第十四話 燃え上がる狂気
今回はイリス視点で書きます。
~イリスsaid~
「行きます。水よ、この場を満たし、潤せ。【アクアテリトリー】」
シゼル君がヘイルの仲間を引き付けている間に私はブライア君とライラさんと力を合わせてヘイルに戦いを挑みます。
シゼル君からは無理をしないようにと言われていますが、私はシゼル君があの四人と決着をつける前に終わらせるつもりです。そのために周りを水の初級魔術【アクアテリトリー】を使って水浸しにします。
「ライラさん、お願いします。」
「任せて、電雷よ、矢となりて、わが敵を撃て!【ボルトアロー】!イリス、ブライア離れるわよ。」
「おう。」
ライラさんが雷の初級魔術【ボルトアロー】を使ったのを合図に私たちはヘイルの周りから離れます。
そして、【ボルトアロー】はヘイルには当たらず、外れてしまいます。
「一体何がしたいんだよ君たちは?まさか君たちまでこの俺を舐めてるのか?」
「私たちの狙いも分からない人に全力を出す気はありません。」
「何だグアァァァァァァ!!」
【ボルトアロー】が外れたことで余裕な態度をとっていたヘイルが突如として苦しみだしましたがこれが私たちの計画でした。
「一体何をしたのだ!」
「簡単なことですよ。あなたに気付かれないようにさっきの雷を当てたんですよ。あなたの足元にある物を使って。」
「俺の足元だと?・・・まさか!」
私の言葉でようやく気が付いたヘイルですが、すでに遅いです。
「土よ、わが敵を囲い、閉じ込めよ。【サンドドーム。】」
ブライア君が土の初級魔術【サンドドーム】でヘイルを覆い隠してしまいます。もちろん地面に接している所を所々に開けて閉じ込めます。
「卑怯だぞ貴様ら!水を伝って雷を当てるなど!」
ヘイルの言う通り私たちは【アクアテリトリー】の水を使ってライラさんの雷の魔術を当てています。
「避けられることが分かっていて真正面から魔術を当てに行こうとは思いません。」
「そうよ、それに卑怯っていうならそっちだって霧を使ったり中級魔術を使ったじゃない。」
「それにこっちは初級魔術しか使ってないぜ。」
ライラさんとブライア君の言う通りです。私たちは何の規則違反も犯してはいません。それに比べてヘイルたちは中級魔術を使っていますので明確な規則違反です。
「そろそろ終わらせましょう。電雷よ、矢となりて、わが敵を撃て【ボルトアロー】」
ライラさんが【ボルトアロー】でヘイルにとどめを刺しに行きます。しかし、
「豪炎よ、わが敵を燃やし尽くし、消し去れ。【バーニングバースト】」
ヘイルを覆い隠していた土の壁を【バーニングバースト】で焼き払われてしまい、ヘイルの周りの水も激しい炎のをの熱で蒸発してしまいました。
「これなら貴様らの小細工も意味をなさないだろ。」
炎の中から出てきたヘイルが笑いながら歩いてくる。その姿はまるで狂気に落ちた犯罪者のような笑みでした。
その不気味な笑みを見て一瞬だけ怯えましたが、それでも私たちでヘイルを倒すと心の中で意気込みなんとか気を持ち直します。
シゼル君が来る前にヘイルを倒す、三人でシゼル君に気付かれないように立てた作戦だ。
本来の作戦はシゼル君がヘイルの仲間を倒すまで耐えればいいと言われましたが、私たちは最初からヘイルを倒すつもりでした。
そうしなければなにかとんでもないことが起きる、私の中でそんな予感が拭えないからです。だからこんなことで怯えていけはいけません。
「この作戦がいつか効かなくなることは予想してました。水よ、恵みを宿し、雨を降らせよ【アクアレイン】。」
ヘイルに作戦を破られるも、最初から予想してたことなので私は次の作戦のために【アクアレイン】で雨を降らせます。
