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日本チャンピオン 2

 国実と岡部は対局者2人の指した手を何度も初手から目で追って反芻(はんすう)していた。国実も岡部もチェスはルールしか知らない。しかし、将棋指しの深く速い読みで両対局者の次の1手を予想していた。


 坂平はQb6と指した。盤の中央でポーンを挟みビショップとクイーンが向かい合った。まさに中央で刃を交えつばぜり合いをする格好である。


 クイーンは基本的にはナイトとビショップが展開された後に繰り出されるものだ。ポーン、ナイト、ビショップの後ろから、必殺の一撃を食らわせるために虎視眈々と(にら)ませるのだ

挿絵(By みてみん)


 お互いがクイーンサイドのナイトを手順に展開し、真田がキャスリングして守りを固めた。そこで坂平は仕掛けた。クイーンで敵陣に突っ込みポーンを1つ取った! チェスでは白が主導権を握る場合が多い、黒は無理に仕掛けて主導権を握るようなことはしてはならないとされる。なぜなら強引な手は自陣に大きな(ほころ)びを生んでしまうから。


 坂平は強引に攻めつぶそうなんて考えてはいない。強力なクイーンを盤上に残したままだと、中盤から終盤に差し掛かる所でチェックメイトに至る思いもよらない局面を向かえる可能性が高い。お互いのクイーンを交換し、盤面をおとなしくすることで、チェス独特の駒の位置的優位を競う、つまり飽くまでもチェスセンスを競う勝負に持ち込もうとしているのだ。

挿絵(By みてみん)


 この坂平の作戦に真田は気がついていた。そして真田だけでなく、横で観戦している2人の将棋指しもそれに気がついていた、国実も岡部も静かな終盤になれば日本チャンピオン坂平に分があると見ていた。

 坂平は真田がクイーンを盤上に残そうと無理な指し方をして崩れると踏んでいた。しかし、真田はチェスに触れてもう3ヶ月になろうとしている。チェス独特の静かな終盤もそれなりにわかっている。それよりも、真田は負けず嫌いなところがある。将棋を指すときも相手の得意戦法を敢えて迎え撃つことを好んでいた。真田は迷うことなくクイーンの交換に応じた。坂平の作った土俵に乗ったのだ。

挿絵(By みてみん)


 坂平が将棋指しとチェスで対局するのは初めてではない。チェスを趣味として始めたプロ棋士と何度か対局している。そのたび、坂平は苦渋を飲まされていた。日本チャンピオンではあるが彼は決して天才ではなかった。彼がチェスではなく将棋に情熱をかけていたとしても、奨励会に入るほどの実力をつけられずアマチュア4段が限界だっただろう。天才はみんな将棋に行ってしまい、日本チェス界には凡人しかいない。チェス後進国の日本ではFIDEマスター程度の実力でチャンピオンになれてしまう。彼は日本国内のチェスプレーヤーの中で最も努力した人間なのだ。それを将棋の天才たちは片手間でチェスを覚え、坂平を簡単に追い越してしまう。


 彼はこの場で確かめたかった。この新たな将棋の天才はまた自分を超えて行ってしまうのか。

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