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ロバート・フリッツ 3

  相変わらず、ロバートは夢の中でチェスができた。もはや相手にもこと欠かない、今まで対局した者はみな彼の夢の中にコピーされた。いつも横にいる少女のような少年は対局をしないらしい、いつも見ているだけだ。


 ある時、ギャラリーが増えた。あの遠くにいたアジア系の少年がこちらを見たのだ!それにある日においては、その少年がチェス盤を使って他の誰かと対局し始めた!その後ロバートはその少年と対局した。白を持った少年はイングリッシュ・オープニングを使ってきたが、ロバートの相手にはならなかった。



 日曜の朝、真田は困惑していた。夢の中に子供らしき影が現れて対局をしたのだ。その子供の影は自分が作り出した幻影にも思えたが、真田が知らない手筋を次々と繰り出してきた。ベッドから起きてチェス盤に夢の対局を並べる。なぜ負けたのかもわからない程の実力の差があり、自分の脳内でどうしてこんな対局が作り出されたのか疑問だった。


 昼になって、ニューヨークチェスクラブに行きラモスに会った。ロバートを紹介してくれるという。

「今日は2階だぞ。大丈夫だ私がついてればオーケーさ」

 ラモスに連れられて2階へ上がって行く。

「彼がまだ初級者だった頃から面倒をみてたんだ。いや、子供の相手をするのが好きでね、でも彼は色々とかわいくないぞ」

 階段を登りきったところで唇に人差し指を当てて、内緒だぞというジェスチャーをしながら言った。そこは1階の講堂よりは小さいが30個程のテーブルが並んでいる。そこはいかにもインテリな見た目をした男性達で埋め尽くされていた。

「やぁ、ロバート。彼が記者のミスター真田だよ。彼は将棋の国から来たんだ」

 ラモスが2階にいる唯一の子供に言った。

「ショウギ? 」

 ロバートは確かに子供だった。体は同年代の男の子と比べて大きい方だろうが、やはり少年らしく骨格は未熟だった。彼を見て真田は、ラモスが色々とかわいくないと言った理由の1つを理解した。ロバートは白人の少年で、目の掘りがとても深く、影なのかくまなのか目の下は黒い、そして目つきが明らかに子供のものではなかった。10代前半の少年の目にはまだ遊びのある輝きが見られるものだ。彼がかわいくないと思える原因はもうひとつ、彼の耳が北欧の童話に出てくる妖精のように尖っていることだった。


「そう将棋だよ将棋。将棋はすごいぞ」

 ラモスはそう言うと、ロバートが棋譜を並べていたチェス盤の上にすでに取られて死んだ駒を打ち付けた。

「こうやって取った駒が使えるんだ! クレイジーだろ! 」

 ロバートはこのラモスという男がアジアの文化にかぶれていたことを思い出した。

 真田はロバートとラモスの会話を見守っていたが、やがてロバートが真田のことを上から下まで舐めるように見た。真田はロバートに手を差し出し、

「初めまして、真田智史です」

「ロバート・フリッツ」

 ロバートは恥ずかしそうに握手を受け入れ、不器用に名前だけを言った。ラモスは浮ついた声で真田と将棋について語った。

「彼はマスタークラスの将棋プレイヤーなんだ! チェスだってまだ覚えて2ヶ月だが、既にFM(FIDEマスター)並の実力を持っている。取材を受けるついでに対局してやってくれないか? 」

「かまわないよ」

 ロバートは体をゆすりながらぶっきらぼうに答える。ロバートは見た目が子供らしくないだけでなく、愛嬌もなかった。


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