第十九話 新たな授業風景
昨日投稿しようと思って書いていたらいきなりインターネットが切れて書けなくなったため投稿できませんでした。誠に申し訳ありませんでした。
光野たちが転校してきてから二日が経ち、野外実習まであと五日に迫ったEクラスの午前の授業。
「なぜ、迷宮ができたのかは今でもまだ解明し切れていない。それは何故だ、コウノ。」
「はい、研究しようにも迷宮内は魔物で溢れかえっており倒したとしてもまた現れてしまい研究できないでいるからです。」
「正解だ、どうやら異世界の授業にもついてこれるようだな。」
今までの授業では一度も当たらなかった光野にアンジェリカ先生が指名するも、余裕をもって答える光野に感心したように賞賛する。
もともと日本にいたころから光野の成績は良くあれほどの問題程度なら少し勉強すれば答えるだろうと元から知っていたシゼルは全く驚きもしなかった。
「では、迷宮の別名が何か知っているか?」
「・・・ダンジョンでしょうか?」
「やはりそう言ったか、半分正解していて半分間違っている。」
光野が迷宮の別名をダンジョンと答えたことにアンジェリカ先生が顔をニヤリとさせながら答える姿を見て嫌な予感をさせるシゼル。そんな予感はもちろん当たってしまい、
「シゼル、代わりに答えてみろ。」
やはりこれである。
どうやらアンジェリカ先生は優秀な人材がいたら面倒くさがって仕事をその人に丸投げさせるタイプの人だとこのクラスの誰しもが思った瞬間だった。
「元々迷宮は古代遺跡が暴走して出来た物だと認識されていたため古代迷宮と呼ばれています。」
「相変わらずの完答だな。君に分からない問題があるのか逆に悩みそうだよ。」
「こんなもの冒険者なら誰だって知っていることでしょう。」
「魔術学園で古代迷宮という呼び方を知っているなんてなかなかいないぞ。」
笑いながらシゼルの答えに賞賛を送るアンジェリカ先生。そんな教師に最早ため息しか出ないクラスは全員が呆れている。
「え、えっとアンジェリカ先生、どうして古代遺跡が暴走するんですか?」
そんな中、波風は古代遺跡の暴走について質問してくる。
その質問にシゼルはさらに嫌な予感を感じさせつつも席に座る。どうか、自分にあたりませんようにと無駄だと分かる祈りを心の中で祈りながら。
「古代遺跡の暴走についてはいろいろとあるが一番有力な説は迷宮の造りを理解してからの方が分かりやすいからまた後でだな。だが、いい質問だったぞシグレ。」
「わ、分かりましたアンジェリカ先生。」
どうやら今回は助かったと安堵するシゼル。しかし、ここで気を抜いてしまったことに次の瞬間に後悔する。
「だが、せっかくシグレが勇気を出して質問をしたんだ、ここはこのクラスで一番頭が良いシゼルに一番有力な説だけでも答えてもらおう。」
「なっ!」
あまりにも無責任なことを言い放つアンジェリカ先生にシゼルは驚くしかできず、クラスもやっぱりかとため息しか出なかった。
「そ、それはさすがに失礼ですよアンジェリカ先生、せめて別の人に答えさせるかしてください。」
流石に二回連続シゼルに答えさせるのは気が引けると感じた波風が別の人に答えさせるように求める。
「そう言っても、シゼル以外にこれを答えられる奴がいるのか?」
そう言って、クラス全体を見渡すアンジェリカ先生に全員が目をそむけた。それは、自分は知らないと言っているような反応だった。
「そ、それだったらアンジェリカ先生が答えてくださいよ。」
クラス全体の様子を察した波風は弱腰になりながらも今度は教師自身に答えさせようとする。
そんな様子をシゼルは波風を見守りながら祈る、どうか教師自身が答えてくれますようにと。
「私が答えてもいいけど、それじゃあ面白くない。それに、クラスのことを知ってもらうにはこうするのが一番だしね。」
笑いながらそう答える様子に最早祈ることさえやめるシゼル。もうこの結果が見えてしまったからだ。
「そ、それは・・・そうです。」
日本にいたころから弱気だった波風は押しに弱く、周りに流されやすい性格だった。
