第七話 入学前の邂逅
「転移完了と、ふぅ。」
魔領の森からの転移を終えて一息つくシゼル。
転移した場所は王都のはずれの森の中だ。いきなり王都の中に現れたら不審者扱いでいきなり捕まってしまうので王都に来るときはいつもこの場所に転移している。
それに今は王都に入る前に心を落ち着かせたかった。
「師匠を母さんって呼んでしまったか・・・。改めて思うと恥ずかしいな。」
自分がアリスに対しての呼び方に対して恥ずかしかっていたからだ。そのために今は少しでも落ち着きたくしばらくは動けないでいた。
「まあ、もう今更だし。そろそろ行きますか。」
そう言ってシゼルは王都に向けて歩き出す。
「まて、そこで止まるのだ。」
王都の門の前まで来たシゼルは門番に止められる。
「身分証明を出すのだ。」
「持っていません。」
「ならば少し待て。貴様に犯罪歴がない確かめるのでな。」
「分かりました。」
「すまんな。これも規則でな。」
ちなみに門番はシゼルのことを知っているが、門番としての仕事があるために犯罪歴を確かめるためにそれを確かめる道具を持ってくる。
「何時もの様にこれに手をかざしてくれ。」
門番が持ってきたのは透明な水晶でこれは、真意の水晶と呼ばれている。
これには光の魔力が込められており使用者が犯罪を犯していれば黒く染まり、何もしていなければそのまま透明な状態のままになる水晶で誰かがこの王都に入る際に確かめられる。
ちなみにこの世界では盗賊たちを殺しても犯罪にはならないためギルドでは盗賊討伐の依頼もある。
そのためにシゼルはここに来るたびにこれを受けている。もちろん今は水晶は光らない。
「いつも道理の結果だな。入って良し。」
「有難う御座います。」
門番からの許可も下りてシゼルはようやく王都の中に入るのだった。
「王都はやっぱり広いな。それに人も多いしいろいろと面倒だな。」
王都はアーティスタ王国の中でも一番栄えていると言われてるために当たり前のことだが、シゼルはもともと人混みが嫌いであまり好き好んでいたくないため、自分の用事は早く終わらせてしまう。
「でもしばらくはここに住むからこれにもならないといけないんだろうけどそう考えると憂鬱だとな。」
シゼルは二日後からはここの魔術学園に通うために嫌でも人混みにいるためいろいろと諦めるしかなかった。
そのために今のうちに慣れようと王都の中で歩き回っている。
今のこの場所に慣れるためと今まではゆっくりと王都を回れなかったために王都の風景を目に焼き付けている。
そんなことをしているとお腹が減るのを感じ、
「すみません、パンを一つください。」
「はいよ、銅貨二枚だよ。」
「銅貨二枚ですか。どうぞ。」
「毎度あり。」
近くにあった店で朝食をとる。
この世界のお金は銅貨<銀貨<金貨の順になっている。
銅貨が百枚で一銀貨と同じ価値になり、銀貨が百枚で一金貨と同じになる。
シゼルはアリスと依頼をこなしており、その分け前をもらってお金にしているために、普通の冒険者より稼いでいる。
「おいしいですよ。」
「おう、ありがとな。そっちは冒険者か何かか?」
「いいえ。二日後に魔術学園に入学するので。」
「それなら急がんとな。たしか、制服の受け取りが今日までのはずでぞ。」
「それはありがとうございます。」
アリスからは制服は現地調達と言われていたシゼルは相変わらずのいきなりの行動に呆れつつも店の人にお礼を言い学園に向かう。
(相変わらずあの人はいきなりすぎるだろうが!もし今日、制服が手に入らなかったらどうするんだよ!)
