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世界タイトルマッチ挑戦者決定戦 10 (シシリアン・ディフェンス・マローツィバインド)

 大会4日目。レオニードは午前の対局を黒番で迎え、ロシアの共謀に身を捧げた。午後の対局は白番を持つ。

 この時点で彼は1戦目のニキータ、2戦目のロバートとの対局で7連敗と最下位を独走している。それに対してニキータ、ロバートは7連勝とトップ争いをしていた。


『ロバート、見ていろ。今から本当の俺を見せてやる』

 この挑戦者決定戦でロバートと最後の対局になる。

 今日も昼の休憩を満足に取ることができなかったロバートは不機嫌そうに舞台に上がり、席に着いてレオニードを小バカにした顔で一瞥(いちべつ)した。ロバートはどうせこの対局もつまらない冗長(じょうちょう)なものになると思っているのだ。

 時間になり審判員のコールと同時に白番が一斉に第1手を着手した。この対局に特別な意気込みを持つレオニードの手はe4だ。それに対するロバートはc5。ロバートは黒版を持ったとき、e4に対してはc5とシシリアン・ディフェンスで応じることはマスター達の間では常識となっていた。この対シシリアン・ディフェンスにレオニードは秘策を用意していた。

挿絵(By みてみん)

 盤面はシシリアンの基本形に進んでいた。本来なら白はここでクイーンサイドのナイトを繰り出すのが定跡であるが......。


挿絵(By みてみん)

 レオニードはナイトよりも先にcポーンを突いた。ロバートの顔色が(にわ)かに変わった。明らかに冗長な持久戦を目指す指し手ではない。これは「マローツィバインド」と呼ばれる抑え込み戦法である。

 レオニードは知っていた。ロバートが対局に負ける時は抑え込み戦法が多いということを。彼は若き新星らしくその実力は中終盤によく発揮されるが、それだけではない。彼を世界ランキング5位に押し上げたのは序盤(オープニング)戦術の研究である。ロシアンプレーでは序盤はさほど重要視されない。序盤は均衡を保ち、不利にならなければ良く中終盤に小さな優位を積み重ねる。若きレオニードはこれに手を加えた。ロシアンプレーらしい指しまわしをしながらも彼は序盤の1手から優位を積み重ねようと日々研究していた。

 これらの工夫が彼を世界トップクラスのマスターに押し上げ、この挑戦者決定戦の場にふさわしい男たらしめている。彼の深い研究、ロバートの深い読みから繰り出されるタクティクス、新たな時代のチェスはこの20代の2人が作るとも言われている。


 ロバートは考えている。なぜ目の前の男が急に態度を変えたのか。

『これは急戦調のレオニード得意のカタチではないか。この方向展開はなんだろうか? 確実に研究手の用意はあるだろうが...... 。』

 これ以上抑え込みのカタチを作らせるわけにはいかない。ロバートは駒損を覚悟でポーンを突き出し攻めに転じた。一時的に不利な変化に突入する、まさにレオニードの思惑通りだったがロバートの口元は笑みで緩んでいた。

挿絵(By みてみん)


 ロバートの突然の攻めにレオニードは一瞬焦ったが、ここで駒得すればまさに研究通りの優勢な局面を作ることができる。チェス帝国の共謀、そして1人のチェスプレーヤーとしての職責をここで全うできる。

 そう思った。

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