表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/60

第57話 対決

「さて、この先で間違いないか?」


 真也は巨大な両開きの鉄扉の前に来ていた。その鉄扉は大人二人が両手を広げてもまだ端に届かないほど大きい。【探索】に間違いが無ければここが終着点である。真也の周りには楓と桜の眷属がそれぞれ二十体ほど控え、命令を待っている。


「はい、反応に変わりありません。人間が三十七、魔人が五、高密度意思体が一です」


 森羅が結果を報告する。人間が多いのは最初からいた護衛の兵士に加えて、騒ぎを聞いて一目散に逃げ込んだ者達がいたからだ。


「では行くとするか。最後の仕上げだ。森羅、やれ」


 真也の合図で森羅が巨大な扉を壁ごと吹き飛ばし、轟音と共に視界が大きく開ける。中は大規模な体育館ほどもある巨大なホールで、その中央付近に先程吹き飛ばした扉がひしゃげて転がっている。真也は敷かれた絨毯の上をゆっくりと歩き、前へ進む。


 まっすぐに敷かれた絨毯の先には段がつけられ、高くなった床に玉座が置かれている。その周りには人が集団で固まり、怯えた表情で真也を見ていた。魔人の姿は人に埋もれて確認できない。


「よく来たな。愚かな賎民よ」


 玉座に座った者が傲慢な口調で真也を歓迎する。真也はこれが『陛下』と思い目を向ける。そこには金糸で刺繍された豪奢な衣装に身を包んだ金髪の青年が、歪んだ笑みを浮かべて座っていた。その金の瞳には愉悦が見える。


「……忌み子?」


 真也は驚き、呟いた。これはさすがに予想外だった。距離があるにも関わらず、その呟きを聞いた『陛下』は真也を嘲笑する。


「これだから無学な賎民は! 本来なら聖域に侵入した罰として八つ裂きにする所だが、我は今、とても気分が良い。ここまで来た褒美に我が名を教えてやろう」


 『陛下』はゆっくり立ち上がると、マントを翻して手に持った金色の王錫を掲げる。それに合わせて周りの集団は跪き、頭を床につける。


「我こそは世界を創造せしシーヴァラスの力を受け継ぎし者! 大いなる神聖帝国を統べる神、ノーヴォテインなり!」


『大いなるシーヴァラスよ永遠なれ!』

『偉大なる皇帝陛下に永遠の忠誠を!』


 ノーヴォテインの名乗りに合わせて周りの人間が一斉に唱和する。そこに乱れは全く無い。ノーヴォテインは満足げに笑みを浮かべ、玉座に座る。周りは平伏したままだ。


「いつまで立っているつもりだ?」


 その言葉の直後に真也の周りを囲むように球形の光が浮かび上がり、すぐに消えた。


「ほう、さすが自由意志を持つ魔人だな。すでに支配を跳ね除ける力を持ったか。そして魔物を従える力も持っているようだな。これは面白い、褒美をやろう。何なりと申してみよ」


 ノーヴォテインは楽しげに目を細める。何故真也のような者が存在するのかは全く気にしていない。前回の戦いで生き延びた子孫なのかもしれないし、召喚時の事故ではじき出された者かもしれない。どんな理由にせよ、魔人程度の取るに足らない存在を恐れる事は無い。楽しませるために玩具が自ら目の前にやってきた程度の認識だ。それを見た真也は、視線に怒りを乗せてノーヴォテインを睨みつける。


「……ではいくつか聞かせてもらおう。まずは……、お前は忌み子なのに、なぜ普通に生きている?」


 忌み子が大人になるためにはこの世界は厳しすぎる。真也は高密度意思体に乗っ取られていると予想しているが、その情報を知っている事は知られていない。そして可能性としては非常に小さいが、逆に高密度意思体の力を簒奪した本人かもしれない。それを確定させるためにこの質問を最初にした。


「ふん、くだらん問いだ。だが答えてやろう。お前の言う忌み子とは我が広めた事よ。本来、金の瞳は神の血を受け継いだ証。神子と呼ばれる存在だ。だが、尊きものは我のみで十分だ。だから我が糧となる栄誉を与えた。この肉体は偉大なる我のための単なる器に過ぎん。矮小なお前達とは存在自体が違うのだよ」