そのため、今回もアンジェリカ先生に流されてしまい納得してしまう。
「さあシゼル、早く答えなさい。」
「はぁ・・・一番有力な説は古代遺跡に『コア』と呼ばれる物体が出現したことによる遺跡の活性化が原因だとされている。」
「正解だ、やはり知っていたか。」
もはやなげやりな口調で答えるシゼル。
そんなシゼルに最初から予想していたかのような口ぶりで賞賛するアンジェリカ先生。その顔はさらに笑っている。
「本来はそのあたりを詳しくやりたいところだが、もうすぐ午前の授業が終わるためここで中断とする。午後からは合同授業になるから早いうちに準備を済ませろ。」
そう言って先に教室から出ていく教師にシゼルはこれから先も当てられると確信し、溜息を吐きながらも食堂に向かう。
「災難だったわね、シゼル。」
「うるさい。」
食堂でお馴染みのメンバーと共に食事をとっているとライラが面白がってシゼルをおちょくってくる。
「一体何があったんですか?」
「シゼルの奴、アンジェリカ先生に面倒ごとを押し付けられたんだよ。」
「納得しました。」
シゼルの不機嫌さにイリスが心配そうに尋ね、ブライアが簡単な説明をするとすぐに納得してしまった。どうやら彼女もアンジェリカ先生のやり方を見抜いたようだ。
「なんで俺にばかり押し付けて来るんだよあの職務怠慢教師。」
「シゼル君の一人称が変わるほどですか。」
普段は出ない一人称にアンジェリカ先生の授業のやり方が目に浮かぶイリス。その目には同情の目が含まれていた。
「でも仕方ないぜ、シゼルは何でも知ってんだから。」
「そうね、私も迷宮の別名が古代迷宮なんて知らなかったし。」
「迷宮の事ですか?懐かしいです。」
今日の授業内容を思い出し、シゼルの博学ぶりに感心するブライアとライラ、逆にイリスは何かを思い出しているような感じだった。
「イリスは知ってたの?」
「はい、小さいころにシゼル君と一緒に勉強しましたから。」
どうやらシゼルと一緒に勉強していたころのことを思い出して懐かしんでいたようだ。
しかしその記憶もシゼルの中からは消えていることを覚えているようでどこか寂しそうだったのに三人は気付くも何も言えなかった。
「あ、あの。」
そのことで暗い雰囲気になるも突如として自分たちに掛けられた声に四人は振り向くとそこには波風と西沢が四人が座っている席の前に来ていた。
「シグレちゃんにナツヒメちゃんか、いったどうしたんだよ?」
「ちょっとエトワール君に用があったのよ、時雨が。」
「ちょ、ちょっと夏姫ちゃん!それは言わないでって言ったのに!」
理由は知らないがシゼルに用があり二人は訪ねてきたようだ。
もっとも用があるのは波風だけのようでそれを暴露した西沢に顔を赤くしながら怒っている。しかし、その様子はどこからどう見ても怒っているようには見えなく、恥ずかしがっているように見えるため周りから注目を集めてしまっていた。
「早く要件を言ってくれ、周りの視線がウザいから。」
そんな様子に呆れながらも視線を集めてしまっていることにさらに不機嫌になりながらも要件を急がせるシゼルに、時雨は西沢に突っかかるのをやめて、彼女の後ろから恥ずかしがりながらも出てくる。
「え、えっと・・・さっきの授業では力になれなくてごめんなさい。」
「ああ、あれの事か。いいよ別に、気にしたところでどうせ無駄だから。」
どうやらさっきの授業のことで庇いきれなかったことを謝りに来たようだ。
あのことは全面的にあの教師が悪く波風は全く悪くもないというのにどうして謝りに来るのかと疑問に思うも、それが彼女の性格だと思い出し適当に返す。
「そ、それに二日前も席を換わってくれて有難う御座います。」
「わざわざそんなことまで気にしなくてもいいのによ。」
更に席を換わったことまでもが理由だと告げられて呆れた顔で波風を見る。
「エトワール君にしてはそうでしょうけど時雨にとってはそんなことではないの。それに頼みたいこともあってきたわけだから最後まで聞いてちょうだい。」
