朝食と姉妹喧嘩
それはまるで犯罪者を見る目だった。
クラリスの刺すような視線が、突き刺さった。
食卓にはおいしそうなパンとリンゴのような果物、温かい湯気を出しているスープが置いてあった。
ほかにはカップに入った牛乳のようなものが置いてある。
早く口に入れたくなる衝動に駆られるが、クラリスの目線がきになり手を出せなかった。
もちろん彼女は下着姿ではなかった。
昨日来ていた青いワンピースに着替えいた。
姉とおそろいで似合っていると真剣に思うが、それを口に出す勇気はない。
この家の構造を知らないのでわざとではなかったことは伝わっているだろうが、感情が納得できないだろう。
ソフィも困った顔をしている。
案の定クラリスは俺から目線を話すとすぐに朝食を食べ始めた。
パンと果物と口にほおばると、スープで無理やり流し込む。
がつがつと男らしく。
「もっと、ゆっくり食べなさい」
ソフィの注意が入るが、まったく聞いていない。
クラリスは牛乳らしい飲み物を飲み干すと
「ごちそうさまでした!」
カップをたたきつけると当時に立ち上がる。
「姉様、今日から私が祭壇をみてくる役目なのよね?」
玄関わきに置いていたナイフと革製の胸当てをつけ、弓と矢筒を背負って聞いてきた。
ソフィは迷ったような顔をしていると、
「そのことなんだけど、もっとしっかり話し合わない?」
心配そうに聞いたのだった。
クラリスは顔を横に振りながら、
「いやよ!
姉様、わたし15才になりましたよね?
成人したら守り人の役目は私が引き継げるのよね?
私にはお役目があるから、神様が来たら私に任せるって言ってたわよね?」
「そうはいったけども、心配なの。
絶対に安全とは言えないし、魔物だって出るかもしれないのよ?」
魔物?
聞き捨てならない単語が出てきたが、声をかけられる雰囲気ではない。
「それなら、大丈夫よ!
私だって戦えるし」
背負っていた弓をかけなおし、腰からナイフを取り出し刃を確認しながらいう。
「それに、約束通り町長のブラウンさんの許可もいただくし、ケビンとも一緒に行くわ。
姉様とも何度か一緒に行ったけど問題なかったでしょ!」
「それはそうだけども、本当に無理はしないでね。
ケビンの言うことをよく聞いてしっかりやるのよ?」
ソフィは不安そうに許可をだしたのだった。
クラリスは最後に俺をにらみつけて
「行ってきます!
神様、姉様に何かしたらわかっていますね!」
と、言い放ち勢いよく出て行ったのであった。
「まったくあの子は・・・・」
ソフィは妹を見送るとため息を吐いたのだった。
彼女は俺と目が合うと、にっこり笑い、
「さぁ、食べないうちにどうぞ」
少し冷めてしまった朝食を指さして、促すのだった。
クラリスが出て行ったこともあり、食欲が戻ってきたのかパンにそのまま齧り付く。
うまかった、とにかくうまかった。
果物をほおばる。
果汁が口に優しく広がった。
味はまんまリンゴである。
「うまい!」
口に出した俺を眺めていたソフィは安心したように微笑むと、
「お口にあってよかってです。
何か苦手なものがあったら言ってくださいね。
もし、苦手なものが出ていたら残してくださいね」
「大丈夫。
俺好き嫌いないはずだし、アレルギーもないから」
すると彼女は首をかしげると、
「あれるぎー?」
と、聞き返してきた。
この世界ではアレルギー反応が認知されていないのか?
記憶が確かなら俺の現代社会でもアレルギーの根本的な原因などは解明されてなかった気がする。
言い方を変えてみる。
「食べたら、かゆくなったり、息苦しくなったり、最悪の場合死んでしまう食べ物のことだ」
彼女は納得した顔をして、
「あぁ、マナ酔いの食べ物のことですね?」
マナ酔い?
逆にこっちがわからない言葉が出てきた。
「マナってなんだ?」
「マナは世界に満あふれた力の元で、どんなものにも入っています。
様々な特性をもっているのですが、火、水、風、土、光、闇のマナが有名ですね。
魔法が使えるのもマナのおかげです。
マナ酔いは自分に合わないマナを過剰に取り込むことによっておこる現象ですね」
ファンタジー感が半端ない答えが返ってきた。
昨日魔法のようなもので助けられたし、杖持ってたしでわかっていたが、やっぱりここは剣と魔法の世界らしい。
猫耳もあるしね!
「魔法って誰でも使えるのか?」
興味をもって聞いてくる俺に優しげな目を向けると
「さすがに、朝食が覚めてしまいますよ神様。
私は逃げませんから、先に食べてしまいましょうね」
腹の虫もその声に賛同してぐうぅうと鳴ったのだった。
スープもすごくおいしかった。