閑話 呼び出されし勇者たち 後編
教室を包み込んだ光が収まり何が起こったのかを確かめるために周りを見渡してみると、中世の城のような造りの広間だった。
「一体何が起こったんだ?・・・そうだ、ほかのみんなは無事なのか!?」
突如として自分たちが別の場所に飛ばされたと理解するも、なぜこんなことになったのか分からず疑問を呟く一正だが、光が包んだのが教室全体だったことを思い出してほかの人たちの無事を確認する。
「落ち着いてカズマ。ほかのみんなも全員無事だから。」
「夏姫か。よれより、ほかの人たちもやっぱりここに?」
「ええ、どうやらあの教室にいた生徒全員が連れて来られたみたいよ。」
夏姫に言われて周りを再度見渡すと、教室にいた全員が此処に連れて来られたようだと確認する。
「ね、ねえカズマ君、一体何が起こったの?」
「ただ事じゃねえって事だけしか分からんが、あまりいい感じはしねぇな。」
「蒼真の言う通りだな。」
一正が全員の無事を確認するのと同時に、蒼真と時雨も話に入ってくる。
「だけどこれからどうするつもり?今は他の生徒が落ち着けない状況だから何もできないわよ。」
夏姫がそう言うのも理解できる。彼女の言う通り一正たちはなんとか冷静でいられているも、ほかの生徒が不安がったり、いきなりのことについて行けずに怯えている。
このままではいずれパニックを起こして何が起こるかわからなくなるために対策を立てようとしたとき、広間の扉が開かれ、そこから女の人が一正たちの所に駆け寄ってくる。
「勇者の皆様、ようこそアーティスタ王国へ。私はこの国の王女、ルミテス・アーティスタと申します。」
一正たちの目の前で自己紹介をしたのは自分たちと同じ位の歳だと思われる女性だったが、彼女の立ち振る舞い、漂わせている気品、それをとっても王女だと思わせており、男子だけでなく女子までもが見とれている始末である。
ただし、男子が見とれているのはそれだけではない。彼女の容姿に見とれている者がほとんどだった。
金髪で碧眼、めりはりがついた体つき、どことは言わないがしっかりと出ているもの、何よりも彼女が着ている中世風の赤い服装が彼女の魅力を引き出しており、大抵の男子は視線をくぎ付けにしていた。
「すみません、勇者とはどういうことですか?それにここはいったい何処なんですか?」
しかし一正は今の状況を知るためにも彼女に聞きださなければならないことがあるため、彼女に自分が疑問に思っていることを真っ先に尋ねる。
・・・決して一正が後ろから発せられる殺気を思わせる視線を浴びて怖気づき、逃げようとしたわけではない。
「勿論、答えられることには答えていくつもりです。しかし、皆様にはまず、私のお父様に会ってもらいます。」
どうやら現状を知るのはルミテスの父親に会ってからという事のようだ。もちろん一正は彼女の父親に会って、自分たちがどうなったのか少しでも早く聞き出したいと思ってはいるが、
「今の俺たちの安全は保障されていますか?」
今の一正たちは自分たちの身を守るすべがない。ここで彼女について行き、剣などをを突き付けられ無理矢理従わされることを危惧しているのだ。
「勿論保証します。それに、今ここであなた様が考えていることをしないことが証明にも待っています。」
ルミテスが言っている通りだ。もし無理矢理従わせるというのなら今ここでやった方がいいと一正も思った。
(なあ、一応ついて行った方がいいよな?)
