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第09話 家改造と薬師

 町の衛生状態を最悪だと仮定した場合、下手をすると井戸水が汚染されている可能性がある。暑くなれば伝染病も発生するかもしれない。

 真也はまずライフラインを確保することに決め、裏手の井戸に向かう。井戸は建物内部にあり、周辺は土間になっている。


「森羅、ここに住んでいる間はこの井戸と周辺の土地に対して【浄化】魔法を目立たないように効果永続でかけてくれ。後、建物内部の空調制御と空気の浄化、清掃も頼む」


「分かりました。浄化術式、元素術式起動」


 かすかな光が一瞬輝き、すぐ消える。次に真也はトイレに行く。バケツの中に【浄化】と【元素】魔法をかけ、急場をしのぐ。汚物は浄化すると唯の水に変化するので浄化後に出る水を消せば何もしなくてすむ。真也は後での改良を誓った。


 廊下と部屋の床は石がむき出しだったので、水クッションの応用で水絨毯を敷いた。これで靴を脱ぐことができるようになった。店舗はむき出しのままで、カウンターの扉を内玄関に見立て、靴を置く。


 風呂場は井戸の隣の部屋にする。昔の用途はたぶん倉庫だろう。周りを水絨毯で囲み水漏れしないように対策する。後は風呂桶の形に水を整え、そこにお湯を入れて【浄化】をかければ、部屋内で完結する循環系を持つ風呂の完成だ。


 一応改修に入る前、森羅に魔力量は大丈夫か聞いたが問題ないとの返事に、真也は気を良くし色々改良を行った。


「こんなものか」


 すっかり冷たくなった串焼きと固いパンを【元素】魔法で温めなおした物を食べながら真也はやり残しはないか考える。空調完備、床の感触はふかふか、台所と風呂も大丈夫だ。汚水処理もしている。急ぎのものは終わったようなので、後はゆっくり改修して行くことにする。


 その後、久しぶりに入った風呂ですっかり気持ちよくなった真也はそのまま寝てしまいそうになったが、何とかこらえて二階の寝室に戻り、寝る準備に入り、いつものように検討を始める。


(やっとスタートラインに到達した感じだ。地道にお金を稼ぎつつ、情報を集めよう。集める情報は……暦、魔法、魔道具、種族、常識事項、……とりあえずこんなものか。

 図書館のようなものがあれば一番都合が良いのだが無いだろうな。紙と本は存在しているようだから、資料はどこかに売っているだろう。ギルドで聞いておけばよかったな、失敗した。安くはないだろうから後回しにするか。

 明日は取引をしてから色々買い足そう。さすがに手持ちが銀貨五枚ではろくな買い物はできないからな。さて寝るか……おやすみ)


 いつも通り、懐にいる森羅を撫でて目を閉じる。やはり疲れていたのか、すぐに意識は闇に飲まれていった。



 次の朝、真也は日の出と共に行動を開始する。台所を使い昨日購入した鍋に野菜と満月熊の肉のカレーを作り森羅と食べる。熊の肉は固く臭みがあると聞いていたが、この満月熊はおいしいと言える味だった。テーブルと椅子はとりあえず水を固めて作ったが、皿を買い忘れていたので二人とも鍋から直にルーだけを食べる。真也は好物なのでルーだけで満足できるし、森羅はそんなこと気にしないから問題はなかった。米はあるが、栽培の目処が立っていないため使わない。


 魔物の肉は高く売れるかもしれないが、この熊を売るのは目立ちすぎると真也は判断し、自身の強化も含めて一頭分程度は自分で消費することにした。リュックに入れておけば腐らないので残りはしまったままにしておく。


 片付けを終えた真也は荷物を確認し、森羅に魔法をかけてもらって外に出る。ちなみに森羅は姿を消してリュックの定位置に座っている。


 外に出ると明らかに汚物の臭いが鼻につく。これも調べることにして、地図を見ながら取引予定の薬師の店に歩いていく。

 真也の感覚ではまだ早い時間だが、通りの店はすでに開店している。暗くなると閉店になるので、その分朝は早く開くのかもしれない。


 辺りを眺めながらゆっくり歩いて二十分程で目的の店に到着する。この辺りは汚物の臭いが少ない。人通りがあるからきちんとしているのだろう。扉を押して中に入る。


「おはようございます。ニフィスさんいらっしゃいますか」


 店の中はハーブのような独特の匂いに包まれている。商品が見えるところに置いてあるわけではないので、カウンターの奥で調合した匂いが漂っているのだろう。店内に誰もいなかったので、真也は奥に向かって声をかける。しばらくすると奥から初老の女性が現れた。


