第10話
■■奏■■
今日はSoulSpirits予選日。
これから会場に向かうのに、皆と駅で待ち合わせをしていたのだけれど、少し早く着いてしまったかしら。
まだ、誰も居ない。私が一番乗りみたいね。
腕時計を見て時間を確認した。
「ふぅ…」
私は息を吐き、空いてる椅子へと腰を掛けた。
待っている時間が、退屈だと感じたのは久し振りかもしれない。
それだけ、ディスリアイズの面々が私を退屈させないという事かしら?
こういう時、透はどうやって時間を潰すのかしら?
音楽の事を考えて時間を潰す?あの男なら平気でギター取り出して、路上ライヴとかやりそうね。
………って、どうして私が、透の事を考えてなくちゃいけないのよ!
すっかり、毒されてしまっているわね。
取り敢えず、会ったら1発引っ叩いてやるわ。
「あれ?奏、早いじゃん!?」
私を見つけるなり透がそう言った。
……この男、どうしてちゃんと、おはようと挨拶出来ないのかしらね。
「来たわね!透、1発叩かせなさい」
「何でだよっ!?」
……。
結局、抵抗され叩きそびれてしまった。
それにしても、意外だわ!まさか、透が私に次いで早く到着するとは…。
というか…。
「舞と宗次郎は?一緒じゃないの?」
幼馴染みだと言うから、てっきり一緒に来るものだと思っていたのだけれど。
「……」
「何よ?黙って」
「お前、幼馴染みだからって、何でも一緒に行動して来ると思ったら大間違いだぞ?」
まぁ、それはそうでしょうけど。けれど、この場合一緒に行動して来た方が、効率的だと思っただけよ。
その後、2人で雑談しながら時間を潰した。
「ふむ、どうやらタイミングを外したか?邪魔したな」
宗次郎が到着早々に口にした。
何か勘違いしていないかしら?
「いやいや、宗次郎!ナイスタイミングだ」
「そ、そうよ!ナイスタイミングだわ」
「そうか!舞と彩先輩は?」
「ん、まだ」
宗次郎が来てからというものの、透と宗次郎は音楽の話ばかりしていた。
やれあの曲のここの部分が良いだの、やれあのバンドの新曲が格好良いだの、やれ海外のバンドが今度は来日するだの…。
分かる話題もあれば、マニアック過ぎて分からない話題もあった。
私は、適当に相槌をしながら聞いていた。
「奏は?」
「へっ!?」
突然、話を振られ戸惑う。
「だぁかぁらぁー、奏はどんな音楽が好きなんだよ?」
「えっ!?ああ、好きな音楽ね。そうね、私は……RuidoRosaなんかが好きね」
「それってメキシコのガールズバンドですか?」
「そうそう!良く知ってるじゃない?」
「うへぇ〜、マニアックだなぁ!お前」
そうかしら?貴方達に、比べれば全然だと思うのだけれど。
「そういえば奏とは、こうゆう話してこなかったな」
「言われてみればそうね」
「透が直ぐおちょくるから、そういう話に発展しなかったんだろ?」
「俺の所為かっ!?」
「ぷっ……。それもそうね」
私は笑いを堪えながら言った。
透は雑食で良いと思ったものは何でも聴くらしく、邦楽ではMONOEYESやASPARAGUS、感覚ピエロ。
洋楽ではStevieRayVaughan、BryanAdamsなんかが特にお気に入りだそうな。
中でもブライアンアダムスのバックバンドで、ギターを弾いているKeithScottをリスペクトしているだとか。
宗次郎は、透に色々聴かされてはいるものの基本的には、ミクスチャー系のバンドが好みらしく、邦楽はMANWITHAMISSION、洋楽はRageagainsttheMachine、RedHotChiliPeppersなんかを良く聴いているそうね。
但し、ベーシストとしては日向秀和を尊敬しているらしいわね。
……本当に飽きない人達だわ。
何より、こんなに楽しく音楽の話が出来る日が、また来るなんて思ってもいなかったわ。
こればかりは透のお陰よね。
「お待たせーっ!!」
「皆、早い!?」
舞と彩が一緒に到着した。
「時間ぴったりに来たのに、これじゃ私と彩が遅く来たみたいだね」
「そんな事ないわよ?お陰で、中々有意義な時間を過ごせたわ」
「そう言って貰えると有り難いです」
「んじゃ、向かうとしますか」
透がそう言い、私達は電車に乗り、SoulSpiritsの会場へと向かった…。
■■透■■
「うぉぉぉぉっ!!到着ーーーっ!!」
「うっさい!ボケ!!」
会場に到着と同時に叫ぶと、舞が踵落としを放って来た。
いつもならここは回し蹴りの筈が、まさかの踵落としに完全に不意を突かれ、俺は見事に踵落としを食らってしまった。
俺は頭を押さえその場で蹲った。
「さ!馬鹿は放っといて行くわよ」
「そうですね」
奏がそう言い舞が同意した。
「透くん、ごめん!先行ってるね」
「大丈夫ですよ!彩先輩、はぐれたら迷子の呼び出しして貰いますから」
うぉいっ!?宗次郎、それはシャレにならんて。
俺は立ち上がり、皆の後を追いかけた。
……。
「広いわね」
「私、こんな大きい会場で演るの初めてだよ…。緊張するなぁ」
「俺と宗次郎だって初めてだよ」
「まぁ、やる事は普段と変わりない」
「だな」
会場内に入り各々と感想を口にしていた。
予選はA、B、C、Dの4ブロックに分かれて、各ブロックの上位5組が本選への出場権を得る。
俺達はBブロック。
出場者リストを見てみる。そこに1組のバンド名に目が止まった。
狂雷鳥。
京都出身のラウド系バンドで、このSoulSpirits常連出場者。
毎回、上位トップの評価を得ているバンドの一つだ。
そんな奴等のライヴを生で観れるんだから、楽しみが倍増するってもんだぜ!
