第2話
■■宗次郎■■
俺が、舞とアイツに出会ったのは8歳の時だった。
父親の仕事の都合で引越ししてきて、周りに上手く溶け込めないでいた俺を舞が見つけた。
「あれ?君、見かけない子だね。迷子?」
同じ年頃の女の子だった。
それにしても、いくら1人で居たからって迷子扱いされるとは、そんなに深刻そうな顔していただろうか?
「お家、何処?送ってくよ?」
「大丈夫、すぐそこだから」
なんとなく、この状況から逃げ出したくて、走り去った。
「あ!ねぇー!?私ん家、そこのサードアイっていう、ライヴハウスなんだけどーっ!!良かったら今度、遊びおいでよーーっ!」
その言葉に振り返り、サードアイと書かれた看板を確認し、女の子の方を見た。
「きっと、良い友達出来るわよ!?」
満面な笑みで言う、その女の子の姿が目に焼き付いて離れなかった。
その週の土曜日、そのライヴハウスに足を運んでいた。
「あーっ!?君、こないだの!来てくれたんだね?ありがとー」
あの女の子だ。慣れない空間にいるせいか、声を掛けられ安心感を覚える。
「丁度良いタイミングで来たわね!もうすぐ始まるから、じっくり観てくと良いよ!絶対、驚くから」
そう言われステージの方を見た瞬間、歓声が沸いた。
そのステージには5人の人が居た。
真ん中に1人、その後に1人、左側に1人、右側に1人。何より驚いたのは、1番右側に同じ年位の男の子が立っていた。
あの子も演奏するんだよな?本当に…?あんな大人達と一緒に。
そんな不安とはよそに、演奏が始まった。
な、何だコレは!?脳を、いや全身をハンマーでガツンと殴られたような迫力ある音。それでいて何故か、凄く心地よい。
周囲には、激しく体を揺らす人、頭を振る人、飛び跳ねる人…。
ステージの5人は、最初の位置から大きく動き回りながらも、演奏をしていた。
テレビでああゆう人達が、演奏している姿は観たことあるけど、何もかもが全然違う。
こんな光景観たことがない。
歓声が上がり、周りの動きが一層激しくなった。
ステージでは、あの男の子が1人前に出て、観客達を煽りながら演奏していた。
まだ歳は然程、変わんないだろうに、凄い。
演奏が終わり、あの男の子は1曲だけ弾いて、ステージから消えた。
……あんな風に弾けたら、どんなに気持ちく楽しいだろうか?
……自分にも出来るだろうか?やってみたい。
いてもたってもいられなく、あの男の子に声を掛けに行った…。
分かった事と言えば、アイツはギターに愛されてる。
それを未だに、思い知らされている…。
……。
…………。
大声を出したらお腹が空いた、と舞が言い、近くのファーストフード店で昼食を取ることにした。
……そんなんなら最初から、大声なんか出さなければ良いのに。
アイツがそういう奴だってのは、分かっているんだから。
沙田先輩は、もぅしょうがないんだからと言いながらも笑顔だった。
もしかしたら、俺達なんかよりよっぽど舞の扱いに慣れているかもしれない。
「…で、ジローちゃん?アイツ何処?何処で弾いてるの?」
舞が笑顔で問いてきた。…笑顔だが怒ってる。最早、脅迫である。
俺はメールで、合流するから場所を教えてくれ!と、送信した。
……すまん。この不甲斐ない友を許してくれ。
だがお前だって、よく理解しているだろう?こうなってしまった舞を止める事は不可能だという事を…。
メール送信し、5分も経たない内に返信が返ってきた。
舞が、すかさず俺の携帯を奪い内容を確認する。
………不気味な笑みを浮かべていた。
沙田先輩も、舞の表情を見て顔が引きつっている。
俺は、ごめんなさい。舞の気が済むまで付き合いましょう!の意を込めた、ジェスチャーを送った。
沙田先輩は微笑しながら頷いた。
昼食を取り終え、俺達は駅前の広場に来ていた。
返信メールには、ここで演っていると書いてあった。
「あ!ねぇねぇ、私その子の特徴分からないんだけど」
「ギターおたく」
「ギターバカ」
沙田先輩の質問に、俺と舞は即答した。
「………。…え?それ特徴じゃなくない?」
沙田先輩は、数秒沈黙したあと突っ込みをくれた。
「大丈夫よ!ギター弾いてるなら直ぐに見つかるから」
「そうだな」
「いやいや、他にも弾いてる人がいるかもしれないでしょ?」
沙田先輩の言い分はごもっともではあるが、舞の言った事もあながち間違いではない。
アイツのギターは人を惹きつける。子供の頃、俺が魅了されたように。
つまり、人が多く集まっている場所があれば、アイツが居る可能性が高い。
その時だった。少し遠くから歓声と拍手が沸き起こるのが聞こえた。
「あれ?あっちの方から、何だろう?」
「行ってみましょう!多分、アイツです」
沙田先輩の問いに答えた。
「くっくっく…。見つけた、見つけたわ!」
殺気込もった舞の言葉に、俺と沙田先輩は聞こえないフリをして、脚を進めた。
■■彩■■
それにしても、さっきの歓声と拍手、舞が言っていた意味が分かった。
路上で演奏して、あんなに貰える人なんて、そうそういない。
きっと上手いだけじゃない、何かを持った子なんだ。
やばい、早く会ってみたい。その子のギター聴いてみたい。
私の心は踊り、歩くペースが速まる。
一歩一歩、近づく度に音が鮮明に聴こえてくる。
何かを囲う様に人が集まっている場所があった。
丁度、私達が辿り着いたと同時に再び歓声と拍手が起こる。
「やーやー、どうもどうも!」
歓声と拍手が鳴り止み、声が聞こえた。
「当たりだね。アイツの声だ」
「フッ…。見ィィつけたわよぉぉぉっ!?こんの馬鹿たれがぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
舞が叫びながら、猪の如く突進して行く。
舞の気迫に脅える人達が、舞を避け進路が出来上がっていた。
私は手を合わせながら、避けた人達にごめんなさい、ごめんなさい!すみません、すみません!と言いながら。戸高くんと舞の後に続いた。
「げっ!?舞!?何でお前がここに…….」
そう言うと同時に、舞は勢いよく回し蹴りを放った。
「うぉっ!?危ねっ!?」
嘘!?アレを避けたの!?
舞の動きについていけるなんて、やはり幼馴染みは伊達じゃない。
「甘いわよっ!」
しかし、続け様に舞は膝蹴り、かかと落とし、肘打ちと3連コンボを放ち、3発見事に決まり、パンチ、キックとコンビネーションでボコボコに倒した。
その様子を見ていた観客達から、拍手喝采を浴びていた。
舞、新手のパフォーマンスだと思われてるよ…。
……。
一連の騒動は収まったけど、件の問題児は舞に正座をさせられていた。
そして、それを何故か囲んでいる私達。
「それじゃ改めて、今ここに正座しているバカが雪村透」
「あはは…」
改めて見てみる。目付きは、悪いというより鋭い。でも顔立ちとしては割と整っている。
そして、どこか少し近寄り難い雰囲気は漂っている。
さっきの舞とのやり取りを見てなかったら、ちょっと話しかけづらいかもしれない。
目が合った。……しまった、見過ぎていたかも…。
……と、思ったけど、透くんの方がまじまじと私を見てい気がした。
え!?何?私の顔に何か付いてる?
「ところでよ宗次郎、舞!お前等、何で沙田彩と一緒に居るの?」
「えっっ!!?」
な、な、な…何で君が私の名前を知っているのぉぉぉぉっ!?