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復讐を願う魂と拒絶されし者  作者: 聖天騎士
第二章 動きだした者は止まることを知らず
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第八話 入学と自己紹介

ギリギリで二本目を投稿できました。

 シゼルが学園に来て二日が経ち、今日は新入生の入学式のため全生徒が集められている。


「皆さん。今年もこのアーティスタ魔術学園に入学いただき有難うございます。これからあなたたちにはいろいろな出来事があるでしょうが、クラスメイトと切磋琢磨しあいさらなる魔術への高みを目指してください。」


 風の初級魔術【エコーボイス】を使って全生徒に聞こえるようにあいさつする学園長にはこの学園の長としての威厳ある言葉を語っていた。

 しかしシゼルは、欠伸が出そうだった。ここでのレベルが低いことを分かっており、他と競い合う気が全くと言っていいほどにないからである。

 それでもここに通い続けねばいけない理由がある以上シゼルは、この学園で生活しなければいけないのだ。

 自分の願いである復讐を果たすために。そして、自分の師匠が犯した歴史の過ちを知るために。


「それでは次に、生徒会長からの挨拶です。」


 そう言って学園長は壇上から降り、生徒会長に場所を明け渡す。


「みなさん、おはようございます。私はこの学園の生徒会長、ネリテア・フロリシアです。生徒会長という話しかけづらい立場ではありますが、気軽に話しかけてください。」


(水の六大貴族。しかも水氷姫のネリテアがこの学園の生徒会長だとは・・・。やはりこの学園にいたか。)


 六大貴族がいることにシゼルは内心で興奮する。ここにはあの貴族もいるかもしれないという期待が高まったからだ。

 もっとも、すぐには仕掛けるつもりはないがと考えていると生徒会長の挨拶が大変なことになる。


「今年の入学式ではなんと・・・私のかわいいイリスちゃんが入学してきます!!!」


 その叫び声を聞いた瞬間、全生徒の動きが止まった。


「私の天使のイリスちゃんがようやくですよ!!!ようやく同じ学び舎の下で勉強するんですよ!!!もう、私は天にも昇りそうですよ!!!ああ、こんなことなら私も今年で卒業と言わずに今年から入学したいですよ!!!私の妹と一緒に勉強したい!!!あんなことやこんぐはっ!」


「えー、すみませんね。生徒会長が壊れたので副会長の私、アリテス・フォールカスが挨拶いたします。誰か、生徒会長を縛って、木にぶら下げておいてね。」


 明るい笑みで生徒会長の扱いがひどいのは、緑の髪をはためかし、少しおっとりとした雰囲気を醸し出して入るも何かをたくらむ笑みに引き付けられるような感じを醸し出す女性、アリテス・フォールカス。


「ごめんなさいね。普段はこうではないのだけれども、たまに壊れるから気をつけてね。」


 生徒会長の評価が一気に下がった瞬間だが、副会長はそんな評価を気にすることなく挨拶を続ける。


「皆さんのアーティスタ魔術学園入学おめでとうございます、会長共々心待ちにしておりました。これからの皆さんの学園生活が、かけがえのない思い出になる様に生徒会も尽力を尽くしますので是非気軽にお声をおかけください。」


 人を引き付けるような笑みで挨拶をし、この場の空気を換えてしまった副会長。実際に引き付けられたものもいるようだが・・・。

 しかしシゼルは、あいさつなど聞いておらず、ずっと考え込んでいた。


(風の六大貴族、風絶姫のアリテス。まさかこの学園にそんな大物が二人もいるなんて。これはますます期待できそうだ。)


「それではこれにて入学隙を終わりますので皆さんはそれぞれの教室に向かってください。」


 学園長がそう言いようやく波乱(?)の入学式が終わる。

 木にぶら下げられている生徒会長に目もくれずに。





 学園の中を移動し、自分の教室である1-Eの教室に付いたシゼルは目立たないように一番端の後ろから三番目の席に座って時間を過ごしている。


(教室の中は向こうの世界とほぼ同じつくりか。まあ、どうでもいいか。どうせここの生徒たちとも仲良くできないだろうしな。)


 前世では、理由も判らずにイジメの対象になっていたために仲良くすることを諦めているシゼルは、誰ともつるむつもりはなかった。

 