 ノーヴォテインは傲慢に言い放つ。ひとりの人生を奪っておいて何とも思っていないのは見ただけで分かる。そして肉体が替えのきく単なる器である事を隠しもしない。真也は予想通りの答えに僅かに顔を歪める。


「次だ。何故『俺達』を召喚した。お前一人で十分だろう」


 ノーヴォテインが強大な力を持っているのは見ただけで分かる。部屋にいる人間は真也が発散する魔力に萎縮しているのに、ノーヴォテインは影響を全く受けていない。力を持っているなら弱い存在を手間をかけて召喚する必要は無いはずと考えていた。真也の様に自分で動いた方が早く解決できる。


「やはりくだらん問いだな。まあ良い、単に手足が不足していたから作っただけだ。どうせなら便利なほうが良いだろう?」


 くくっとノーヴォテインは笑う。真也は怒りに顔を歪める。


「最後だ。何故戦争を仕掛ける。この国は十分広い。これ以上は不要だろう」


 これは単なる確認だ。これまでの発言から、今まで集めた情報は欺瞞ではなく本当の事だと確信している。ゆえに既に答えは分かっている。


「馬鹿が。この世界の全ては初めから我の物よ。我が眠っている間に簒奪されたものを取り返すのは当然だろう? その程度も分からんか。所詮は賎民に迎合する愚か者よの」


「馬鹿はお前だ!」


 心底呆れた表情を作るノーヴォテインに向かって、真也は怒りの声を上げ、右手を勢い良く頭上に上げる。


 それと同時に五十以上の火球が真也の周りに浮かび上がり、手を下に振るうとノーヴォテインに向けて殺到する。人ひとり簡単に飲み込む程の火球が玉座の周囲に着弾すると轟音を上げて爆発し、一気に膨れ上がる炎に遮られて玉座が見えなくなる。


 その様子に真也は身体の力を抜く。そのまま踵を返して出て行こうとした時、いきなり横から腹に衝撃が加えられ、かなり離れていた壁に激しく叩きつけられた。


「がっ」

「ギャン」


 真也はうめき声を上げ、床に崩れ落ちる。すぐによろめきながらも立ち上がり、攻撃された場所を見ると、いつの間にかそこには魔人の男が一人立っていた。そして周囲を見渡せば真也は魔人達に囲まれている。真也の周囲に居たはずの楓と桜の眷属は全て床に転がっていた。


 ここに居る魔人は全員高校生位の男だった。元は感情が豊富に現れていたであろう顔も、今は能面の様に変わらない。真也はその光景を呆然と見ていた。


「中々の余興だった。宴会芸には使えるだろう。だが構築に時間が掛かり過ぎるな。どれ、稽古をつけてやろう」


 ノーヴォテインは無傷で玉座に座っている。炎に焼かれたはずの場所には傷一つ無く、燃え盛っていた炎は全て消滅していた。


 ノーヴォテインには真也が質問をしている時間を使って、強力な魔法を構築しようとしていた事が手に取るように分かっていた。魔人としては桁外れだが、自分には遠く及ばない事も。だからあえて準備が出来るまで待ったのだ。絶望に歪む顔を見たいがために。


 パチン。


 指を鳴らすと魔人達が一斉に動きだし、素手と魔法で真也をなぶる。真也は複数から同時に攻撃を受け、瞬く間に傷だらけになっていった。その光景を見ている玉座の後ろにいる者達は、ノーヴォテインの圧倒的な力に恍惚としていた。


「な、何故? あの首輪ではこんな複雑な命令は……」


「ふん、そんな事も分からないのか。我が居ればあんな玩具など不要だ。直接支配すれば良いのだからな」


 予想していなかった事態に混乱する様子を見せる真也に、ノーヴォテインは愉悦を深める。


「くそっ!」


 真也は縦横無尽に動き回る魔人達に翻弄されていた。二人までは身体能力の差で互角に対処出来ているが、それ以上になると直接戦闘の素人である真也では隙が出来て攻撃を受けてしまう。今も再び腹に強烈な蹴りを受け、壁に叩きつけられた。それでも真也は立ち上がり、抗い続けた。


 三十分程真也は諦めずに戦い続けたが、遂に気力が尽きたのか膝をついて立ち上がらなくなった。その体勢で側頭部目掛けて蹴りが放たれ、吹き飛んだ真也は横倒しになり動かなくなる。ノーヴォテインはそれを見ながら、口の端を吊上げて真也を嘲る。