アリスに対する文句を思いながら。
王都を見渡しながら学園に到着したシゼル。
「二日後から入学するシゼル・エトワールです。制服を受け取りに来ました。」
「シゼル・エトワール様ですね。確か推薦枠でしたね、少々お待ちください。」
そう言って受付にいた人は学園の中に向かった。
(制服をもらいに来ただけなのに一体何があるんだよ。面倒ごとなら制服だけもらって逃げよ。)
そう思っているとさっきの受付の人が戻ってきたがそこには、もう一人連れていた。
「君がアリス・エトワールの弟子だと言われているシゼル・エトワール君だね?」
「そうですが、師匠がどうかしましたか?」
「いいや、私が興味あるのは君の方だよ。」
そう言ってきた人物はまだ年端もいかない女の子で白い髪にシゼルと同じで黒を主張としたゴスロリ風の服を着ており、耳が少しとがっている。
「私の自己紹介をしよう。私はナシェル・アーティラル。ここで学園長を務めてる。」
「エルフ族とドワーフ族のハーフといったところですか。」
「まさか初見で見抜かれるとは、これはますますあの小娘の弟子だというところか。」
シゼルが一目で自分の種族を見抜いたことに驚くナシェル、そんなに意外かとシゼルが首を傾げていると。
「ちなみに聞くが、どうやって見抜いた?私の種族を。」
ナシェルが興味津々のまなざしを向けて来るので面倒だと思いながらも説明するシゼル。
「学園長、外見が意味をなさいのは師匠を見ていてわかります。そしてあとは、種族の特徴を合わせた結果が答えですよ。」
「いや、まさにその通りだよ。シゼル君は賢いな。」
「それはよく言われますが、そろそろ本題に入ってください。早く宿を探さないといけませんので。」
シゼルが用を急がすとナシェルは観念したように真面目な顔をして本題に入る。
「本題は君のクラス分けのことだよ。本当にあれでよいのか?君の才能なら・・・。」
「いいんですよ。僕はここで精霊と契約するつもりはありませんし。上を目指す気も今はありません。」
「そうか、なら遠慮なく君をEクラスに入れるがよいな。」
「かまいませんし、寧ろそうしてください。」
本題はシゼルのクラス分けの事だった。
この学園はSクラス、Aクラス、Bクラス、Cクラス、Dクラス、Eクラスの六つのクラスがあり、AクラスからCクラスまでは精霊と契約できる才能がありと見込まれたものが入っており中には、精霊と契約できている者もいるほどのクラスであり、Sクラスに至っては全員が精霊と契約しており精霊魔術まで会得しているほどの生徒が大勢いるクラスである。
その中でシゼルはこの学園で最も底辺な位置にいるEクラスを選んでおりこのクラスは精霊と契約できないが魔術を人並み以上に仕えるだけの生徒が集まったクラスであり、差別の対象になっているクラスだ。
「君のような才能の持ち主がEクラスとは少し楽しみですよ。これからの学園生活が。」
「それは分かりましたがそろそろ制服をもらえませんか。そろそろ宿を探さないとまずいので。」
「それなら問題はないよシゼル君。君にはこれからの寝泊りする場所は学園の男子寮になるからね。」
「それは本当ですか・・・?」
「ああ、この学園の規則でね。しっかりとこの学園の規則を守ってもらうよ。」
そう言ってナシェルはこの学園の規則をシゼルに説明する。
一、門限までに自分の部屋に戻ること。門限は夜の十時までとし、外せない用事があるならば寮の管理人に事前に報告しておくこと。
二、学園内では自己防衛以外では基本、魔術を使ってはならない。ただし、決闘申請を出しているならば決められた場所でのみ魔術の使用を許可する。
三、奴隷を連れることを許可する。ただし、奴隷がしたことは主人の責任になるので連れるときは覚悟すること。
四、この学園の生徒である限り長期休暇以外は王都外へは出られない。もし出たいのであれば、学園長からの正式な許可が必要となる。
五、この学園内では身分は関係しない。もちろん、クラスによる差別もするべからず。している所を見かけたら即罰する。
六、上記の規則を守り、規則正しい生徒であろう。規則を破るものを見かけたら即、先生方か学園長に報告してください。