そんなシゼルの様子に少し笑いながらも波風をフォローする西沢。
どうやら話はまだあるようだと彼女の物言いから理解したシゼルはため息しか出なかった。
基本的の学園内ではあまり日本にいたころの人間と関わるつもりはなく、こうして話しているだけでも虫唾が走るような気分になるためにあまりいい気がしないのだ。それなのにまだ用があると言われたらシゼルにとっては不愉快でしかないのだ。
「ほら、時雨。あなたから言わないと変な人と組まされるわよ。」
「わ、分かってるけど恥ずかしいの。」
二人も会話の内容を聞いているうちに頼みごとが何なのか分ってしまったシゼルは早くここから逃げ出したかった。そんな気も知らないで波風は真っ赤になった顔を落ち着かせるために深呼吸をし、
「わ、私と野外実習の班を組んでください。」
頭を下げてシゼルの予想通りの頼みごとをして来る波風にすぐに断ろうとするも、
「いいぜシグレちゃん、俺たちもあと一人探していたんだよ。」
「そうね、シグレが入ってくれるならちょうど四人そろうし誰も反対はしないわ。」
「ちょ、なんでお前らが答えてるんだよ。」
ブライアとライラが横から入って来て波風と班を組むことに同意する。
「何だよシゼル、お前は反対なのかよ。」
「そんなわけないでしょ、私とシゼルとデカブツ、それにシグレが入ればちょうど四人なのよ?」
さらに自分が自然的に二人と組むことが当たり前の様に言ってくる。そのことに頭を悩ますも、行っても聞かないことを理解しているシゼルに最早逃げ場はないと確信した。
「分かったから頭を上げてくれ、周りの視線がいい加減にうっとおしくなってきたから。」
「え?・・・っつ!!」
シゼルに言われて頭を上げて周りを見渡してみると視線が集まっていることにようやく気が付いた波風は首まで顔を真っ赤にさせながら西沢の後ろに隠れる。
その様子に西沢は優しく笑い、シゼルは頭を掻きながらため息を吐く。
そんな中、イリスは顔を膨らませながらふてくされたように波風を見ていたことに誰も気づかなかった。
「そうと決まれば午後からの合同授業も頑張らないとね。」
「やり方が変わってどこまで安全になったのかは知らないけどな。」
「そう言えばアンジェリカ先生もそう言っていたけどあれってどういう意味なの?」
「何かあったんですか?」
どうやら二人は前回の合同授業で何があったのか知らないようだ。
「簡単に説明すると貴族が私たちに私怨で規則を破って襲い掛かってきたのよ。」
「あの時はシゼルがいてくれなかったら死んでたもんな。」
「同じ貴族として不甲斐無いです。」
「今ので納得したわ。大変だったのね。」
三人の説明で何があったのかすぐに理解した西沢はそれ以上のことを聞かなかった。
「それでも、噂はもしかして本当なのかしら、貴族無双のエトワールっていうのは?」
「何だよそのヘンテコな噂。」
どうやら自分の知らない所で変な噂が飛び交っていることに呆れるシゼル。
「別のクラスに行った友達に貴族をもろともしない馬鹿がEクラスにいるっていう噂で持ち切りだって聞いたいたんだけど知らないの?」
「知らないし、興味もないよ。」
「もう少し気にしてくださいシゼル君。」
「なんでだ?」
学園に飛び交う噂に興味を持たないシゼルにイリスは事情を説明する。
聞くところによると貴族連中が手を組んでEクラスの自分たちに何か仕掛けようとしているらしく最初の標的が自分を狙っている様子だと説明する。
「どこにでもいるのねそう言った貴族っていうの。」
「はい、私は関わるつもりはありませんが数多くの貴族がシゼル君を標的にしているみたいです。」
「今回の合同授業も何か起きそうね。」
「勘弁してくれよ。」
どうやら今回の合同授業も貴族の企みに巻き込まれそうになるようだ。
「関係ないな、そう言った貴族は徹底的に叩き潰すまでだよヘイルの様にな。」
そう言ったシゼルにブライアとライラは笑いだし、西沢と波風は驚いた顔をする。
その中でイリスの顔だけが暗い事には誰も気づかないでいた。