「傷つけられるくらいなら最初から関わらなければいい。」


 そんなことを思ったのはいつのころだろうかと黄昏ていたシゼルに


「てめぇは何黄昏てんだよ。」


 いきなり背中をたたいてきたのは、茶髪で髪の毛が立っており、どこでもいそうなやんちゃ坊主風の男だった。


「よう、俺の名前はブライア・グロッカス。お前は?」


「シゼル。」


 シゼルは自分の家名を言わなかった。

 言ってしまえば面倒ごとになることが確実だと分かっているからだ。


「何だよ、せっかくこの学園に入れたんだからよ。もっと明るく行こうぜ。」


「僕は君ほど明るくいられないよ。」


「つまんねえ奴だな。じゃあこの話題は知ってるか?今回の推薦枠にエトワールが入ってることわよ。」


 もちろんシゼルはよく知っている。何せ自分の事なのだから知らないはずはない。


(まあ、自分から教える気はないけどな。)


「そういうのも興味ないから知らないよ。たとえいたとしても上の方のクラスだと思うけど。」


「まあ、普通はそう思うだろうけどな。だが今回は違うぜ。なんたって、そいつはこのクラスにいるって情報科の連中が騒いでいたからよ。」


「面倒な騒ぎだな。もっと静かに騒げないのかよ。」


「それは無理だろうななんたって・・・」


「なんたってそいつはかの有名なドラゴンキラーの一番弟子と来てるからね。」


「おい誰だ!俺が言おうとしたのによ!」


 ブライアガが言おうとした言葉を横から言い放ったのは赤い髪を肩の位置くらいまで伸ばして少し少年ぽさがある女子だった。


「私はライラ・クルギエスよ。よろしくね。シゼルにブライア。」


「よろしくはいいが人の言おうとしたことを取るなよ。」


「あんたが遅いからよ。がたいがいいだけのデカブツ。」


「言いやがったなこの貧乳女。」


「地雷を踏んだわね、このデカブツ。」


「うるさい。静かにしてろよ。」


「「・・・・・・。」」


 あのままでは二人が喧嘩しそうだったのでシゼルが横から声をかけ二人を黙らせる。

 そんな平常運転のシゼルに毒気が抜かれた二人はすぐに冷静になる。


「こんな状況でよく平気でいられるわね、曲がりなりにも私たちは魔術師よ。慌てたりとかしないの?」


「俺もこの女の意見に同意だな。なんでそんなに冷静でいられんだ?」


 魔術師の喧嘩とは一歩間違えればどちらか片方が死んでしまうという事はよくあることで、巻き添えを食らう人からすればたまったものではないはずなのに対してシゼルには全く怯えるそぶりがなかったために二人は疑問に思いシゼルに聞いてみる。


「魔物の殺気よりかはましだろ?所詮人間はその程度ってことだから。」


「「それは違うと思う。」」


「そうか?僕はそうだと思うが?」


 シゼルの言ったことに対して二人が息を合わせて答える。


「ああ、その歳で魔物の殺気を知ってるのがおかしい。」


「私たちが魔物と比べられるのがおかしい。」


 シゼルたちの歳ではまだ戦闘訓練を受けている歳で魔物と戦うなんてことは早すぎるくらいだ。

 そんなことを言っているうちに、


「1-Eの生徒諸君座りたまえ。これより授業を開始する。」


 1-Eの担当の先生が入ってくる。


「よし全員揃ってるな。私は冒険者ランクBのアンジェリカ・カプレラーナだ。これから一年間貴様らの担当になる。まどろっこしいのは嫌いだからさっそく始めるぞ。」


 そう自己紹介した人はシゼルの見立てではかなりの使い手だと思っている。


(あれほどの使い手で冒険者ランクがBだとは。)


 少なくとも今のシゼルでは手札を一、二枚は切らされると思っている。


「よし、それじゃあまずは自己紹介から言ってもらうぞ。全員一人ずつ名前と適性属性。もちろん名前は家名も入れろよ。それじゃあ廊下側から。」


 そう言って自己紹介を始めさせたアンジェリカ。

 そしてこのクラスはシゼルの予想した通り平民がほとんどだった。中には貴族もいたがそいつはその貴族の中でも期待されていないものが多く、この学園で見返そうとしている者たちばかりだ。