(確かにそうした方がいいわね。カズマがくぎを刺してくれたのもあるし、今は彼女について行くしかなさそうね。)
「分かりました、ルミテスさんについて行きます。みんなもそれでいいよな?」
一正が小声で夏姫と相談し、両者が同じ考えであることを確認したのち、ほかのみんなにも同意を得ようと尋ねる。
「勿論だぜ、ちゃんと説明してくれるならよ。」
「わ、私もかまいません。」
蒼真と時雨が二人の考えをくみ、最初に同意していき、それから流れるようにして他のみんなからの同意も得られた。
「俺たちの方は決まったようなので、いつでも構いません。」
「分かりました、それでは皆様をお父様の所まで案内します。」
そう言って一礼をしたルミテスは入ってきた扉へ向かい、その後に一正たちが続く。
「よくぞ来てくれた、召喚されし勇者たちよ。」
ルミテスに連れられてやってきたのは玉座の間というところで、普段は王の仕事部屋のような形で使われており、周りにいる騎士のような人たちもこの国の騎士団らしい。そんな場所で一正たちはこの部屋の中心に集められた。
「私がルミテスの父で、このアーティスタ王国の王、レイブ・アーティスタだ。」
そして、この玉座の間で威厳ある声とともに自己紹介をしてきたのはどうやらこの国の王様のようだ。
年齢は五十歳ほどだと思われるも、威厳ある声と漂わせる雰囲気が年齢による衰えを感じさせないために何人かの生徒が恐縮し、先生までもがその威厳に恐れている節が見られている。
「まずは、君たちを攫うような形でこちらに連れてきたことは謝罪しよう、すまなかった。」
自己紹介を終えた王が事情を説明する前に謝罪をしたことに一正たちだけでなく、周りに仕えている騎士団までもが驚いていた。
「君たちをこの場所に呼ぶように指示を出したのは私だ、ほかの者たちは指示に従っただけだ。恨むなら私を恨んでくれ。」
「なにを言っているのですかお父様!勇者の召喚はアーティスタ王国の希望になるのですよ!」
「どういうことですか?しっかりとした説明をお願いします。」
王様の言葉に娘であるルミテスすら驚いており、事情が分からない一正に至っては何がどうなっているのか分からなくなりつつも、事情の説明を求める。
「すまなかった、最初にしなければいけない話をまだしていなかったな。」
一正の言葉でルミテスに向いていた視線がこちらに向き、事情の説明鵜をしてくれる。
「まず初めに分かってほしい事は、ここは君たちがいた世界とは違う世界であることだ。」
「つまり俺たちは世界を超えてここに連れて来られたという事ですか?」
「その認識であっている。」
王様の説明で自分たちが日本にいた頃に読んだ小説に書かれてあった異世界召喚によって連れて来られたと理解する一正。
「次に君たちを此処に呼んだ訳を話そう。」
そうして一正たちはここに呼ばれたわけを王様から説明される。
このアーティスタ王国があるブリュッセルナ大陸では大昔に魔族と呼ばれる種族が起こした戦乱があり、かなりの被害を出して何とか収めることができ、魔族に壊滅的な被害を与え辛くも勝利し、その戦乱に終わりを告げたが、長き時を得た魔族がその勢力を伸ばしていき昔の戦乱をまた起こそうとしているという。
実際に魔族が行ったとされている被害が多数出ており、このままではまた同じことの繰り返しだと思ったこの国は、昔の戦乱を治めたものが残したたとされる異世界に繋がっていると言われている召喚魔術を使い、勇者とともに魔族を打ち倒す手段に出た。
「君たちを呼んだのは今説明した理由がすべてだ。」
「・・・・・・。」
今された説明に誰も声を出すことができなかった。
今の話が本当ならこの世界で自分たちが戦争に参加させられるために呼ばれたと言っているからだ。
「ふざけるな!!なんで俺たちが戦わなくちゃならねえんだよ!!」
そんな沈黙を破ったのは蒼真の叫びだった。
そして、その叫びから次々に王様を非難する声が相次ぎ、もはや収まるところを見失ってしまったが、
「いいぜ、俺は参加してやるよ。」
騒ぎの中で吉村だけが魔族との戦争に参加すると言った。
吉村が放った言葉はこの場で騒いでいたみんなを黙らせてしまい、お玉座の間はまたも沈黙してしまった。
「ほう、やってくれると申すか。」
「ああ、俺は向こうの世界は退屈だったんでな、こっちの世界で戦争する方が面白そうだしな。」
「馬鹿なことを言うな吉村。俺たちに何ができるんだよ。ただの高校生の俺たちに。」
吉村が戦争に参加する気でいるのを一正は止めに入る。一正からすれば吉村の独断で戦争に参加する気などなく、一人でやらせるつもりもなかった。
「王様、俺達では力になることができそうにありません。ほかのみんなが嫌がっているのもありますし、俺たちの世界では何の力もありませんので戦争に出ても足手まといになるだけですので元の世界に返してもらえないでしょうか?」
