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第06話 初めての接触

 空が白み始め、遠方の山から太陽が顔を覗かせる。まだ寒い朝の空気の中に暖かい日差しが降り注ぎ始める。野営地も明るくなり、真也は目を覚ます。今回は寝ぼけずに身体を起こして、まだ寝ている森羅を懐から静かに取り出し、クッションに置いて毛布をかける。


 昨夜作っておいたトイレに行き用を足す。穴の中には【浄化】をかけているので汚物の心配は無い。紙も複製できるのでこの手の方面の問題は発生しないだろう。


 真也は手を水で洗いトイレから出ると森羅はすでに起きていて昨日のスープを温めている。念のため【時空】魔法で状態を固定していたので腐ってはいないだろう。温かいうちに固定したから少しの時間ですぐ熱くなる。


「おはよう」


「おはようございます」


 挨拶を交わして食事にする。森羅は食事をする必要が無いが、一緒に食べる。昨夜ひとりで食べることが嫌だった真也が付き合わせて、これからも一緒に食事を取ることが決定している。味はきちんと分かるので楽しみのひとつになるだろう。


 食事が終われば後片付けをし、野営地を元に戻して痕跡を消す。真也は昨日決めたことを森羅に伝え、行動を開始する。


「結界術式解除、探索術式起動・最大展開」


 森羅が【探索】を最大で使用する。最大半径は十km。ずいぶん広いがその分精度は悪くなる。最大展開時では精々森・川・平野など大きなものしか検知できない。今回探しているのは街道や町などの大きなものなので、充分実用範囲に収まる。


 真也は得られた地図を手帳に表示して人工物を探す。現在地より南方向、三km程の地点に東西に伸びる線のようなものがあるのを見つけ、とりあえずそこまで移動することに決めた。


 四時間ほど歩いて現地に到着すると、予想通り踏み固められた道になっていた。道には比較的細い車輪の跡があった。これらを元に真也はこの地域の文明が最大で産業革命前までと予測する。


 元々いた地点が現在地より東側だったので、西に向けて歩き始める。ちなみにここまで薬草や魔石の採取、昨日出会った魔物達の狩猟と素材化も積極的に行ってきたので大分時間が経過している。それでもまだ昼前なのだから早起きは確かに得である。


 二時間程歩くと地図の端に町のような形が現れる。強化された今の速度ならば二時間で到着できる距離だ。お昼を携帯食料で済まし、【探索】の範囲を通常に戻して周囲を警戒しながら町?へ向かう。


 これまで誰とも会わないので、規模はさほど大きくないかもしれないと真也は推測する。小さすぎる場合は調査のみで通過することになるだろう。




 二時間かけて到着した『そこ』は小さな村だった。村民皆家族かもしれない規模のため、調査のみに決定する。真也は静かに村に近づき、隠蔽障壁によって村人が真也に気が付かないのを確かめてから調査を開始する。


「見た目は普通、今のところ人間のみ、色彩は金髪碧眼が多い。

 建物は基本石造りで小屋などは木で作っているものがある。文明は古代から中世期、道具は手作業のもののみ確認できた。

 比較的簡単に魔法を使っていた割りに、文明の進展が低い。要調査事項だ」


 真也は次々に必要な事を調べて、それを森羅が記録していく。


「畑が閑散としている。肥料や連作障害の知識が無いわけがないと思うのだが、理由は不明。

 通貨は銅貨と銀貨を確認。おそらく金貨もあるだろう。雑貨屋はあったが宿屋は無い。そして会話と文字が理解できない」


 真也はある程度調査を終えて村の外に出て見えない位置まで離れる。周りに誰もいないことを確認して調査結果を検討する。


(いたのが人間なのは良いことだ。色彩は変えれば問題ない。文化も理解できるもののようだ。

 魔法が身近な存在のようで、呪文なしで火や水を利用していた。その割りに魔法文明と呼べるものはなかった。魔石に文字らしきものを書くと魔道具になるようだし、もしかしたら手軽すぎて逆に発展を阻害しているのかもしれない。

 畑が閑散としていた……というよりこれから作付けなのか? 気にはなっていたが緑も濃いし、もしかしたら今は春か。そのうち分かるだろうしこれは放っておこう。

 通貨は貨幣で紙幣は無かった。国ごとに通貨が違うと面倒だな。今は無理だから物価も含めて後で確認しよう。

 店屋が村に一軒のみで商品が無いのは需要が少ないから置かないか、そのような販売形態が一般的かのどちらかだろう。……一般的である可能性が高いな。基本的に他人に対する信頼が無いと考えて行動しよう。

 予想に反して会話が理解できなかった。召喚ならば言語理解を組み込むと思っていたのだが違うようだ。これに関しては魔法を使えば問題ない。

 それにしてもずいぶん酷い召喚のようだ。絶対に関わらないようにしよう)


「森羅、村人の情報は取得できた?」


「申し訳ありません。接触する機会がなく、取得できませんでした」


 真也の背中に顔をうずめて森羅は返答する。それを背中に感じて苦笑する真也。ほんの少しの時間でずいぶん感情が出てくるようになったと感心する。表情は相変わらずだが。


「俺と森羅の見た目を金髪碧眼にして肌の色も薄く変更。それと言語理解をかけてほしい。二つとも効果永続で」


「はい、了解です。変化術式及び言語術式起動」


 森羅が顔を上げて魔法を使う。またもや身体が一瞬光ってすぐ消えた。


「森羅、こっちへ」


 手を伸ばして腕に座らせ見た目を確認する。かわいらしい金髪碧眼のなんちゃって巫女がそこに居る。真也の腕も色素が薄くなっている。ポケットから取り出した手鏡で自分の顔を見てもきちんと変化していた。


「うん大丈夫だ。森羅もかわいいよ、ありがとう」


 そう言ってまた森羅を定位置に戻す。何となく肩に置かれた森羅の手に力が入っているように感じる。


 再び村に行き言葉が理解できるか確かめ、読めなかった文字を確認した後、来た方向と反対の門から村を出る。看板があり、そこには『カイの村』と書かれていた。


 太陽が完全に沈む前に村から充分離れた所で野営地を見つけ、準備する。今回は人が通る可能性があるので街道から少し離れた所で野営している。結界で隠蔽しているので積極的に探さない限り見つかることは無いだろう。


 夜には結界の周囲に大型犬未満の犬のような動物が十匹程うろついていた。何か気配を感じたのかもしれない。森羅が結界に風の攻撃属性を付与し一撃で静かに倒す。名前は【灰狂犬】。素材を回収したが肉は食えない。埋めて処分した。


 昨日と同じ食事をし、同じように支度をして真也は今日の検討に入った。森羅は懐ですでに眠っている。


(やっと人が居る地域にやってきた。交流できなかったのは痛いが次に期待しよう。文化も特殊なものではないようだし何とかなるだろう。

 魔法については資料を見ないと何とも言えない。情報が不足している。

 気を付けなければいけないのは人間関係だ。日本と違い、基本的に見ず知らずの他人は『敵』だと認識している可能性がある。この場合いきなり親しげに近づくと大変なことになりかねない。気を付けよう。

 そういえば野犬が出てきたな。こんなに人里近くまで来るものなのか? とりあえず明日は注意して進もう。

 ……森羅は短い時間でずいぶん早く成長している。そのうち表情も変わるようになるだろう。その時が楽しみだ)


 夜空には大きな満月が輝いている。真也は毛布を掛けて眠りについた。





 ……結界の攻撃属性を解除しないままで。


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