第8話
■■透■■
「今宵、最もロックな時間届けるわ!」
奏がそう言い、彩がカウントを取る。
そして、演奏開始!1曲目は、12時の鐘が鳴る迄に。
ゲリラライヴの時、3曲目にやろうとしていた曲だ。
ギターの歪みは軽めに、リズム隊が際立つ曲だ!
その所為なのか、宗次郎と彩がRe:startの次に気に入ったと言い覚えてきた。
「一丁、派手にかまそうぜぇぇぇぇっ!!」
俺はそう叫び客を煽り、客席から声が上がる。
「足りないわ!そんなんじゃ、まだまだ足りないわよ!もっとよ!もっと、声出るでしょうっ!?」
続けに奏がそう言い、さっきより大きな声が上がった!
よし、良い感じだ!このまま、突っ切ってやる!!
少し前へと出て、奏とピッタリ並び、奏のマイクへと口を近付ける!
そして、お互いの顔も口も密着寸前の状態になる。奏の歌声に合わせてハモる!
……。
………。
「ところで、透!貴方、歌わないの?」
奏と2人で練習している時、突如そんな質問された。皆は少し遅れるとの事。
「あん?自分で歌うんだったら、わざわざお前をバンドに引き込まないって」
「勿体無いわね!充分に上手いと思ったけれど…」
「嫌味かよっ!?」
いくらなんでも、奏には勝てないだろ。……というか…。
「ん〜、俺さ…」
頭を掻きながら口にする。
「ギターソロもそうなんだけど、必ずしも弾きたいとか入れたいってタイプじゃないんだよなぁ!」
「あら?そうなの?」
「必要と感じれば作るし弾くけど、そうじゃなけりゃ特に拘りはないんだよ!もしかしたら、歌うのもそういう感覚なのかも」
しかも、俺はヴォーカリストってよりギタリストって意識が根強くあるから、余計にそう感じてるのかもしれない。
「要するに必要性があれば歌うと?」
「まぁ、奏が居るんだったら必要性ないけどな…」
「高く買ってくれてる様で嬉しいけれど、私だって決して完璧って訳ではないわよ!」
まぁ、そりゃそうだろうけど…。
「だから2人でより一層、完璧に近付いてみるってのはどうかしら?」
「はぁ…?何を言って……」
……。
………。
奏の歌声に合わせハモると、会場は一層と熱気が湧いた!
宗次郎も彩も舞も驚いていた。
ずっと、今の今まで内緒にしていたからな!当然、リハでもやらなかったし…。
奏と視線を合わせ、お互いに手応え有りの笑みを浮かべ離れた。
まさか、奏の声とこんなに相性が良いとはな…。
コレは今後も武器になる!
■■宗次郎■■
いや、驚いたな。まさか、透と奏先輩があんな事をするなんて、しかもやたらと上手く声の相性も良かった!
アレはこの先も使っていける。
それはさておき、2人でこっそりと練習していたに違いない。
この曲はリズム隊が際立った曲だというのに、すっかり2人に持ってかれた感がある。……全くもって気に食わん!
彩先輩、俺達も魅せてやりましょう!!
俺は彩先輩に、その意思を伝えるべく視線を合わせようとした。
彩先輩、顔は笑っているが………若干、怒っている……!?
心なしか、ドラムを叩く力もいつもより強い気がする…。
………気の所為だ、うん!気の所為に違いない!
どちらにせよ、俺の所為ではない、透の所為だ!
呼吸を整え、観客一人一人に叩き付けてやる様な音を出した!
歓声、視線がこちらへ来たのを感じた。
ディスリアイズは、何も透や奏先輩だけじゃない!
「まだよ、まだまだ!もっともっとイケるわよね?サードアイ!!」
一際、湧いた歓声に奏先輩がもっと声を出せと煽り、さっきよりも大きな歓声が湧いた!
透と視線を合わせ、2人同時に大きくジャンプしフィニッシュ!!
歓声と拍手。そしてそのまま、次の曲へ!
■■彩■■
もぉ〜、何なの!?透くんと奏さん、あんな密着すれすれでハモり出して。
……っていうか私、何かイラっとしている?…少しだけ、うん、本当少しだけだけど。
いつもより、少し強めに力を込めてドラムを叩いちゃってるし…。
……と、いけないいけない!集中しなきゃ。
2曲目、Jackmeup。
最初に私が覚えてきた4曲の内のひとつ。
ギターの音が凄く好みだった曲。歪み過ぎずかといってクリーン過ぎず、凄くバランスの取れた音。
そして、軽快でキャッチーなメロディが覚えやすくて好きだった。
皆、上手くお客さんを乗せてくれたからフロアは熱気に包まれている。
でも、まだ足りない。もっと盛り上げなくちゃ!!
ドラムを叩く勢いが増す!
パワー不足の分は手数で補う!!
ジローくんがそれに合わせてついて来る。透くんも直ぐさま対応した!