 そうしているうちにブライアに順番が回ってきた。


「俺の名前はブライア・グロッカス。適性属性は土属性と無属性だ。よろしくな。」


 ブライアが無属性であることを隠さずに紹介するとクラスがブライアを見る。

 このクラスには訳アリ貴族などが数名いたが未だに無属性と闇属性は出ていなかった。言ってしまえば嫌われることが目に見えているために適性があったとしても誰も言おうとしないのが普通だからだ。

 それに対してブライアは自分から言ってしまっている。これでは学園生活を捨ててしまったのと同じだからだ。


「俺は属性で差別するようなやつとは友達になるつもりはない。だから自分で無属性だって言ったんだ。だから俺と真っ向から向き合える奴だけでいい。俺はそいつとだけ仲良くなるからよ。」


 ブライアの言った一言にクラスは黙るしかなかった。

 このクラスで一番境遇が下になるかもしれないのに自分からそんなことを言い放ったブライアに誰も意気込みで勝てると思わなかったからだ。

 たった二人を除いて、


「へえぇー、少しは骨のある奴がいるのか。いい覚悟だぞブライア。その意気込みを忘れるなよ。」


「有難う御座います。」


「それじゃあ次。」


 そしてとうとうシゼルの番が来てしまい諦めたようにして立ち上がり、


「シゼル・エトワール。適性属性は八つ全部。質問疑問意見等は一切受け付けていない。」


 自分の自己紹介を簡潔に終わらせ質問が入る前に座る。

 そんなシゼルにクラスはブライアの時以上の静けさに包まれる。

 そんな沈黙を破ったのはただ一人動揺しなかった


「お前があの神速のドラゴンキラーの弟子か?もう少し何かないのか自分の自慢話とかな?」


「ないです。たとえあったとしてもしませんよ。」


「蛙の子は蛙とはまさにこのことだな。ドラゴンキラーにそっくりだよお前は。」


「そうですか。それより次に行ったほうがいいのでは?」


 次の人を急がすシゼル。

 だがシゼルの思い道理には行かなかった。


「おいシゼル。てめぇなんで黙ってたんだよ?なんでテメェがよりにもよってエトワールなんだよ!?それに適性属性が八つ全てだと!?俺をあざ笑いながらさっきの聞いてただろ!?」


「そうよシゼル。このデカブツは仕方ないとしてどうして私に教えなかったの?」


「てめぇやるのか!?この貧乳女!」


「上等よデカブツ!」


「うるさい。黙れ。面倒だ。そして質問に答える気はない。」


「「・・・・・・。」」


 シゼルが今話題のエトワールの弟子だという事を問い詰めている途中でまた喧嘩を始めそうだったためにシゼルがまた黙らせ、事情の説明も拒む。


「無駄だ二人とも。そいつがドラゴンキラーの弟子なら面倒ごとを嫌うはずだ。だからいくら言っても聞かんぞ。そんな事よりも次だ。」


 アリスのことを知っているアンジェリカはいくらシゼルに事情を聴いても面倒だから答えないと分かりきっているために次に急がせる。


「納得はしないけど分かりました。私はライラ・クルギエス。適性属性はシゼルの後じゃ目立たないけど火属性と雷属性と光属性の三つです。」


 最後にライラが自己紹介をしたことで全員の自己紹介が終わった。


「よし、全員終わったな。それじゃあ今日は適当にしゃべって解散するぞ。ちなみに食堂が開いてるから飯を食いたい奴はそっちに行ってもいいからな。じゃあな。」


(この状況でそれを言って出ていきますかあの先生は。最悪だな。)


 そう思いながらシゼルは衝動に行こうと立ち上がるが、


「ちょっと待てシゼル。いろいろと説明してから行けよ。」


「そうよ、シゼル。みんな聞きたいことがいっぱいあるんだから。面倒だとは言わせないわよ。」


 シゼルの道を塞ぐようにしてクラス全員がシゼルを取り囲む中でシゼルは、


(だから学園なんて嫌いなんだよ!)


 心の中で叫びながら脱出の方法を考える。


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