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第07話 次の町

 翌日、朝起きようとしている時に真也は違和感を覚えた。懐を探ってもあるべき感触が無い。あわてて飛び起きると周囲を見渡す。


「主様、おはようございます」


 真也は声が聞こえた方向に顔を向ける。

 ……そこには死屍累々の地獄絵図が広がっていた。



「いったい何があったんだ?」


 真也は素材を回収して残りを埋めている森羅に尋ねる。


「夜中に結界が反応したので見てみると、灰狂犬が居ましたので殲滅して処理を行いました。その後2回群れが現れたので同じように対応しました。その後も何故かたくさん寄ってくるのでそのまま素材集めをしていました。内訳は灰狂犬が四百八十二、満月熊が五、大牙猪が二十です」


 真也は報告を聞いて手帳を開き、それぞれの情報を閲覧する。その中に灰狂犬は満月に狂う、満月熊は満月時に力が五倍になるとある。大牙猪は特に関連情報はないが、この惨状に満月が関係しているのは確定だろうと思った。


 作業を終えた森羅が真也の傍によって来てじっと見つめる。真也は苦笑しながら森羅の頭を撫で、褒める。森羅に尻尾があれば、はちきれんばかりに振られていたに違いない。


 後片付けを済まして野営地を後にする。その後はいつもと同じように採取と素材集めを行い、惨劇の日から三日目の昼に次の町へ到着した。


 町の外周には木でできた高さ五m程の塀があり町を囲んでいる。入口の門には守衛がいて入る人の確認を行っている。その際何かを提示してそのまま入る者と、提示してお金を払うもの、何も見せず詰所に行く様に言われる者などさまざまな人がいた。


 居る人々も変わった者達がいる、定番の犬耳、猫耳の獣人を初め、エルフやドワーフに見える人達が普通の人に混じって出入りしていた。色彩はさまざまあったが、純粋に黒髪と言える人は見当たらなかった。


 真也は入口で聞き耳を立て中に入る手順を確かめる。探索者ギルド員は無料、商業ギルド員は一人銀貨一枚、未加入者の商人は一人銀貨五枚と荷車一台で銀貨五枚、詰所にいく方は身分照会をして問題なければ一人銀貨五枚で入ることができる。

 商人の荷車を引く動物は二本足のトカゲで、かなり大きい。餌が大変そうだと場違いな事を真也は考えている。


 手順が分かっても当然無一文かつギルド員ではない真也に町へ入る術は無い。もちろん隠れて町に入る。手帳を開いて地図を見ながら町を調査する。町に入ると汚物の臭いがした。馬糞などの処理をしていないのかもしれない。


 まずは物価を調べる。通貨単位はアークで銅貨が一A、銀貨が百A、金貨が一万Aで百枚ずつで繰り上がる。宿代が五十Aから百Aと見ると大体銀貨一枚で一万円程度ではないかと推測する。当然価値基準が異なるので価格に違いは出るだろうが判断材料にはなる。パンのような塊が銅貨五枚、串焼きが五本で十枚等、生活に必要なところから市場を調べていく。


 次に探索者ギルドに行き、職業の内容を調べる。だいたい想像通りで要するに荒くれ者を野放しにしないように束ねる組織だ。確かに職があれば犯罪に走る確率は低くなる。何でも仕事を斡旋し、日々の糧を提供する。中々良くできている。


 加入すると町に入る税金が掛からなくなる。これは全ての依頼から引いてあるらしい。会社員のようなものだ。確かに税金の申告は大雑把な人には無理難題である。


 素材の買取も行っている。観察していると基準が一定しておらず、その都度の査定に見える。実際同程度の品質で金額が違うものがあった。探索者の愚痴を聞いていると、依頼以外の素材は需要があるかで日々値段が変わるとのことだ。ギルドに加入しなくても持込なら受け付けるし、買取も行う。


 これはギルド員のみに限定すると、討伐が遅れるからである。場所が指定されている依頼は後で確認を行うが、常時出ている依頼はどこで誰が狩ろうと全体が減っている事に変わりは無いからだ。常時出ている依頼のほとんどは国が金を出している。


 次に真也は商業ギルドに来た。商人を束ねて税金を納めるのが主な仕事だが、独自の商品も売り出している。ある程度強制力を持たせるためには金が必要だからだ。


 加入するとギルドがある町で有利な商売ができる。大きなものでは町に入る際の税金の軽減、盗難補償や加入店同士の割引や融資等がある。加入には銀貨二十枚、年会費が同じ金額必要となる。


 露天商は土地を借りて月に銀貨三枚で商売できるが、年間でみれば損をしているし素材取引や融資を受けることができない。


 ここでも素材の買取は行っているがギルド員以外は売ることができない。税金は専用の魔道具で自動的に計算されるので店側が複雑な計算をしなくて良い。


 最後に魔道具屋を見つけたので調べてみる。隙を突いて店の奥に入り在庫品を調べる。カイの村で見かけた通り、魔石に文字を書いてあるもの、彫り込んであるもの、魔物素材と思われるものに書いてあるもの、刺繍してあるものなど様々なものがあるが共通することは文字が必ず記入されているということだ。


 次に真也は収納バッグに類似したものを探す。これがあればリュックのことを誤魔化すことができるからだ。森羅に情報を読み取らせて機能を確認していく。表層の情報を取得するだけならば触れるだけで読み取れる。結果として空間拡張と時間停止のバッグは存在していた。


 これで誰かの目の前でリュックから取り出しても大丈夫ということになった。ただ、入れる口以上の大きさの物を収納できるバッグは出来ないバッグの五倍以上の値が付けられていた。


