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復讐を願う魂と拒絶されし者  作者: 聖天騎士
第二章 動きだした者は止まることを知らず
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第二十話 新たな合同授業内容

「全員揃ったな、それではこれよりBクラスとEクラスの合同授業のやり方を説明する。」


 アンジェリカ先生の声で修練場内の生徒たちは静まり返った。


「今回から野外実習までは一対四もしくは一対五での実戦の連携を確かめるための授業内容にする。」


 この授業内容を聞かされた生徒たちは驚きを隠せずに彼方此方から声が上がるが、


「うるさい、いきなりの実戦で連携ができるわけがないだろう。文句がある奴はこの授業で行動で示せ。」


 そう言われてしまい、周りの生徒たちは黙るしかなかった。どうやら、アンジェリカ先生の言葉に何も言い返せない様だ。


「静かになったな、それでは今から呼ぶ生徒は前に出て来い。コウノ・カズマサ、ライラ・クルギエス、スレイ・ガンドラ、ラッセル・アクルカ、この四名とシゼル・エトワール。まずはこの組み合わせでやるぞ。」


(災厄だな。)


 心の中で愚痴りながら自分が指名されたことに不機嫌になるシゼル。


「四対一だからって手加減はしないわよ、シゼル。」


 逆に何故ライラがやる気なのか分からない位だ。その横にいる光野を見ても手を抜く気が一切ないと思わす程に真剣な目をしているので呆れるしかないシゼル。


「シゼル・エトワール、貴様に言っておきたいことがある。」


 突如として声を掛けられたシゼルは声の主の方を振り向けば長身の男が自分を見下ろしていた。


「貴様は以前に貴族を寄せ付けなかったと聞くが、調子には乗らないことだ。」


「・・・肝に銘じておきますよ、スレイ・ガンドラ様。」


 シゼルの言葉を聞いたスレイは満足したのか先に修練場のフィールドまで歩いて行くと、


「気を悪くしないでねシゼル君、あれはスレイなりの心配の仕方だから。」


「それは分かっていますが、気配を消して後ろから近づかないでくださいラッセル様。」


「ありゃ、気付かれてたか。これは、手ごわいね。」


 シゼルの背後からラッセルが気配を消して背中にしがみつこうとするのを簡単に避けると、何事もなかったように立ち直る。


「スレイは結構まじめで君に報復を考えてはいないから仲良くしてほしいからさ。」


「それは無理ですね、立場を考えたらとくに。」


「・・・そっか、それじゃあ仕方ないね。」


 シゼルがスレイと仲良くできないと悟ると寂しそうに呟きながらも彼の後を追う様にフィールドに走っていく。


(要塞王のガンドラ、土の六大貴族と仲良くするわけないだろ。)


 ラッセルが寂しそうにしていた理由が少し理解できたシゼルだが、自分の目的を曲げるつもりが全くないために何も感じなかった。

 逆にこの学園にほとんどの六大貴族がいると分かったシゼルは内心で歓喜を上げながらフィールドに向かうのだった。






「禁止事項は以前までと同じだから説明はしないがこれが連携の取り方を覚える授業だと忘れるなよ。」


「「「「はい!」」」」


「いい返事だ、シゼルはなるべく相手に連携をできないように動くこと、分かったな。」


「分かってますよ。」


「ならいい、それでは一対四の勝負開始。」


 そう言ってアンジェリカ先生が試合開始の合図を出すと同時に光野が駆け出す。


「先に行かせてもらうよ、水よ、氷の刃となり、顕現せよ。【アイスソード】」


 水の初級魔術【アイスソード】を使い、氷の剣を作り出して切りかかってくる。

 その迫力は剣道をやっていたためにかなり様になっているため、この世界の人間なら確実にその迫力に怖気づくほどであろう。

 しかしシゼルは魔領の森での経験があるために意にも返さずに全てを見切って躱す。それでも光野は攻めるのをやめないでいる。


「コウノ!準備できたわ!」


 光野が攻め続けているとライラが声を上げる。


「分かった、任せる。」


 その声に従い、光野がその場から離れると二つの雷がシゼルに目がけて飛んでくる。

 一つはまっすぐに飛んでくる雷の矢の【ボルトアロー】でもう一つが頭上から落ちてくる雷の【サンダーボルト】だと理解したシゼルはすぐに避けようとするが、


「土よ【サンドウォール】」


 スレイが土の初級魔術【サンドウォール】でシゼルの周りを囲み、逃げ出せないようにした。もちろん、【ボルトアロー】の隙間を残して。


「なるほどな。あいつは囮という事か。」


 どうやら光野が攻め続けている間にライラとラッセルが雷の初級魔術を放つために詠唱するか魔方陣を描くかをし、準備ができたらスレイの土の初級魔術【サンドウォール】で逃げ場を塞ぎ、当てるという連携をとったようだ。

