第十二話 合同授業前の会話
早くも今年最後となる投稿です。来年も頑張って投稿していきますのでよろしくお願いします。
イリスと語り合ってから一週間が経ち退屈な授業を受け続ける日々を過ごすシゼル。
シゼルのクラスの大半が放課後に居残り勉強と学園の掃除を処罰がようやく終わり、通常授業に戻った日。
「魔族がなぜ戦乱を起こしたのか、それは今も分かっていない。さて何故だ?ブライア・グロッカス。」
「それは・・・解りません!」
「ほぅ・・・。よほど居残り勉強が恋しいようだな。貴様、居残り勉強を聞いていなかったな。」
「うっ!」
シゼルたちのクラスは今、アンジェリカ先生の歴史の授業を受けており、ブライアがまたも居残り勉強の地獄に迫っている所だ。
そんなブライアをクラスのほとんどが笑っている中、シゼルだけは退屈そうにクラスで授業を受けていた。
(退屈な授業だな。師匠と勉強している方がまだましだな。)
アリスと修行の合間に勉強してきたために、学園で習う事の大半を学習しているシゼルはほとんど授業を聞いておらず、窓から外を眺めているだけだった。
「まあいい、私は結果さえ出してくれれば過程はあまり気にしない。だが、貴様はそのまま立っていろ、次はシゼル、答えてみろ。」
「はあ、分かりました。」
ブライアを立たしたままアンジェリカは次にシゼルを指名し答えさせる。
「魔族による戦乱はその首謀者である魔族の者が死に、大敗となった原因になった八人の精霊魔術師とその精霊たちが姿を晦ましたため、真実を知る者がいなくなったと言われているからです。」
「正解だ、良く首謀者の魔族の死も知っていたな。普通の生徒は知らんぞ。」
シゼルの答えの中に魔族の死亡までが入っていたことに驚くアンジェリカ。
何故なら、魔族の死亡が知られてはおらず、普通に調べてもなかなか見つからず、ただの生徒には絶対に見つけられないからだ。
だがシゼルには学園の授業よりも信頼のあるアリスが勉強を見ており、学園で教えられること以上のことを教えるために、一年の勉強程度は余裕なのだ。
「何でそんなこと知ってんだよシゼル?」
「いちいち言うつもりはない。そんな事より、お前はもっと勉強しろ。」
「ちっ、それを言うなよな。」
ブライアがシゼルの知識に疑問を聞くもシゼルは好き好んで言いふらすつもりはなかった。
言いふらしたら、クラス中がシゼルに勉強を聞きに来ることが目に見えているからである。そのためにブライアに聞かれても答えなかった。
「よし、これで午前中の授業は終わりだ。昼休みを挟んでからは、修練場で合同実践授業だ。今回はAクラスとの合同だからな。」
アンジェリカ先生が午前の授業の終わりを告げるとシゼルを含むほとんどの生徒が教室から出て食堂に向かう。
「しかし、本当にシゼルはすげぇよな。」
「何がだよ?」
何時もの様に四人席をシゼルが早々と取り、そこにブライアとライラも座る。あとからくるイリスも加えて四人はあの日から食事を共にしている。
そして、イリスを待ちながら食事をしているとブライアがシゼルを突如として賞賛し始める。
「だってよ、これまでの勉強でお前が分からなかったこと無かっただろ?」
「それがどうしたんだよ?小さいころから勉強してたんだから当たり前だろ。」
「でも今回の歴史で指名された時だってシゼルは普通に調べても分からないこと知ってただろ。」
「確かにね。私も魔族の戦乱のことは知ってたけど、その首謀者が死んでたなんて知らなかったわ。」
どうやら二人からして見れば、シゼルは異常に知り過ぎていることに気付く。
しかし、それをどうこうするつもりはシゼルにはない。知識程度ならほんとに隠すべきことはアリスから口止めされているために言わないが、それ以外のことは隠すのも面倒だと考えているために隠す気が無いのだ。
そんなことを話していると、
「すみません、授業が長引いてしまい。」
授業が終わり食堂に来たイリスはシゼルたちが座る席に座る。
シゼルがこの学園に来た理由を知った後からも、イリスの接する態度が変わらないことをシゼルは疑問に思うことなく普通に接している。
