第3話
■■透■■
もしも、運命ってモンが存在するとしたなら、ギターという楽器に出会えた事が、俺にとって運命だと言える。
もし、舞と幼馴染みじゃなかったら?或いは、舞の家がライヴハウス経営じゃなかったら?
俺は、ギターに興味を持っていなかったかもしれないし、例え興味を持ったとしてもここまで入れ込んでなかったかもしれない。
「君、さっきのステージ凄かったね!?」
同じ歳位の見知らぬ男から、興奮気味に声を掛けられた。
「あぁ!?誰だ?何だ、お前!?」
「コラ!威嚇しないのバカ」
威嚇した訳じゃないし、率直に思った事を口にしただけなのに、何故か舞に怒られた。
「何だ、舞の彼氏か」
「違うわよっ!ボケ」
今度は拳を貰った。
「それより、どうだった?驚いたでしょぉ〜?」
「うん!!それに凄かった!!大人達にも負けてない位だった!」
「まぁ、俺天才だしな」
「調子乗らない!勢いで誤魔化してたみたいだけど、5箇所ミスってたわよ?」
「ぐっ……!?」
ばれてやがるし。
「ね、ねぇ!?僕にも出来るかな?」
「それは、君次第じゃないの?」
「やる!やりたいっ!!」
「ふぅん!いい心構えしてるじゃねぇか!……んで、お前名前は?」
「そうじろう。…戸高宗次郎」
……。
…………。
ジリジリジリジリジリジリィ……。
目覚ましの音が部屋に鳴り響き、目を擦りながらアラームを止める。
上体を起こし、腕を天井へ向け伸ばした。
しかし、懐かしい夢を見たもんだ。
昨日の、まさかの出会いに関係しているかもしれない。
……。
…………。
「ちょっと透!!どういう事よ!?まさか知り合い?」
「いや、知り合い…ってか、俺が一方的に知っているだけ」
「とっとと説明しなさい!」
今からするっちゅうのに、せっかちな奴だな、全く。
「前に涼さんのライヴ観に行った時に、対バンのバンドでドラム叩いていた」
「ちょっと待て、その話!俺、知らないぞ?」
宗次郎が割って入った。因みに涼さんとは、俺達が昔からお世話になっているバンドマンでギタリストだ。最近、メジャーデビューも決まったらしい。
「だって、俺ひとりで観に行ったんだもん」
「何故、誘わなかった?ひとりだけずるいぞ!」
宗次郎の手が俺を襲う。すかさず俺も手で防ぎ、取っ組み合う。
「んで、そん時観た時から…、1度一緒にやってみたいなぁ!って思っていたから、ちょっと…調べたんだよ!何よりタイプだったし…」
取っ組み合い中のせいで、言葉が力んでしまった。
「えっ!!?」
沙田彩の顔がみるみる赤くなっていく。
俺、何か変な事言ったか?
「あー…、彩?勘違いしてるみたいだけど、ドラムがって事よ!」
「へっ!?あ!!そ、そ、そうだよね!?ドラムがだよね!」
舞も沙田彩も、ドラムがを強調して言った。
「あー…、でもそうか!舞の言ってた奴って、沙田彩だったのか!?じゃあ、俺としては願ったり叶ったりって訳だ!」
若干、宗次郎に押され気味になったから押し返しながら言った。
「ま、とにかく、これからよろしくなぁ!彩ちゃん!」
「え?あ、うん!こちらこそよろしく」
……。
…………。
さぁてと、昨日はサボっちまったしたし、今日もサボると、今度こそ舞に殺されるからな。今日は学校に行かなくちゃな!
昼のチャイムが鳴り、ギターの雑誌を読もうとした俺に声が掛けられる。
「よぅ!雪村、お前もこの学校だったんだな?」
なんちゃってヤンキーみたいな男だった。……えーと、こいつは確か……。
「お、おう!まぁな、えーと……」
………誰だっけ?名前が出て来ない。
「佐久間だっ!!対バンした事あんだろうが!?何回もっ!!」
「……そうだっけ?」
……悪い、全く憶えてない。あとで宗次郎か舞に聞いてみよう。
「相変わらず大物振りやがって。フン、まぁいい!高校ではギャフンと言わせてやるから、覚悟しとけよ」
「ギャフン。言ったぞ?」
「ちっげぇよっ!!音楽でだよっ!?……ったくよ……」
佐久間は、頭を掻きながらブツブツ言いながら去って行った。
……な、何だったんだ!?まぁ、ちょっと面白かったけど。
放課後、舞と彩ちゃんと合流し雑談をしていた。宗次郎は少し遅れるとの事。
「あー、佐久間君。彼もうちの高校だったんだ!?」
「あ!ねぇ、じゃあその子も誘ってみない?」
「……ん〜、どうかなぁ?実力は悪くないんだけどね…、いまひとつって感じだし、何より透の事やたらとライバル視してるからねぇ、彼」
あ!だから、絡んできたのか。
「とりあえず、俺とバンド組む気はなさそうだったぞ!口振りからして」
「あは。やっぱり」
そんな会話をしていること30分弱、宗次郎がやって来た。
「悪い。遅れた!直ぐに準備する」
宗次郎は、俺と彩ちゃんがセッティング終わってるのを見て、急いで用意しようとした。
「ジローちゃん、慌てないでいいよ?うちらも駄弁っていたし」
「いや、急ぐよ!今日この日をどれ程、待ち焦がれたことか」
おーおー、気合い入ってんなぁ、宗次郎の奴。こりゃ負けてらんないぞ!