 即興の組み合わせでここまでの連携を見せた四人に素直に感心するシゼル。

 本来なら弾きたいところだがこれが連携を確かめる授業だと理解しているために、


「土よ、我を覆え。【ロックアーマー。】」


 自分の体に【ロックアーマー】を纏い二つの雷の直撃をやり過ごす。


「やっぱりそうしたわね、シゼル。」


「本当だ、ライラちゃんが言った通りになった。」


 二つの魔術を【ロックアーマー】で防ぐことはすでにライラが見抜いていたようだ。彼女はラッセルとともにシゼルに向かっていた。


「スレイ、【サンドウォール】を消して。」


「ふん。分かっている。」


 そうするとシゼルを囲んでいた土の壁が消え、左右からライラとラッセルが、背後からは光野が【アイスソード】を構えており、前はスレイに塞がれ、今度は全員で囲みどこからでも攻撃ができるようになっていた。


「これならさすがに手が出せないわよ、シゼル。」


「・・・確かにな。」


 これはシゼルの本音だった。

 連携を確かめる授業のために手加減しているとはいえここまでの連携をして来るのは予想できなかったのだ。


「そこまで。この勝負は四人の勝ちだ。」


 シゼルが何もできない状態だという事でアンジェリカ先生が試合を止める。


「なかなかの連携だったぞお前ら、特にライラの作戦は見事だった。」


「普通に戦ったら勝てませんけど。」


 アンジェリカ先生の賞賛の声に恥ずかしがりながらも嬉しそうに答えるライラ。どうやらよほどシゼルに勝てたことがうれしいようだ。


「Bクラスの二人もよくライラを信じたな、この試合はなかなか見ごたえのあるものだったぞ。」


「貴族として当たり前の事をしたまでです。」


「シゼル君が手を抜いていたって言うのもありますけどね。」


 スレイは当たり前だという様に答え、ラッセルはそんな彼の様子を見ながら苦笑いで答える。


「コウノはなかなかの切込みだったぞ、しっかりと自分の役割もこなす立ち回りは見事だった。」


「有難う御座います、アンジェリカ先生。」


 どうやら光野の動きはBランクの冒険者から見てもなかなかのものだったようだ。


「シゼルはよく手加減をできたな、わざわざこんな役回りになったっていうのに。」


「やっぱり、狙ってやっていましたか。」


「まあそう言うな、最初は華を持たせてやりたいだろ教師として。」


「俺には持たせる気がない事が分かりました。」


 シゼルに関しては面倒ごとしか押し付けないと理解しているため、この試合は最初から負けるつもりでいた。


「それでは次に移ろうか。次はブライア・グロッカス、ヨシムラ・ショウマ、ナゼラ・イルシア、ボーマス・ナルゼアこの四名とガルべ・ルアードスだ、呼ばれた生徒はフィールドへ来るように。」