そのことをイリスも感じ取っているのか自分も何事もなかったかのようにシゼルと接していた。
「なあ、イリスちゃん?なんで魔族が起こした戦乱の原因が分かっていないのか判るか?」
席に着いたイリスにいきなり質問をして来るブライア。
「えっと、魔族が起こした戦乱の原因ですか?それって八人の精霊術師が姿を晦ましたから分からないままではないんですか?」
「やっぱりそうだよな。」
「それくらいならシゼル君が知っているはずですよ?」
イリスの答えに同意するブライア。
そんなブライアに疑問が隠せないイリスはなぜ自分に聞くのかと尋ねる。
「イリス、シゼルはねイリスが言った理由以外にも戦乱の理由が謎のままな理由を言ったんだよ。」
「そうなんですか!?」
イリスの疑問にライラが答え、その理由も教える。そして、その理由を知ったイリスがシゼルを見ながら驚きを隠せないでいた。
「落ち着けよイリス、別に驚くことじゃない。ただ、あまり知られていないだけであってちゃんとした理由だから。」
「それでも驚きますよ。いったい何ですか?もう一つの理由は。」
驚きつつもシゼルにもう一つの理由を尋ねるイリス。
シゼルの記憶にはないがその姿は十年前までのシゼルとイリスの関係にそっくりだった。シゼルがイリスの知らないことを言って、それを教えてほしいとせがむイリスの姿が。
「首謀者の魔族が死亡したからだよ。」
「そうなんですか?」
「イリスたちは疑問に思わなかったのか?精霊術師たちがいなくなっても首謀者の魔族がいるのに何でそれが語られていないのかって。」
「「「あっ!」」」
まるで今気づいたとばかりに驚く三人にシゼルが呆れたような目を向ける。
「何でそんなことにも気づかないかな?ブライアは仕方ないとして。」
「おいシゼル、なんで俺だけ仕方ないんだよ?」
「だって、精霊術師のことも答えられなかったから。」
「ぐっ!・・・」
シゼルに正論を言われ何も言い返せなくなったブライア。
それとは逆にイリスとライラは
「確かにそうです。言われてみれば魔族のことが語られていません。」
「そうね。今までの知識が嘘じゃないってことは分かるけど、それとは別に教科書に載ってないこともあるのね。」
シゼルが答えた理由に納得していた。
どうやらブライアはこの四人の中で一番頭が悪いと分かった確定したようだ。
「でも、いつからこの事に疑問を感じていたんですかシゼル君は?」
「何時からって言ってもこの事を調べた時だよ。あの頃は疑問に思っても答えを教えてくれる人がいなかったから師匠に聞くまで分からなかったけど。」
「そんな昔から・・・。」
シゼルの答えに納得するイリス。
「それよりもシゼルの師匠さんって強いだけじゃないんだな。」
「あの人がいなかったら僕はただ知識を知っているだけだったからな。感謝してもしきれないよ。」
「羨ましぜ、今度俺にも紹介しろよな。」
「ブライアは無理じゃない。馬鹿だし。」
「何だと?」
「まあまあブライア君。ライラさんも。」
何かある度にライラがブライアを煽りそれに切れるブライア、それを抑えるイリス。
これが何時もの風景になりつつある事に胸の中に拭い切れない違和感を感じつつも過ごすシゼルは何処か遠いところを眺めながら食事をしていた。
「そう言えば午後の授業はイリスのクラスと合同だったな。」
食事も終わりそうな所でそうつぶやくシゼルに反応する三人、
「そうですね、シゼル君が相手なら手加減無しでできます。」
「僕はあまりやる気がないよ。それよりなんで僕なら手加減無しでできるんだよ?」
「だってシゼル君なら私より強いはずですから。」
やる気に満ちた顔で微笑みながら自分より強いと確信しているイリスはシゼルと戦う気が目に見えてあふれ出している。
「俺は適当にやるかな。どうせ、まともな授業にならねえだろうし。」
「私もかな。イリス以外の貴族はあまりいい感じしないから適当にやり過ごすかな。」
逆にブライアとライラはあまり合同授業には積極的ではないようだ。
「まあそうだろうな。規則で禁止されていても貴族どもはそれを無視して痛めつけてくるだろうし。」
貴族が規則を無視することがを予想しているシゼルは二人の消極的な反応に納得している。