「今度は雨か・・・、また無駄なことを。豪炎よ、わが敵を燃やし尽くし、消し去れ。【バーニングバースト】」
ヘイルが雨を一瞬だけ警戒するも、何も害はないと判断し私めがけて【バーニングバースト】を放ってくるも、
「土よ、濁流となりて、激しく荒れろ!【サンドジャベリン】!」
ブライア君が放った土の初級魔術【サンドジャベリン】でうち消されてしまう。
「馬鹿な!なぜ俺の中級魔術が平民ごと気の初級魔術に負けるのだ!一体何をしたのだ!イリス・フロリシア!」
自分の得意魔術が打ち破られたことで驚きを隠せないヘイル。その原因が私にあると直感的に感じたのか睨み付け叫びながら原因を尋ねる。
「素直にそれを教えると思いますか?」
もちろん私は教える気など最初からありません。敵にわざわざ手の内を教える者が何処にいるのかと逆に問いたいですが今はそんな状況ではないので問いませんが。
それに、この作戦はまだ終わっていません。
「電雷よ、天から降りて、敵を穿て!【サンダーボルト】!」
ライラさんが私の【アクアレイン】で発生した雨雲を利用して雷の初級魔術【サンダーボルト】をヘイルめがけて落とす。これが私たちが考えたもう一つの作戦です。
本来の【サンダーボルト】は相手にあたるまでに雷雲を発生させてから発動するために相手にあたるまでの隙が大きいがすでに雨雲が発生していたために雷雲を発生させる必要がなくなり、すぐに狙えるようにするのが私たちの作戦です。
「これで終わりよ!」
ライラさんの言う通りです。これでヘイルにとどめを刺せます。そのために私たちが力を合わせて考えた作戦ですから。
「舐められたものだな、この程度で俺を倒せると思っているのか?」
そう言ってヘイルはさっきの慌てようからは考えられないほど落ち着いた雰囲気を出しながら右手を【サンダーボルト】にあたるように向けると、突如として【サンダーボルト】が右手にあたる直前に消えてしまった。
「そんな、どうしていきなり消えたの?」
【サンダーボルト】が消えたことで戸惑いを隠せないライラさん。もちろん私にも何が起きたのか分かりませんでした。
確かにライラさんの魔術は発動しました。もちろん魔力切れという事でもありません。魔術で防がれたわけでも、避けられたわけでもありません。突如として消えたのです。
そんなことに戸惑っている暇はない事も分かってはいますが、この戸惑いは私も隠せませんでした。
「どうした、次の作戦はないのか?だったらこちらから行かせてもらうぞ!豪炎よ、わが敵を燃やし尽くし、消し去れ。【バーニングバースト】!」
「させるかよ!土よ、濁流となりて、激しく荒れろ!【サンドジャベリン】!」
ヘイルが戸惑っている私に【バーニングバースト】を放ち、それを防ぐためにブライア君が【サンドジャベリン】でうち消そうとするも、
「無駄だよ!さっきの【バーニングバースト】とは違うんだよ!」
ヘイルの言う通り【バーニングバースト】が【サンドジャベリン】を押し返してしまい、その余波が私に直撃しそうになるも、
「水よ、かのものを守り、立ち塞げ【アクアウォール】」
ギリギリのところで【アクアウォール】を発動して余波を防ぎます。
しかし、もう一つの疑問が出てきました。
「どうして急にあいつの魔術の威力が上がるのよ!」
ライラさんの言う通りです。いきなりの魔術消失、そして魔術の急な威力の上昇。
どれもいきなりできることではありません。ましてや、魔術を使わずになんてできるはずがありません。
これでは私が立てた作戦も意味を成しません。そればかりか、魔術が効かないヘイルをどうやって倒せばいいのでしょう?