 だいたいの調査を終え、真也は人通りの少ない通りに移動して行き、途中に捨てられていた穴の開いた袋を拾いながら、今後の方針を決める。


(とりあえずここを拠点にしばらく動こう。これ以上の事を隠れて調べるのは時間が掛かりすぎる。まず探索者ギルドに行き銀貨四十枚程度の素材を売る。そして商業ギルドに行き加入して身分を手に入れる。加入にはお金以外は必要ないから大丈夫だ。

 その後商業ギルドで素材を売れば、この町のギルド員の商人達と顔つなぎができる。信用されれば別な町でも有利になるだろう。

 拠点はできれば一軒屋を借りたい。値段を調べよう。よし、行動開始だ)


(『森羅、旅の商人の人を参考に服装を偽装して、その後に俺の隠蔽を解除。森羅はそのままだ。以降町の中では声を出さずにやり取りを行う』)


(『了解、幻影術式起動、障壁術式変更、主様の隠蔽を解除しました』)


 心の中で真也と森羅はやり取りを行い、誰も居ないことを確認してから真也の姿が町の中に現れる。その姿は町で見かけた商人らしき人の服装にどことなく似ているが違うという絶妙な服だった。


 穴の開いた袋の穴を適当に縛って塞ぎ、灰狂犬の牙を入れる。大きめの袋だったが、さすがに四百八十二匹分はぎりぎりだった。


 真也は自分の姿を確認し、探索者ギルドへと向かった。


 探索者ギルドの建物に入る。ギロリと中に居る探索者達が見てくるが、すぐに視線は外される。おそらく依頼者に見えたのだろう。真也はそのまま依頼が張ってある掲示板に行き、先程来たときに確認した灰狂犬の依頼を取り、素材交換の受付へ向かう。依頼書には牙一本十Aと記載されている。


 受付には若い女性と、真也と同じ年頃の男性がいた。当然真也は男性の方に行き、依頼書を提示する。


「討伐証明の納品を受付お願いします。ギルド員ではありません」


「はい、ありがとうございます。それでは討伐証明部位をこちらへどうぞ」


 受付の男性は多少変な顔をしながらも流れるように受付を行い、小さい籠をカウンターに乗せる。さすがプロ、年季が違うと一人で感心する真也。


 真也は持っていた袋を籠の上に乗せる。男性は一瞬驚いた顔をしたが、何も言わずに籠を下ろし、本数を数えて牙を取り出した袋に硬貨を入れて、カウンターの上に乗せる。


「ではこちらが賞金になります。ご確認下さい。確認できましたらこちらにサインをお願いいたします」


 言いながら脇に置いた紙に金額を記入する。金額は四千八百二十A、銀貨四十八枚、銅貨二十枚である。真也は手早く袋の中で確認し、サインをして受付を離れる。


「ありがとうございました。またよろしくお願いします」


 双方会釈をして取引は終わった。隣の受付では若い女性がいちいち声に出して作業している。内容も金額もギルド内に響いている。自分のすばらしい取引相手に感謝しながら、真也は探索者ギルドを後にした。


 真也は商業ギルドに行く道すがら、雑貨屋できれいな小袋を二つ銅貨二十枚で購入し、店を出る前に隅のほうで小袋に銀貨を四十枚と八枚にして移しておく。小袋を懐に入れ、元の袋は空にして畳んでリュックにしまう。店の人はもう奥に消えているので問題ない。


 次に行くのは商業ギルドである。真也は中に入り受付に向かう。こちらは若い女性と男性がいた。女性の方は人が居たので男性の方に話しかける。


「ギルド加入の手続きをお願いします。こちらが加入金と年会費です」


 真也はあらかじめ銀貨四十枚を入れた小袋をカウンターに置く。


「ありがとうございます。それではこちらの用紙に記入をお願いします」


 渡された紙には名前・性別・年齢・出身等の欄の他に要望事項を記入する所がある。真也は名前を【ノル】・性別【男】と記入し後は空欄にした。信用が低くなるだけで、加入に問題無いのは先程の調査で確認済みである。


 要望事項の欄には一軒屋の貸家の情報と素材買取の情報がほしいと記入しておいた。


「よろしくお願いします」


 受付の男性に用紙を渡す。男性は用紙の記載事項を確認してなにやら操作し、カウンターに腕輪と小袋を置く。


「入金ありがとうございます。入れ物をお返しします。

 それとこちらの腕輪を貸出しいたします。腕輪は魔道具となっています。外せませんのでご注意下さい。腕輪には税金納付に必要な情報が自動で記録されます。取引内容などは記録されませんのでご安心ください。

 また、お金をギルドに預けることも出来ます。預け入れと引き出しは各町にある支部でいつでも可能です。手数料は年会費に含まれていますので掛かりません。

 税金納付はギルドにて腕輪を提示すれば金額を提示いたします。後で納付する場合は前回納付から一年以内と決まっていますので忘れずに入金をお願いします。預入金がある場合は申し出があればそこから月々引いていきますのでご利用ください。

 滞納した場合は犯罪者として引き渡され、全財産を没収されますので溜めずにこまめに支払う事をおすすめします。

 取引が行われなくても年会費の支払いは必要です。二年間支払われない場合は除名されます。

 加入の説明は以上となります。引き続き要望事項の説明を行いますので、あちらの部屋へどうぞ」


 そう言って腕輪をつけた真也を促し、奥の小部屋へ移動する。




 若い男性の淀みない説明にちょっと負けたような気分になった真也であった。


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