「いらっしゃいませ、おまたせしました。何が入用でしょう」


 女性が微笑みながら真也に用件を問いかける。真也は懐から紹介状を取り出し、女性に渡す。


「初めまして、私はノルと申します。商業ギルドから紹介を頂いたのでこちらにお邪魔しました。ニフィスさんのお店で間違いないでしょうか」


「はい、その通りです。

 私がニフィスです。初めまして。挨拶が遅れてすみません」


 挨拶をしたニフィスは紹介状を開いて中身を確認する。少し驚いた表情をして真也を見る。


「素材を取引したいとのことですが、見せて頂けますか」


 そう言ってニフィスは店の奥の部屋に真也を連れて移動する。椅子に座った真也は引出付のテーブル上にある容器に薬草類百束、大牙猪の肝五個、大緑蛇の毒袋五個を入れる。

 ちなみに森羅は邪魔にならないように姿を消して空中へ浮かんでいる。

 ニフィスは手に取って素材を調べると嬉しそうな声を上げて真也に話しかける。


「どれも素晴らしい状態です。これでしたら全部で二千百Aで引き取ります」


「ではそれでお願いします」


 真也は特に交渉せずに金額を決める。世の中には人の好い笑顔で騙す輩もいるが、相場も詳しく分からないし、ニフィスの嬉しそうな顔を見て足元を見たわけではないと判断した。それに曲がりなりにも紹介された店である。騙せばギルドの顔を潰すことになり、顔を潰されて黙っているギルドとは思えない。


 ニフィスは素材を奥に持っていき、代わりに温かい飲み物と銀貨を持ってきて真也に渡す。二十一枚確認して真也は小袋にしまう。


「良い素材をありがとうございます。もし機会があればまたお願いします」


「こちらにはしばらく滞在する予定なので、こちらこそよろしくお願いします。

 卸せる品目はこの近隣でとれるものばかりですが、よろしいですか」


 出された飲み物を飲みながら真也は在庫事情が分からないので一応確認する。過剰在庫になれば双方困ることになる。


「ええ、傷薬は絶えず探索者達に需要がありますし、他の薬も結構売れます。むしろ今まで材料が足りない状態でしたので、助かりました。特に毒袋は手に入れにくくて難儀していたのです」


「そうでしたか、それは丁度良かったです。たしかにあの蛇が出てくる草原は結構遠いですからね。いつもはどのようにして入手しているのですか?」


 真也は既存の入手経路を知るために尋ねる。大規模に取引を行った時、まずい所に目を付けられるのは御免である。


「いつもは探索者ギルドに依頼を出しているけれど、処理が大雑把で効き目が悪くなってしまうのが大半なの。抗議はしているのだけど、その品質で良しとする人が同業者に多いから聞いてもらえないわ」


 それを聞いた真也は良い人を紹介してもらったと安堵する。妥協が多い人は何故か現状維持もままならなくなるものだ。また、既存の入手元である探索者ギルドにとってニフィスは上客とは言えないようだから、多少多く卸しても問題にならないと判断した。


「そういえば以前こんなことがあったわ。夏の暑い時期に探索者が持ち込みで大牙猪の肝を売りに来たのだけれど、品物は汚い袋から取り出すし、色は黒く変色しているし、半分溶けているようなものを買い取れと言ってきたのよ。

 当然買い取りしなかったら、盛大に文句を言って出て行ったわ。暑い時に何の処理もしなければどうなるかくらい分からないのかしら。

 保存バッグが高くて買えないのであれば、血抜きしてから冷却すれば一日程度は持つのに。

 確かにきちんと処理するのは手間がかかるけれど、後々自分に返るのだから覚えて損はないのにね」


 ニフィスはため息をつきながら不満を漏らす。


「そんなことがあったのですか。探索者は荒くれ者が多いようなので仕方がないのかもしれませんね。私がこの町にいる間はこちらに卸しますので、要望があれば遠慮なく言ってください」


「あら嬉しい。それでは何かあったらお願いしますね」


 和やかに話は進む。真也はこの状態ならいくつか取引以外のことを質問しても大丈夫と感じ、思い切って聞いてみることにした。


「話は変わりますが、私はまだこの町に不慣れでして、本を入手あるいは閲覧できる所と魔物の肉の買取ができる所、後は替えの服を購入したいので良い店を教えて頂きたいのです。よろしいでしょうか」


「ええ、構いませんよ。

 残念だけど本を売っている店はこの町にないの。その代り、探索者ギルドに一回百Aで誰でも閲覧できる資料室があるからそちらを利用すれば良いと思うわ。商業ギルドで注文すれば王都から取り寄せできるけれど随分高いものになってしまうのよ。

 魔物の肉はこの町では個人の店ではなく商業ギルドと探索者ギルドで扱っているわ。売値は商業ギルドの方が高いからそちらで売ったほうが良いわね。

 服については良いお店を知っているから紹介状を書いてあげる。ひいきにしてくれると嬉しいわ」


 ニフィスは微笑みを浮かべてテーブルの引き出しから紙とペンを取り出し、地図と紹介状をその場で書き上げる。


「名前はルードさんです。変わっているけれど悪い人ではないから」


 何やら不吉なことを言いながら真也に地図と紹介状を渡す。真也は懐にそれをしまって立ち上がる。


「ありがとうございます。助かりました。

 大分長居をしてしまいましたので、今日はこれで失礼します。

 それでは今後ともよろしくお願いします」


 真也はニフィスと握手をして店を後にする。

 幸先良い出だしに気分を良くして、地図を取り出し次の目的地である服屋に向かう。変わっているとの言葉に色々想像しながらゆっくり歩いていく。





 ちなみに想像した姿は大柄で髭の濃いオネエサマである。そのインパクトの後では他の特徴は無いと同じだろう……。


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