今の今まで
初投稿です! gdgdだとは思いますが、付き合ってくれたら幸いです! あ、あの、えーっと、投稿速度は期待しないでください。
手にもったタオルで汗を拭いながら、神崎要は延々と旧校舎に続く道をを歩いていた。7月の涼しい風が頬を撫でる。道ながらいじくっていた携帯端末のカレンダーは午後三時を指している。
要たちが中学時代所属していたゲーム部の五人で集まろうという提案が出たのは昨日の夕方だった。中学時代、生徒会規約の隙間を縫うように押見担衣主導で作られたこの部活で要たちは今年の三月前半まで色々とやった。お泊まり会から旅行、ゲームのレベリングまでも。卒業後、まだ数ヵ月しかたってないが会おうという話が出るのは当然のことだった。
集合場所は北夭学園高等部旧校舎の二階ーー元ゲーム部部室だ。同じ学校でエレベーター式にかけ上がって行った五人だが、普通科から特別科まで進路は様々だ。しかも北夭学園の総面積は千葉県の三分の一を占めるほどで、顔をあわせることだって稀だ。榊原優納や押見担衣、乾七香は卒業以来顔も見ていない。寮で同室だった桜庭有さえ寮を出るときに別れて以来だ。
早く会いたいな、そんなことを考え込みながら歩いていたら、目の前をよく見ていなかった。階段に気がつかなかったのだ。登りだったのが幸いだが、一番下の段に躓き転んでしまった。目の前には階段の角が至近距離でどんどんと近づいて来る。要が多少の怪我を覚悟した時だった。要の後ろで、もう何ヵ月も聞いてない、それでいて聞き覚えのある懐かしい声がした。
「要、考え事は寮でやればいいじゃないか。危ないぞ。」
首根っこを捕まれぷらりと小学生にも見えてしまうほどの要の小柄な体が宙に浮く。怪我をしないよう、軽く地面へとおろされた。襟で首が締まって数秒間咳き込む。
「んなこと、わかって、ゲホゲホ。ーー久しぶり。有。今の寮はどうだ。」
「要がいないからなぁ。勉強についていけないよ。それよりも、前から考え事しながら歩くのやめろっていってるだろ。ただでさえ要は小さいんだから迷子と勘違いされるぞ。それ以外にもーーー」
有の相変わらずの心配性に辟易しながら歩き始める。階段を上がって直ぐの角を曲がれば旧校舎だ。
「小さい言うな。俺はれっきとした高校生だ!」
「ハイハイ、身長139センチのね。小学生から一緒だからそれくらい知ってるよ。ーーー変わってないな。」
「わざわざ身長のこと言い出すのは嫌みか有。ええ変わってないよ。たった数ヵ月で変わってたまるか。それよりもそっちは担衣や乾たちと一緒だろ? 特別特種科って何やるんだ?」
要は普通科特別進学コースに進んだが、担衣や有、榊に乾は全員特別特種科に進んだ。授業や廊下で会うこともあるだろう。皆のようすが知りたかった
「あー、えっと、学科の事情で部外者にはちょっとな。でも、みんな元気なはずだぜ。」
有にしては珍しいお茶を濁すような発言に要は不信感を抱いてしまった。要は元々自分が疑り深い正確であることはよく知ってるし、直さなければいけない短所であることもわかっているが、学校に対する不信感は拭えない。有が嘘なんてつけるような賢い男ではないことを要はよく知っている。それだけに不気味だった。
話ながら歩くと時間が過ぎるのが早い。あっという間に部室前に到着した。水色の引き戸が自動で開く。
「おひさだな、ってあれ? 何これどういう状況・・・」
部屋の中央で拘束されている担衣と榊、周りには見知らぬ武装した男が数人。明らかに異常事態だ。また担衣のイタズラか? そう思ったときだった。普段からは考えられないほどの声量で担衣が言う。
「か、要くん、来ちゃダメ! 有くん!」
「分かってる! 要!」
後ろにいた有が要を引っ張り自分の後ろに庇う。要は反動でしりもちをついた。呼吸が浅くなるのがわかる。何がなんだかわからなかった。
「」
ダンっと後から銃声のようなものが聞こえた。ゆらりと有の体が崩れる。
「っ! 有!」
「平気だ!ただのゴム弾だ。 一回逃げるぞ担衣、榊、乾、要。ーーー相手が悪すぎる。」
さっきよりも大きく、鋭い発砲音がした。有の背中にそれは何個も突き刺さる。有がうつ伏せに倒れる。体の下から赤いものが染み出しているのが見えた。頭の中が真っ白になる。遠くで誰かが叫んでるように聞こえた。
「うわあああああああああああああああああああああああぁぁぁ」
何も考えられなくなった。喉の痛みから自分の声だと気がついた。もう何も考えたくないと、意識を体が勝手に放棄しかけた、そんなときだった。肩に誰かの手がおかれる。
「はい、ここまで来て叫ばないで。落ち着いた? 深呼吸深呼吸。ーーーあ、振り返っちゃだめだよ、覚えていないと思うけど、契約違反になっちゃうから。それはすごく僕も嫌だ。」
知らない声がそう言う。不思議と聞いていると落ち着く声だった。だが、そこで要は異変に気づいた。旧校舎内の教室前にいたはずが、本棚と壁以外すべて真っ白な部屋にいるのだ。
「ここは、どこだ・・・・・・」
状況がわかっていない要のことなどお構いなしに声の主は一気に捲し立てる。
「あぁ、うん、不思議だよね、気になるよね。でも今は時間がないんだ。約束通り記憶の封印をひとつあける。それを見ればある程度はわかるはずって言われているから。さて、契約通り、キミの預かりものを返そう。この本を。さあ、今まさに危機に陥ってるはずのキミの友人を助けておいで。使い方はわかるはずだよ。だってキミの能力『原初の書』なんだから。ーーーじゃあ、いってらっしゃい。また来てくれると、僕はとっても嬉しいな。」
肩から手が離されると同時に頭の中に物凄い情報が流れ込んでくる。本の使い方、今まで忘れていた記憶、今だかけている記憶、そして、今、どうすればいいかも。多すぎる情報量で引き起こされた頭痛で思わず目を閉じる。頭痛がようやく収まり、目を開けた時には教室前、有が倒れたすぐそばに要はいた。
「っ、もうなるようになっちまえ!!!」
革表紙の本を開き、頭の中に浮かんだ文字をとにかく早口で捲し立てる。言い終わったとたん、軽い酩酊感が要を襲いーーーそこから先は記憶がない。
気づいた時には病院のベッドの上だった。