まだまだ2人共、こんなものじゃないでしょ!?
奏さんも負けじと力強い声を出した。
奏さんの歌に反応し歓声が起こる!
「ほら、どうしたの?サードアイ、声が小さいわよっ!?」
奏さんがそう言い、更に大きな歓声が湧く。
「いい感じだわ!」
ブランクがあったとは思えない程の、奏さんのパフォーマンス。
……。
………。
「久しぶりね。……ってのいうのも変だわね!学校で見掛けてはいたのだから」
「そうですね」
私も奏さんの存在には気付いていたし、舞と良く話している所も見掛けていた。
「お兄さんは元気?」
「ええ!相変わらずドラム叩いてます」
「そう!彩も随分と上手くなったわね」
「そんな事ないですよ!まだまだです。奏さんこそ全然、衰えてないじゃないですか!音楽を辞めたって聞いてましたよ」
「何言ってんのよ?私は、まだまだこんなものじゃないわ!それと昔の自分なんて、これから直ぐに超えてみせるわよ」
奏さんは自信に満ちた笑顔で言った。
……。
………。
奏さんは、きっとお客さんに言うと同時に自分にも言い聞かせている。
……私だって…成長していくんだ!!
負けてなんかいられないっ!
■■奏■■
ふぅ、彩ったら随分と気合い入っているじゃない。
まぁ、それもそうね。自分の身が賭かっているのだから。でも、きっとそれだけじゃないわね!
2曲目を終えて、MCに入る。
「こんばんわ!ディスリアイズです」
ちらほらと拍手が起きた。
「実は私達、今日が結成して初ライヴなんですよ」
口笛や拍手が混じり合い飛ぶ。
伊達に生徒会長をやっているわけじゃないのよ!大勢の人の前でのスピーチならお手の物だわ!
「だぁーーっ!?奏っ!!何、糞真面目な
MCしてんだっ!?こういう時は、お笑いを取るんだよっ!」
透がそう叫び、観客から笑いが洩れた。
……わ、私のMCが台無しだわ。
「糞真面目って何よっ!?お笑い?それは貴方が取ればいいでしょっ!?ほら!皆、笑ってくれてるわよ!良かったわね!」
「奏さん、それじゃあ透くんの思うツボです」
「へっ…!?」
フロアが笑いに溢れた。
し、しまったっ!?透にハメられた!!
透を睨み付ける。悪戯っ子の様にニヤニヤして、こっちを見ていた。
憎たらしい、本当に憎たらしいわ!この男は、何でこう憎たらしいのかしら?
「皆さん、ウチのバンドの夫婦漫才は楽しんで頂けましたか?この二人、いつもこんな感じで、止めるの大変なんですよ!」
宗次郎がそう言い、観客から頑張れー等の声が上がる。
夫婦漫才ですってぇぇ!?宗次郎、貴方も覚えていなさいよ!?
「もういいわ!次の曲行くわよ!!」
「へいへーい!」
クスクスと笑い声が聞こえた。
もうっ!!
彩がカウントを取り激しく力強い音が鳴る。それと同時に宗次郎、透、そして私が一斉に大きくジャンプ!
よしっ!タイミングはぴったりね!
3曲目、SleepingSpring。
着地と同時に透が前へ出る。そして音と演奏に激しさが増す!
SleepingSpringは、透が作った11曲の中でも取り分け激しい曲である!
そして、もしかしたら1番、私達らしさが出る曲かもしれない!
宗次郎も前へ出て、頭を振りながらベースを弾いた!
それに呼応する様に、観客もジャンプしたり、揺れたりしている!
中には激しく頭を振っている人もいた。
「ほらほら!どうした、サードアイ!?そんなもんじゃねぇだろっ!?」
透が煽りを入れ、観客から声が上がる!
「貴方達、この程度でへばっているんじゃないでしょうね!?」
観客から、おーっ!!と声が上がる!
「だったら、しっかりとついて来なさいよ!?」
更に大きな声が上がる!
透と宗次郎が近付き、お互いに向き合いながら演奏している!
二人共笑顔だ。その様子を見てか彩も笑っていた!
透達は、観客を楽しませると同時に自分達も楽しんでいるんだ!
私も、もっと楽しむわよ!
観客の1人がダイブをした!それに続いて更に何人かがダイブをする!
私達はステージで、お互いの顔を見合わせ笑い合った!
■■舞■■
あらまぁ皆、あんなに楽しそうにしちゃって。
例の如く会長ん時みたいに、目的忘れてんじゃないでしょうね?
彩の事もあるし、それがなくても勝って欲しいっていうのは本音。
でも、PAというポジションをやる以上、贔屓も出来ない!
出演者達の望む音、そしてライヴに来てくれるお客さんに最高の音を届ける為。
しかし、私はディスリアイズの専属でPAをやりたい。
だから、ディスリアイズの音を誰よりも理解しなきゃならない!
