を震わせる吉村は誰がどう見ても怯えていた。
「何なんだよお前は・・・中級魔術が効かないなんて・・・ありえるわけねぇだろ。」
「だったらもう一発撃ってみるか?」
「くっ!今度こそ、【ロックブラスト】!!」
怯えきっている吉村に俺は挑発し、もう一度撃たせるように促すとあっさりと【ロックブラスト】を放ってくる。しかも、先程より大きな【ロックブラスト】を。
「はーはぁはぁはぁ!今度こそ終わりだ!!」
先程より大きな【ロックブラスト】が発動したことに高笑いする吉村。どこからどう見ても狂った狂人でしかない。
「だったら教えてやるよ。本当の現実を!」
そう言って俺は大きく腕を振りかぶり【ロックブラスト】に拳をぶつけた。
そうすると【ロックブラスト】の岩は音を立てて粉々になった。
「そ、そんな・・・何なんだよお前は。」
俺が【ロックブラスト】を砕いたことでその場に座り込む吉村。
そんな様子の吉村に俺は一歩近づくと、
「ひぃ!来るな!!来るんじゃねえよ!!」
そう言って騒ぎ出す吉村に最早、最初の威勢も勇者としてのプライドもなかった。
そうして騒ぎ立てる吉村は俺に言ってはいけない言葉を叫ぶ。
「とっとと消えろ!!この、化け物が!!!!」
「化け物」
この世界での俺には決して言ってはいけない言葉をこいつは使った。そして、その言葉を聞いた俺は、
「お前が俺の前から消えろ、【ウインドカッター】。」
【ウインドカッター】を放ち、吉村を魔力切れにさせる。