「俺を倒すことなんて不可能なのさ!だからお前らザコ共は大人しく地面にはいつ下っていろよ!」
「まだ終わってねえよ!土よ、濁流となりて、激しく荒れろ!【サンドジャベリン】!」
ヘイルの言葉をブライア君は否定するかのように【サンドジャベリン】を放ちますが、それは無駄に終わってしまいます。
「だから、効かねえんだよ!これだから平民は醜いんだよ!」
ヘイルが右手を【サンドジャベリン】に向けると、またしても当たる直前で魔術が消えてしまいます。
あれの謎を解かない限り私たちに勝ち目はありません。それに、魔術の威力上昇の謎も解かなければならないといけないので、やることが多すぎですよ。
「だったら同時にいくまでよ!ブライア、合わせなさい!電雷よ、天から降りて、敵を穿て!【サンダーボルト】!」
「おうよ!土よ、濁流となりて、激しく荒れろ!【サンドジャベリン】!」
ライラさんの【サンダーボルト】とブライア君の【サンドジャベリン】がヘイルめがけて同時に魔術を放ちますが、
「いくら魔術を放とうが、俺には届かないぞ!!」
両方ともヘイルにあたる直前に消えてしまいます。
これでは本当に勝つことができません。もしかしたらシゼル君でも勝つことができないかもしれません。
どうして魔術が当たる直前に消えてしまうのでしょう?ヘイルが魔術を使っているならば、対処の使用はありますが詠唱をしている様子も魔方陣を描いている様子も見られません。もちろん、シゼル君の様に素手で魔術を弾いているわけでもありません。
それに魔術の威力が上がっているのもおかしいです。
私が【アクアレイン】を放ったのはライラさんの魔術を当てやすくするだけではなく、ヘイルの魔術の威力を下げるのと同時に、地面を雨水で濡らし、【サンドジャベリン】の威力を上げるためです。
実際にヘイルの【バーニングバースト】をブライア君の【サンドジャベリン】で破っているために効果は確実に出ています。それなのに先程は【サンドジャベリン】が【バーニングバースト】に負けてしまいました。
「そろそろ終わらせようか。豪炎よ、わが敵を燃やし尽くし、消し去れ。【バーニングバースト】!」
「今度こそ防ぐ!土よ、濁流となりて、激しく荒れろ!【サンドジャベリン】!」
「私も手伝うわ!炎よ、壁となり、守りたまえ!【ファイヤーウォール】!」
「私もやります!水よ、かのものを守り、立ち塞げ【アクアウォール】!」
三人で力を合わせて今度こそ防ごうとしますが、今回の【バーニングバースト】もまた威力が上がっており、ブライア君の【サンドジャベリン】を簡単に破り、雨のせいで威力が下がっている【ファイヤーウォール】までも破り、私の【アクアウォール】と衝突します。
「くっ!」
「無駄だ!どれだけ粘ったとしても、どうせ次でやられるんだからな!」
「それでも私は負けません!絶対にあなたを倒してみせます!」
私の【アクアウォール】がなんとか【バーニングバースト】を防ぎますが、ヘイルの言う通り次もまた威力が上がっているかもしれません。
「なら、魔術を使う前にてめぇを倒す!土よ、岩の様になりて、我を守れ!【ロックアーマー】!」
ブライア君が【ロックアーマー】を纏いながらヘイルに直接殴り掛かります。しかしことごとくヘイルはその猛攻を躱します。
「所詮平民だな。魔術で無理なら次は武力か?無駄な足搔きだな。」
「そんなの分かんねえだろうが!」
「いいや無駄さ。豪炎よ、爆ぜてわが敵を、吹き飛ばせ【バーニングバニッシュ】」
「グアァァァァァァ!!」
「ブライア君!」
ブライア君が殴り掛かるも、火の中級魔術【バーニングバニッシュ】を使いブライア君を吹き飛ばす。
【ロックアーマー】を纏っていたことと、ここが結界内であるおかげで大事には至らなかったが魔力切れで気絶してしまうブライア君。
私とライラさんは急いでブライア君の元まで駆けつけ守る様にして立ち、ヘイル君から目を離しません。
「最早これまでだな、大人しく負けを認めろ。」
「いいえ、認めません。まだ私たちは諦めません。」
「当然よ!こんなところでやられる訳ないでしょ!」
「そうか、ではこれまでだな。豪炎よ、わが敵を燃やし尽くし、消し去れ。【バーニングバースト】!」
ヘイルが【バーニングバースト】を放ち、三人でやっと防げて激しい炎が私たちに迫ってきます。
ここで私たちが【バーニングバースト】を食らっても結界があるから大丈夫でしょうがブライア君はすでに魔力切れでくらってしまえば確実に死んでしまいます。
「イリス、規則を破ることになるかもしれないけど全力で防ぐわよ。」
「もちろんです。命より大事なものなんてありませんから。」
ライラさんと規則を破る覚悟を決めるも正直、あの威力を防げるかどうかなんてわかりません。それでもしなければブライア君がア死んでしまうので、何が何でも防ぎます。
そう決意をして魔術を放とうとするも、私たちが魔術を放つことはありませんでした。
何故なら、
「だから、防御に徹して耐えろって言っただろ。」
威力が上がっているはずの【バーニングバースト】を片手で弾いたその姿を見て私は安心と後悔がこみ上げてきました。
しかし、私はその姿を見てすぐに、
「シゼル君!」
魔術を片手で防いだ人物の名を叫ぶのだ。
次は一対四の戦いの方を書きますのでお楽しみに。