それだけは譲れない!誰にも負けたくもない!!
会長の歌を、ジローちゃんのベースを、彩のドラムを、透のギターを、誰よりも最高の音にして届ける!
それが私の役目!!
そして、それは今日来てくれたお客さんに確実に届いている。
全員とは言わない、でもそれでも多くの人に皆の音は届いている!
今、やっているSleepingSpringが終われば最後の4曲目、Re:start!
本来、ギターソロのない曲だったのを会長に言われてギターソロを加える事になった曲。
それに伴い、基本的な土台は変わってないけど、全体的にアレンジされている。
間違いなく、ディスリアイズにとってのリード曲。
会長、彩、ジローちゃん、透……。これはディスリアイズと私の勝負でもある。
私を唸らせてみせなさい!ディスリアイズ!!
■■宗次郎■■
透、奏先輩、そして俺も、同時に大きくジャンプをして同時に着地。
そして演奏終了。彩先輩がRe:startへ繋げるドラムをアドリブで叩き、それに合わせ俺と透も音を鳴らす!
「次の曲で最後だけれど、皆まだまだいけるわよね?」
歓声が上がる。
「それじゃあ、最後までしっかりとついて来なさいよ!?よろしく頼むわよ!!」
さっきよりも大きな歓声が上がる。
「いくわよっ!!ワン、ツー、スリー…」
奏先輩が、リズムとメロディに合わせカウントを言い、Re:startの演奏に入った!
ギターソロを加える事により、若干アレンジされたものの、今日来てくれているうちの高校の生徒達は知っている曲だ。
流石に知っているだけあってか、他の客よりもノリが良い!
良いぞ、そのまま周りを巻き込むんだ!!
「ほらほら、どうしたの?さっきまでの元気はどこにいったの?!」
歓声が上がり観客の動きが激しくなった。
少しずつとステージの真ん中に寄り、透と向き合いながら弾く!
透はその場で大きくジャンプ。俺はその場で1回転をした。
俺達のパフォーマンスに呼応して、観客の動きも激しくなった!
俺は前へ出てベースを唸らせた。
観客の視線が俺に集まるのを感じる。
右手で、こっちへ来いという動作をして客を煽った。
そこへ数人の客がダイブをしてきた!
ははは!そうだ良いぞ、もっとだもっと来い!!
俺達は…、俺はまだまだこんなもんで満足出来ない。
頭を振り、髪を乱しながらより一層と激しくベースを弾いた!!
■■透■■
フロア一帯が湧いている。俺達より前に出ていた2組のバンドは、ここまで盛り上がっていなかった。
次に出るバンドが、どんなライヴパフォーマンスをするか、これ以上に盛り上げられるのかは分からない。
まぁ、最も俺と宗次郎にとってはホームグラウンドで、やり慣れているハコだ!
そもそも、こんくらい出来ないと話にならない。
……さて、もう直ぐギターソロに入るな。
舞と目が合う。
音の調整は完璧よ、ブチかましてやんなさい!!
そう言ってんだろうなぁと感じた。
お前に言われなくても、勿論そのつもりだっての!
そして、ギターソロに入った。
客の手が上へと上がると同時に歓声。
数人の客は他の客の頭上を転がりダイブして来た。
ダイブして来た1人が俺の前へと到達すると同時に、俺は大きくジャンプをした!
曲も終わり、最後にがむしゃらにギター掻き鳴らす。
宗次郎と彩も、それに合わせる。
「今日はありがとうございました!また、ライヴハウスでお会いしましょう!」
奏がそう言うと、俺は右手を頭上に挙げ、宗次郎は手を合掌し、彩は立ち上がり両手を挙げ、奏は後へと振り向く同時に髪を手の甲で払い、フィニッシュ!!
大きな歓声と拍手で溢れていた!
片付けをし楽屋へと戻る。そこには当然、次の出演バンドが居た。
彩に絡んでいた男も含め全員、戦意喪失したような表情をしていた。
ふん、勝負あったな!やる前から負ける気でいてどうすんだか…。
……ここで負けん気を起こしてくれるバンドだったら、張り合いもあんだけどなぁ。
まぁ、今回は彩の身の危険もあったし良いか。
「ま、精々盛り上がってくれたまえ!バンド歴7年の……えーと……」
……あれ?こいつの名前なんだっけ?
宗次郎の方を見た。
「……ステージネームはラグナ。本名は山野だそうだ」
「なっ!?てめぇ、何でそれを知って……」
……本名を恥ずかしがってんのか?こいつ。そのステージネームの方が、よっぽど恥ずいと思うのは俺だけか?
「ま、精々盛り上がってくれたまえ!ギター歴7年の山野くん。勿論これ以上のライヴを観せてくれんだろ?」
俺はラグナこと山野の、肩をぽんぽんと叩きながら言った。
山野はその場で崩れ落ちた…。
俺達、ディスリアイズの初ライヴは確かな手応えを掴み取って終えた。