そのために一正は戦争に参加するだけ無駄だと告げ、自分たちをもとの世界に返すことをお願いすが、
「う、うむ・・・。君の言っていることも分かるのだが、少々問題があってな。」
「問題ですか?」
「うむ、我々が使ったのは異世界の者を呼び出す魔術でな、違う世界の者を呼び出すことはできても返すことができないのだ。」
「なっ!それでは・・・!」
王様は言いずらそうにしながらも問題を語る。
それは、呼び出すことができても元の世界に返すことができないという事だった。もしそれが事実ならば一正たちはこの世界で生きなければならなくなる。
「なにせ、大昔の戦乱を治めた英雄が魔族の城からとってきたものでな、呼び出すための魔術しかとってこれなかったようなのだ。」
「つまり、魔族の城になら俺たちをもとの世界に返すための方法があると?」
「そう言う事だ。しかし、魔族の城は厳重な警備が敷かれえおる。普通の方法では手に入らぬだろうな。」
しかし、王様の言葉で俺たちをもとの世界に返す方法があると知ったものの、それが魔族の城にあると分かり悩む一正。
みんなを危険にさらしてまで戦争に参加するのは反対だが、魔族の手の中に元の世界へ帰る方法があるためにどうするか考えあぐねていると、
「王様、本当に魔族が帰還の方法を持ってんだろうな?」
「勿論だ、召喚の方法は魔族が持っていたのだ。帰還の方法を持っていると考えてよいだろう。」
「なら俺も参加してやるぜ!みんなをもとの世界に返すためによ!」
蒼真がみんなを押しのけて王様の前に立ち、機関の方法を魔族が持っているかと確認し、王様が肯定すると、自分までもが参加すると言い出した。
「ちょっと待て蒼真!お前本気かよ!」
「当たり前だ!今本の世界に帰る方法がないなら足搔いてでも手に入れて帰ればいいんだからよ。」
「無茶苦茶すぎるだろう。」
一正が慌てて蒼真を止めようとするも、蒼真の屁理屈を聞き、呆れることしかできなかった。
しかし、その屁理屈がほかのみんなを動かす要因になったのか、一人、また一人と戦争に参加の意思を固めてしまった。
「それで、カズマはどうするの?みんな蒼真の屁理屈に乗って戦争に参加しちゃうけど。」
「はぁ、わかったよ、俺も参加するよ。あいつを止められるのが俺だけだろうしな。」
「蒼真らしいわね、もちろん私も参加するけど。」
みんなが戦争の参加を決めていく中で一正と夏姫は二人でこの光景を眺めながらも参加を決める。
しかし、中には戦争に参加しない生徒が混ざっていることを理解している一正はその生徒たちに無理矢理出させないようにするために王様と話し合う必要があった。
「王様、俺たちの意思は決まりましたが、中には戦争に参加しない者もいます。ですので、その人たちだけは戦争に参加させないでください。」
「もちろんだ、戦いが怖いという者に無理をさせてもどうにもならんのでな。」
王様の言葉を聞き、戦争を怖がっていた生徒は周りの雰囲気にのまれなかったことに安心しきっていた。
「これでようやく、次に進めるな。」
「まだあるのですか?」
王様の安心したような口調で語られる言葉にいち早く反応し、何なのかを尋ねる一正。
「言葉のとおりじゃよ、つぎは少し面倒なことをするのでな。」
「面倒なことですか?」
「そうじゃ、これより三日後、君たちにはアーティスタ王国の中でも一番の学園に通ってもらうのだよ。
」
王様の言葉を聞き、一正だけでなくほかのみんなまでも気になって説明を聞いてみると、どうやらその学園は、約一週間後に迷宮探索を行うようで、それに一正たちも参加させるつもりだという事だった。
「その迷宮探索で実戦の感覚をできるだけ身に着けてもらいたいのだよ。いきなり戦争に駆り出しても訳が分からないだろうからな。もちろん、この三日間の間に最低限の戦闘技術と魔術について教えるつもりだ。」
「魔術ですか?」
どうやらこの世界には魔術があるようだが、元の世界で魔術なんてものは架空の存在だったためにあまり実感がわかない。
「やはり、勇者の世界には魔術がなかったか。」
「はい、俺たちの世界ではおとぎ話のようなものだったので。」
「かまわん、知らないことは知っていけばよい。それにこの三日間の間で君たちの属性も確かめるから楽しみにしておれ。」
「はい!これからしばらくの間ですがお世話になります。」
王様と一正。
二人が手を取り握手をしたことで正式にアーティスタ王国に勇者が召喚されたと発表され、その日から三日間の間勇者たちは戦闘技術と魔術の使い方を学びつくしていき、その実力を伸ばしていった。
そして彼らが入ることになっている学園には樟 刹那の転生者がいることを知らずに入学していく。
その入学が樟 刹那が望んでいた復讐をかなえるきっかけになるとも知らずに。




