第1話
トントンと指で机を叩かれ、指の主へと見上げる。
そこには、天真爛漫で活発そうな女の子が立っていた。
……えと、確か…。
「あなた、沙田彩さんっていうのね。私、藤咲舞。これから1年間よろしくね!」
「あ、こちらこそ宜しく」
「ねぇ?ところで沙田さんって、中学の頃ドラムやってなかった?」
「えっ…!?」
「前に、ライヴでドラム叩いてる所、観たんだけど…。あれ?人違いだったかな?」
これには本当に驚いた。
確かに、私は兄の影響でドラムやっていたし、ライヴにも出た事があった。
でも、それは数える程の経験でしかなく、同じ年の子で知っている人なんて居ないと思っていたからだ。
「あ、いや。多分、間違っていない、それ私だと思う」
「あ!やっぱりぃ!!ねぇ、高校でも、ドラム叩くの?」
「やりたいなぁ!とは、思っているんだけど…」
その言葉を聞いた瞬間、藤咲さんが得意気に笑う。
「あと1年、待って貰えば凄いの2人、入って来る予定なんだけど、どう?騙されたと思って、そいつ等とバンド組んでみる気ない?」
……これが私と舞の出会いだっ
た……。
……そして、それから1年の月日が経ち、新しい出会いが訪れようとしていました。
……。
…………。
「おーい!彩ーっ!!早く早くぅっ」
颯爽と校庭を駆けながら、級友の藤咲舞が言った。
「はぁっ、はぁっ…、ま、待ってよ、舞」
息を吐きながら、私は漸く舞に追い付いた。
「もぅ、だらしないなぁ」
「舞が早すぎるの」
特別、運動神経は良い方ではないけれど、決して悪いわけでもない。
そんな私が男子にも勝っちゃうような、運動神経を持つ舞と同じ速さで走れるわけないのに…。
「だってだってぇ、今日この日をどんなに待ち侘びたことか」
「そんな事、言ったって別に舞がバンドやる訳じゃあないでしょう」
「あ!そんな事、言っちゃう~!?」
だって、本当の事だし。……でも、自分の事の様に喜ぶ舞の姿を見て、私はこの高校で本当に良い友人と出会えたと思う。
今日まで、私の個人練習にもずっと付き合ってくれたし、本当に感謝しても仕切れない。
舞がキョロキョロと首を振り、人を探す。
「あ!いたいた、発見。おーい!?ジローちゃーーん!!」
探し人を発見した舞が、手を上げ大きく振りながら大声で呼ぶ。
ジローと呼ばれた人物は、ゆっくりとこちらへ歩み寄って来た。
「舞、余り大きな声出さないでくれよ。視線が集まる…」
知的でクール。大人びた感じのする子だった。
「あはは。ごめんごめん。改めて、入学おめでとー!」
「ありがとう」
「それで、こちらの人が前に話していた沙田彩さん。彩、彼が私の幼馴染みの1人、戸高宗次郎」
戸高くんが私に視線を向け、深々と頭を下げる。
「初めまして。舞がいつもお世話になっているようで、これからもどうぞよろしく」
思わず釣られて、私も深々と頭を下げながら言う。
「あ、いや、こちらこそいつもお世話になっています」
「ところで、ジローちゃん。アイツは?一緒じゃなかったんだ?」
戸高くんが、げんなりした様子で言う。
「……入学しちまえばこっちのもんよ!今日は路上で弾く。だって」
その言葉を聞いた瞬間、舞が笑顔で固まった。
おまけに血管を浮かばせ、ピクつかせている。
……怖い、怖いよ、舞。
「……つまり?」
「サボり」
戸高くんの止めと言わんばかりの言葉と同時に、ブチっと音が聞こえた。
「……んぬぁわにぃっ、か・ん・ん・が・え・てんのよぉぉぉぉっ!?…っのバカぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
舞の怒りの叫びが校庭一帯に轟いた。
……どうやら、もう1人の方はかなり問題児っぽい。
…私、無事にバンド組めるの?