 シゼルたちの会話がひと段落したと判断したBクラスの担任が次の組み合わせを急がす。


「見てろよシゼル、ライラ、俺も勝ってくるからよ。」


「勝つのはいいが連携を忘れるなよブライア。」


「どうせ無理よシゼル、このデカブツに何を言っても連携なんてできないわよ。」


「言ってろ、俺だってこの前のことで少しは変わったんだよ。」


 以前までなら馬鹿なことを言って笑われるかライラと言い合いになるかのどちらかでしかなかったがブライアもヘイルとの戦いのときに大きな変化を見出したようだ。


「ブライア、一つだけアドバイスがある。」


「珍しいじゃねえかよ、シゼルが俺にアドバイスなんて。」


「黙って聞け、お前は土の魔力の方が適性があるからできるだけ防御に徹しろ。そして・・・」


「誰かが魔術を唱えるまでの盾になれってんだろ。」


 どうやら自分がどうすればいいか頭では分かっているようだ。しかし、これまでのブライアの行動からすると少し不安を覚えるがそれは彼が感じた変化に掛けるしかないだろう。


「分かっているんだったらそれでいい、しっかりやって来い。」


「おう!ありがとなシゼル。」


 そう言ってフィールドに走っていくブライア。

 そうして自分たちも他の生徒たちがいる所まで下がろうとしたところで、


「分かってるんだろうな吉村、やり過ぎるなよ。」


「うっせえな!俺は自分の好きにやるだけだ!」


「絶対やり過ぎるなよ!!」


 光野と吉村の言い争う声か聞こえてきて、貴族関係以外の問題が起きそうだと嫌な予感を感じながらフィールドから離れていく。





~saidブライア~

「はーっはっはっはっは!弱い!!弱すぎるぜ!!」


 そんなヨシムラって奴のの高笑いの声がフィールドから聞こえてくる。


「ほらほらどうした、そんな程度かよ!【ファイヤーボール】、【ファイヤーボール】、【ファイヤーボール】!」


「ちぃ!土よ、障壁となり、我を守れ!【サンドウォール】!」


 ヨシムラの魔術名だけの複数の【ファイヤーボール】に俺は【サンドウォール】で何とか耐える。


「はぁ・・・、はぁ・・・、くそっ。」


「どうした、だいぶ息が上がっているじゃねえか。早くその足手まといを捨てろよ。」


「うるせえ!てめぇが止めればそれで終わりなんだよ!」


 ヨシムラの言う足手まといは俺の後ろで怯えきって腰を抜かしているガルべだ。

 此奴は試合開始と同時に一人で連携もせずに飛び出してきたヨシムラにいきなり殴り飛ばされ、【ファイヤーボール】を撃たれて魔力切れとなってしまった。

 本来なら魔力切れになった時点で連携など関係なしに試合は終了するのだが、あいつがさらに【ファイヤーボール】を放ちガルべに攻撃してくる。

 魔力切れのためにダメージ変換されなかった痛みのせいで気絶状態から起き上がったガルべだがその痛みのせいで思うように動くことができなかった。

 そこにさらに追い打ちを掛けようとするヨシムラをBクラスの貴族が止めようとするも、逆に返り討ちにあい魔力切れで気絶してしまった為にさらにガルべに【ファイヤーボール】を放つが、この場の状況を見かねた俺が【サンドウォール】で彼を守りだし、今まで一人で守り続けている。

 もちろんアンジェリカ先生も動き出そうとしたがヨシムラが【サンドドーム】で教師を何重にも包み込んでしまい動き出せないでいた。


「それはできねぇな!!【ファイヤーボール】!」


「土よ、岩の様になりて、我を守れ!【ロックアーマー】!」


 【ロックアーマー】を纏った俺は【ファイヤーボール】を拳で砕く。しかし、ここまでガルべに被害が出ないように守り続けていたために体力の消費が著しく、守り切れるかどうかも怪しいところだ。


「まだ耐えんのかよ、めんどくせえ奴だな。」


「生憎と・・・平民は・・・粘り・・・強いんだよ。」


「だったら俺が沈めてやるよ。【ファイヤーボール】。」


「効くかよ!」


 ヨシムラがまたも魔術を放つも、俺は拳で砕く。

 しかし、とうとう【ロックアーマー】の維持に必要な魔力が切れて解けてしまう。


「くそっ・・・、もう維持できねえのかよ。」


 自分の魔力がほとんどなくなり、体力も削られ過ぎたために立つことさえも困難になる俺だが、まだ諦めるつもりは毛頭なかった。


「そろそろ終わらせるな、【ファイヤーボール】。」


「まだだ・・・、土よ、障壁となり、我を守れ!【サンドウォール】!」


 残った魔力のすべてをつぎ込んで【サンドウォール】を放つ。

 俺は自分が少しでも粘りアンジェリカ先生が来るまで耐え続ければいいんだ。。例え、自分が倒されてもやるときはやってくれる教師を信じて待つだけだ。それか別の誰かが助けてくれるまで。


「無駄なんだよ、てめぇの頑張りはよ、【ファイヤーボール】。」


「ぐわぁぁぁぁ!!」


 しかし、渾身の【サンドウォール】さえも切れてしまい、守る術を失った俺に【ファイヤーボール】が直撃する。

 魔力を全て使い切っている俺はそのダメージを受けてもなお、避けようともせずにガルべを守り続ける為に耐え続ける。


「これでとどめだ!【ボルトアロー】!」


 ヨシムラがそう叫び、誰しもが目をそむける中で俺だけは目を背けようとしなかった。

 何故なら自分に【ボルトアロー】が当たる直前、


「へっ・・・、信じてたぜ。」


「お前は無茶をし過ぎなんだよ。」


 何だかんだ言いながらも俺を守ってくれる親友が助けてくれると確信していたからだ。

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