いくら学園側が規則で身分やクラスでの差別を禁止しようとも貴族の方がそれを守ろうとせず、平民などを好きなようにいたぶる。
「同じ貴族として恥ずかしいですよ。本来ならば貴族は平民の模範となるべき姿勢を示さなければいけないのに。」
「それが分かっていないからほとんどの貴族はクズなんだよ。シャインゼル家みたいにな。」
「・・・・・・。」
イリスが貴族の在り方に悲観的なのに対してシゼルは憎しみをぶつけるように貴族を非難する。
シャインゼル家によってつけられた傷の深さはシゼル本人しかわからないことをイリスは理解しているもそんなことを平気で語るシゼルにもう昔のような優しさがない事をいやでも理解させられる。
それでも決意したことが鈍ることがないようにシゼルから逃げないようにして聞き入っているイリスに、
「イリスはそんな事ないもんね。こうやって平民の私たちに話せるもんね。」
「そうだな。俺もイリスちゃんは立派だと思うぜ。」
「ライラさん、ブライア君、有難う御座います。」
ブライアとライラの支持で笑顔を取り戻すイリス。二人の支持が自分がやってきたことが間違いではないことを肯定しているように感じられたからだ。
「だがイリスは良くてもこの前のヘイル・イグニスは絶対に何か仕掛けてくると思うよ。腐っても六大貴族の次男だし、イリスと同じクラスだから。」
「ありえます。あの人はネリテア姉様に昨日まで謹慎処分を食らっていましたから。」
二人のイリスに対する支持を聞き流し、次なる問題に移るシゼル。
シゼルが懸念しているのは前回の騒動で生徒会により謹慎処分を食らっていたヘイル・イグニスが何か仕掛けるとにらみ、それをイリスが肯定してしまう。
「最悪だな。あれはあいつが悪いってのにな。」
「そうよ、ただの八つ当たりじゃない!」
「それが罷り通ってしまうのが腐った貴族の思考能力なんだよ。迷惑な話だよ。」
二人の文句に腐った貴族の考え方を身をもって知っているシゼルが冷静に返して言う。
そんなシゼルは仕掛けるとしたら自分とイリスに対してでブライアとライラには飛び火程度にしか被害が出ないとだと考えている。
あの時の騒動でヘイルが一番に恥をさらしたのはシゼルが【バーニングバースト】を素手で弾いたこととイリスの【アクアウォール】で相殺されてしまったことだと考えているからだ。
後者はともかくとして前者は確実にヘイルの恥になっているために確実に報復が来るであろうとふんでいるシゼルは自分の所為で関係のない者を巻き込まないように策を考える。
そんなシゼルの考えを感じた三人は、
「よし、四人で先に仕掛けるか。」
「そうね、怯えて待つより当たって砕けたほうがまだマシね。」
「そうですね。それの方が潔いというものです。」
「はぁ?」
四人で先にヘイルを叩く作戦を立ててしまう。
「ちょっと待てお前ら、この事で一番恨まれてるのは多分僕だ。なら、仕掛けるとしたら僕なんだからお前らは関係ないだろ。」
そんな作戦に待ったをかけるシゼル。
ここで無駄なお荷物を抱えて狙われてしまうとそれが弱点になってしまいヘイルが隙を突きやすいと考えているため、一人でケリを着けようと考えていたために三人が割り込んでくるのはシゼルにとっては邪魔でしかなかったが、
「たとえ一番恨まれてるのがお前でも一人でやるなんて認めないぜ。原因を辿れば俺達が挑発しすぎたのがいけないんだからよ。」
「そうよシゼル。私たちにだってやり返す権利があるはずよ。」
「それに生徒会に突き出したのは私ですからどうせ私にも何か仕掛けてくるはずです。ならばそれを、こちらが打ち破るまでですよ。」
「お前らなぁー。」
三人の言葉にどれだけ言葉を返そうとも無駄だと悟るシゼルは説得を諦めて呆れるしかできなかった。
「やるなら自己責任だからな。」
それだけ言ってシゼルは自分の残りの定食を食べつくし先に食堂を後にする。
そんなシゼルの姿を見て三人も大急ぎで残りを食べてシゼルを追う。
「ひひひ、どうせ全員俺の炎に焼かれるのに、おめでたい連中だな。」
四人を見て不気味にほほ笑む人物に気付かずに。