「……って、あれ?戸高くん、ベース?ギターじゃなくて?」
「ギターも弾けますけど、メインはベースですね」
宗次郎は、入り口こそギターだったが、ある日ベースに興味を持って、そこからベースに没頭していったんだよな!
何でも、俺を自由にパフォーマンスさせる為の土台作り。それが影の支配者みたいで楽しいとかで。
「そうなんだ!じゃあ私とリズム隊だね!頑張ろ」
「はい!改めて、お手柔らかに宜しくです」
………ただ、こいつ!そんな事、言ったわりにはプレイ派手なんだよなぁ。まぁ、いいけど。
「さてさて、そんじゃ早速やりますか!?彩ちゃん曲は?何?」
「取り敢えず初めてだし、ELLEGARDENの風の日。…なんてどうかな?」
「お!良いじゃん。エルレ好きなんだ?」
まぁ、このメンバーならもうちょい難易度高い曲でも大丈夫だろうけど。
「うん!雪村くんも好きなの?」
「好きだよ!まぁ、その辺は今度ゆっくりと語ろう」
「透、ヴォーカル頼めるか?」
「はいよー!…….ちゃんとした、ヴォーカルも見つけないとな」
決して音痴って訳じゃないが、ただそれだけである。
「んじゃ、彩ちゃんカウントよろしく」
「うん!いくよ……」
ドラムスティックでカウントを取り、俺はギターをかき鳴らす。
オープニングの力強いギターのリフが、格好良いんだ!この曲は。
同じフレーズをもう一回、そしてドラムとベースが入り、音に厚みが増す。
それと同時に、俺はその場で飛び跳ねながらギターを弾く。
「エンジン全開だな」
「ったりめぇだろ!お前だって、そうだろ?宗次郎」
「ああ」
歌に入る前にドラムの方へと視線を送り、彩ちゃんと目を合わした。
コレは俺からの牽制、煽り、挑発だ!
悪意のあるものではなく、あんたもそんなもんじゃないだろ?っていう意味合いだ。
それを理解した彩ちゃんのドラムは、より一層力強く響いた。
そうだ!そうこなくっちゃ、面白くねぇだろっ!?
息を吸い、口を大きく開け歌った。
しかし、驚いたな。宗次郎は別としても、彩ちゃんとここまで息が合うとは、流石に思いもしなかった。
大人しそうな顔してるけど案外、熱血しやすいタイプなんだな。
俺達はそのまま、お互いのテクニックを見せつけ、引き出しあいながら演奏を終えた。
「はぁっ、はぁっ……、たった1曲だけなのに…、もう汗だくになっちゃった…。やっぱり、凄いね2人共」
「沙田先輩こそ、流石でした!」
「こりゃ、いよいよ正式ヴォーカル見つけないとな?」
「雪村くん、そんなに悪くなかったよ?」
「んー、でもやっぱ本格的にってなるとな…」
「あー…、皆その事なんだけどさ…」
舞がバツが悪そうに言った。
「じ、実は…来月の最後の日曜日、うちのライヴハウスでブッキング組んじゃった…」
「はい?」
俺、宗次郎、彩ちゃんは見事にハモった。
……いやいや、組んじゃったじゃねぇし、何してくれてんだよ、舞の奴。
「大体、曲はどうしたんだよ?」
「ほら!透、曲作ってたじゃない?それお父さんに聴かせたら、気に入っちゃったみたい」
「いや、あれまだ完成してねぇし」
大体、何でまだ完成してない曲を聴かせてんだよ、こいつは。
「今から完璧に仕上げるとすると、練習時間が足りないな」
全くだ。宗次郎の言う通り。
客は金を払って観に来る以上、それに見合った演奏をするべきだ。そこにプロもアマチュアも関係ない。
舞の親父さんには、そう教わってきている。だから、無様な姿は観せられない。ましてや俺達は昨日、今日、音楽を始めた人間じゃない。
「曲の仕上げ、バンド名及びチケットの販売、ヴォーカル探し……」
この3つが重要点。ぶわははは…。こりゃ最高に忙しくなるぞー。
「あ!ねぇ、ヴォーカルなんだけど、うちの学校に1人だけ候補がいるよ!」
「えっ!?マジ?」
「うん、引き受けてくれるかは分からないけど…」
「彩、本当にそんな人いるの?」
「舞も良く知ってる人だよ?」
「え?」
「その人は……」
「う、嘘っ!?」
彩ちゃんが口にした名を聞いて舞が驚いた。
その人物の名前は蒼山奏。
「あ?何、有名なの?」
「透、この学校の生徒会長だろう」
俺の疑問に宗次郎が呆れながら答えた。
あー、生徒会長!生徒会長かぁ。……は?生徒会長っ!?
彩ちゃんの言うヴォーカル候補は、生徒会長ぅぅぅぅぅぅぅっ!?