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「悪魔」ニキータ 5

 ○月○日


 スポーツチャンネルの番組に呼ばれ、公開対局をさせれらた。ただの対局ではない。僕は椅子の座った状態で目隠しをされ、同時に3人のGMを相手にした。その3人は確かフランス人、中国人、イギリス人だった。

 これはハンディキャップのつもりだったらしい。つまらないチェスだった。



 ○月○日


 チェス関連イベント・番組以外に、僕はいわゆる「タレント活動」なることをさせられている。モデル活動もそうだ(もっとも、僕はそんな活動を望んでいない! )

 今回は映画を見せられた。公開イベントで、僕が駆り出されるのだ。僕が映画なんぞのイベントに呼ばれた理由は、その映画の宣伝文句が以下のようだからだ。


「○○(作者? )の最高傑作! 複雑な恋愛模様の中を、まるで人物のひとりひとりがチェスの駒のように精緻に絡まっていく。ラブロマンスの決定版! 」


 まったく興味を引く謳い文句ではない。

 結末は男Aと女Aがキスをして結ばれるものだった。つまらない恋愛映画でも人物には明確な役割があるのが見て取れた。チェスとの共通項を無理矢理にでも抜き出せばそんなところだろう。

 男Aと女Aがキスで結ばれるという終局。そのために男Aの踏み台となる男B。そして踏み台に寄り添う女B......。

 僕が誰か人間にキスをしたいと思ったことはないが(うっすらと本にキスをしたような記憶はある)、僕の目の前で、共に終局を演じられる者がいるのなら、僕はその者にキスをしよう。



 ○月○日


 久しぶりに学校へ顔を出した。

 唯一の同級生アレクサンダー(以下アレク)が嬉々としてアメリカンカートゥーン(アメコミ)の話をしてきた。他の生徒は僕を見て嬌声をあげるというのに、アレクはいつも通りだった。改めて美醜の視点を以って見れば、彼は醜い。どうしていつも鼻水を垂らしているのだろう。

 醜いアレクは興味深い話をした。

「この漫画はね。悪いやつをヒーローが倒すんだ。悪いやつはすっごい強いんだ! 誰も勝てない! 」

 アレクはそういえばいつも教科書の代わりに漫画を音読していた。

「でもね、悪いやつがどんなに強くても、ヒーローはさらに強くなって、悪いやつをやっつけるの! 」


 アレクの大好きなカートゥーンと、先のくだらない恋愛映画の役割論を組み合わせれば、「悪くて強い奴」には必ず「さらに強いヒーロー」が立ちはだかることになる。

 この世界にもそんなフィクションの役割論が当てはまるなら、僕が悪者になれば......僕の望む展開が来てくれる。僕をチェックメイトするヒーローが現れる!



 ○月○日


 夢を見た。

 夜のサンクトペテルブルクの大通りの真ん中に、チェス盤の前にうずくまって震えている子供が見えた。尖った耳に窪んだ目。ロバートだろう。僕はチェス盤に手を伸ばし「手」を着手したのだが、彼は泣き叫んでチェス盤をひっくり返し、走って逃げてしまった。僕が振り返ると後ろには男達の死体が山積みになっていた。見慣れた顔がたくさんあった。ヴィクトール、アーロン、タラス、レオニード、どこかで対局したイギリス人、ウクライナ人達。



 ○月○日


 僕はひとりぼっちになってしまった。それは寝てる間のことだ。夢の中では僕は自由だった。思考した数理は空中に様々な幾何学模様に描かれた。チェスだってできた。ここでは誰とでも対局できたのだが、それは昔の話だ。ここに人間はいない。あるのはチェスセットと大量の死体だけ

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