他にもAブロックには大阪出身のバンド、SecretFrame。Dブロックには北海道出身のバンド、雪の国カウ。鹿児島出身シンガーソングライターの、花守ヒラク。
この3組も、狂雷鳥と同じく毎回上位トップに食い込んでいる猛者だ。
予選敗退なんかする気はさらさらないが、こいつ等と直接対決するには、本選へと出場しないとな。
これ以上ないって位に気分が高揚している。
どいつもこいつも纏めてかかって来やがれ!
■■彩■■
広い、大きい、空気も緊張感が漂っている。
皆、いつも通り振る舞っているけど、緊張してないのかなぁ!?
普段だったらこういった会場は、観る側としてしか来た事ないから、演る側としては初めての経験だ。
私は、ちょっとだけ緊張しちゃっている。
プロの審査員だって来るんだよ!?緊張しない方がおかしくない!?
「透、ジローちゃん、どう!?」
「こういう会場で演るのは、俺も透も初めてだ!全く不安がないと言えば嘘になるな」
「そうだなぁ、音作りの勝手も普段と大分違ぇだろうし…。時間を掛けて入念に、セッティングする必要はありそうだな」
「どういうセッティングしてたか、メモ残して提出するように!OK?」
「了解」
「わーってるよ」
今回、舞はディスリアイズの関係者として来てはいるものの、ライヴが始まれば一人の観客としてライヴを観る。
流石に、こういうイベントじゃPAやれないからね。
でも、ちゃんといつかはこういう場所でもディスリアイズのPAをやれるように、先を見据えている。
そんな光景を見ていただけなのに、緊張感が和らいでいた。
本当、頼もしいったらありゃしないよ!
手をグーパーとやって、力強くグーを作った。
いよしっ!うん、大丈夫!!
おおおおっ!!と、背後の方で声がして振り返ってみた。
振り返った奥の方は、人集りが出来ていて騒がしかった。
「おぉぉっ!?生狂雷鳥と生花守ヒラクだぁぁっ!!」
透くんが、人集りの中心に居る人物達を見て言った。
毎回、この大会で上位トップに入ってる出場者が来たんだ。
それにしても凄い人気だなぁ!
「ふん!いいか、よぉぉく聞いとけよっ!?今大会で優勝すんは、ワシ達狂雷鳥だぁぁぁぁぁっ!!」
「ふふふ。その意気や良し!けど、こっちだって負ける気はないですよ」
両者がそれぞれ意気込みを言い合い、人集りから声が上がった。
「気に入らないわね」
「へっ!?」
「仕方ないですよ。俺達は無名のノーマークバンドですから。当然、誰も注目なんかしていない」
「……だったらどうする?」
「決まっています」
「……だな」
「えっ!?ちょ、み、皆っ!?」
……い、嫌な予感…。
「ほら!彩、ボサッとすな!行くぞ」
透くんがそう言いながら、ステージの方へと向かっていく。
透くん、ジローくん、奏さんの3人がステージへ登った。
「皆、血の気が多いんだから!」
私からすれば、舞も十分多い気がするんだけど、ここは黙っとこう。
「彩、何しているの?貴方も来なさい」
「……はい」
私は諦め返事をしてステージへと登った。
「あー、あー、……テスト、テスト…」
透くんが、ステージにあったメガホンを手にして言った。
会場の皆がザワつきながら、視線をこっちへと向けてきた。
「おい!ちょっと君達、何やってんの!?」
スタッフの人が止めにやって来る。
「俺達はディスリアイズっ!!」
透くんが大きく息を吸い、大声で発声!!
急な大きな音にスタッフも、耳を抑え立ち止まった。
「いいか?耳をかっぽじってよぉぉく聞けよ!?今回、優勝すんのは……」
ああ、やっぱり……。
「俺達、ディスリアイズだっ!!覚えときなっ!!」
怒りの様な、ギラついた視線が一気に集まり、ブーイングの嵐。
……こ、怖い。
どうするの、皆!?私達、どうなっちゃうの!?ねぇ!?誰か答えてぇぇぇっ!?