「基本的な規則は以上です。何か質問は?」
「ありまくりですよ、学園長。」
「やはりですか。風評被害とは悲しいものですね。」
「事実、全く規則の意味をなしていないのが現実的な問題ですがいかがでしょうか、学園長?」
シゼルが言うように、規則では貴族も平民も差別はなく、クラスによる差別もしないとあるが、実際の問題は全くそれが役に立っていないのだ。
貴族はその権力で下のものに暴力などを振っており明らかな規則違反ですらもみ消してしまうために罰することができないのだ。
「なにか無いのですか?規則を取り締まる集まりみたいなものは?」
「生徒会がそれを担っているのですが傲慢な貴族がそれに入ってるために取り締まりも効果を発揮していない状態ですからね。唯一、生徒会長が厳しく取り締まっているためにまだましですが、来年はそうもいかないでしょう。」
やはり今の学園も腐っているようだと確信したシゼルだった。
本来そう言った役割を担っている集まりならば、公平な判断力を持ったものが入らなければ意味をなさないものだというものをナシェルも判っているはずだろうに。
「やはり実力主義にしたのが間違いでしたかね?」
「絶対にそれのせいですよ学園長。まさか原因が学園そのものだとは・・・。せめて生徒会はまともな判断力がある生徒で固めなければいけませんよ。」
訂正しよう、この学園長は分かっててやっていた。
「それはそうなんですが、やはりこの学園でそういった生徒を見つけるのは難しいですよ。」
「それはそうでしょうね。学園長が公認で実力主義を掲げていますから。」
「私は目指しているのは限度ある実力主義者ですよ。力はいくらあっても困りませんが、使い方を間違えればそれは諸刃の剣となるのですから。だから私はここで力の使い方を身に着けてほしいのですよ。ですが、結果がこうでは・・・。」
どうやら学園長には自分の信念があり、この学園で実力主義を掲げているようだがそれの結果が伴わないことに苦悩しているみたいだ。
「そこまでわかっているのでしたら何故?」
「無論、この事は今の生徒会長も知っていますけれど実質的な問題で一人ではすべてを捌き切れないといったところですよ。いい人材がいないのも一つの問題ですが。」
やはり学園長はこの学園における問題を全てわかっていて手を出していないようだ。さすがに無視できない状況になれば手を出してはいるようだが、それでは問題の繰り返しでしかないことも判っているはずだ。
「もしかして学園長は、生徒で何とかすべき問題と考えていますか?」
「ええ、そうですよ。先生という逃げ場ができてしまうことは避けねばならない問題なので行き過ぎた行動が出るまでは相談に乗るくらいしかしていません。そうしなければ、下のものは前に進めませんから。」
その考えには理解できるシゼルだった。
何故ならシゼルもそうやってアリスに鍛えられ、魔領の森の魔物たちに勝てるくらい強くなってきたからだ。
「学園長と師匠は考え方が似てるんですね。」
「それは当然だ。アリスは私の教え子だからね。アリスが君くらいのころから私はアリスにいろいろと教えていたよ。」
「なっ!そんな昔からですか!?」
アリスと学園長の間にまさかそんな繋がりがあったとは思わなかったシゼルはその事実に驚きを隠せないでいた。
もしこれが事実だとしたならば、自分が知りたいことをこの人は知っているかもしれないからだ。
「もしかして学園長は師匠のことを・・・。」
「当然全て知っているが、話す気はないぞ。もちろん恨んではいるがな。」
やはりそう簡単に真実にはたどり着けないようだ。
だが、学園長は師匠のことを恨んでいる。それだけ分かれば少しは師匠のことが少し理解できた。
昔に師匠がした過ちについてのことが。
しかし、今はそれよりも先にやらねばならないことがある。
「学園長。そろそろ制服をいただけませんか。」
「・・・すまん。話に夢中になって忘れていた。」
(やっぱりこの人、師匠の師匠だ。すごく安心するな、いろいろと。)
アリスと似ている所を見つけ、うれしくなるシゼルはようやく制服を受け取る。
そして、学園の男子寮に向けて歩き出す。
ここでの学園生活が少し楽しみになりながら。