「何だ、もう終わりか。この程度で我に牙を剥くとはやはり愚か者よ。多少強くなった程度では、神である我に触れる事すら不可能とようやく理解できたか?」


 ノーヴォテインは先程と同じように立ち上がり、王錫を頭上に掲げる。するとそこに二百を超える巨大な火球が現れた。その光景を見た真也の顔に、驚愕と絶望が浮かぶ。


 ノーヴォテインはそれを見て満足そうに笑みを浮かべた。この表情を見たいがために、わざと先程真也が呼び出した火球を超える数を一瞬で呼び出したのだ。


「己の愚かさが理解出来たか? そろそろ遊ぶのも飽きた。矮小な己を呪いながら滅びよ」


 そう言って真也に向けて杖を振り落す。無数の火球が真也に殺到し、爆音を響かせながら膨れ上がる炎に飲み込まれていった。


 あまりの熱量に床は溶け、景色が歪んで見通せなくなる。それを見た臣下達は再び平伏し、大きな声で唱和する。


『大いなるシーヴァラスよ永遠なれ!』

『偉大なる皇帝陛下に永遠の忠誠を!』


 先程と全く同じ言葉を聞いても、ノーヴォテインは上機嫌のままだ。それも当然、この言葉を決めた本人なのだから。


「全く、少しは楽しめるかと思ったが期待外れだったな」


 ノーヴォテインは臣下に強者の余裕を見せつける。そして熱に浮かされた様な視線を向ける者達を見て満足げに笑った。この充足感を得たいがために部隊が消えたと報告を受けても動かずに、真也が王城に突入してきても、あえてここまで何も手を出さなかったのだ。


 前回は人間達を侮り、力を満足に振るえるようになる前に器を破壊され、逃げなければならなかった。今回は違う。適合する肉体を得て、完全に甦った自分に敵う者は存在しないと確信している。








「全くだ。警戒していた自分が馬鹿らしいな」


 そこに聞こえるはずのない声が響いた。ノーヴォテインが驚いてそちらを見ると、業火に飲まれて消滅したはずの真也が片方の口元を吊上げた笑みを浮かべ、未だ陽炎を立ち上らせる床の上に腕を組んで平然と立っていた。先程までの血で汚れ、傷ついた姿は影も形もない。ノーヴォテインは予想もしていなかった事態に思考が停止してしまった。


「な、なぜ……」


「ん? 愚かで矮小な賎民に何を聞いているんだ? そんな事も神なのに分からないのか?」


 真也は呆然としているノーヴォテインを嘲り、鼻でせせら笑う。


「……きさまぁ!」


 ノーヴォテインは見くだされる事に慣れていないので、真也の安い挑発に簡単に引っ掛かり顔を赤らめて激昂する。そしてすぐさま魔人に真也を殺すよう命令する。


「あれを殺せ!」


 命令を受けて控えていた魔人達が動き出そうとした時、一瞬でその姿が掻き消えた。ノーヴォテインが理解出来ない現象にまたもや呆然としている所へ、森羅の静かな声が響いた。


「主様、予定通り全ての処理を終えました」


「分かった。ありがとう」


 ノーヴォテインが声のした方を見ると、いつの間にか真也の肩の上に姿を現した森羅が座っていた。そして両横には体長三mを超える巨大な黒狼となった楓と桜が控えている。業火の残滓も掻き消えて、溶けていた床も元に戻っていた。


 理解を超えた出来事にノーヴォテインは全く反応出来ず、呆然と真也を見つめる事しか出来なかった。








 時間は真也達が王城に突入した所まで遡る。


 中に入ると鉄が錆びたような臭いと汚物の臭いが漂っていた。真也は森羅に臭いを遮断するように指示を出す。わざわざ耐え忍ぶ理由は無い。


 奥に進んでいくと、兵士と思われる格好をした人間が複数転がっている。全員既に事切れていて、その顔はどれも恐怖に歪んでいた。真也はそれを見ても何も感じない。我ながら冷酷だと冷めた心で思う。


 今ここで行われているのは一方的な殺戮だ。真也からすれば相手が行った事を返しているに過ぎない。『相手は良くて自分は駄目』はこの手の輩の得意としている事だ。ぜひともそんな事を言わずに平等に堪能して欲しいと真也は思う。


「森羅、状況に変化はあるか?」


「現在はほぼ予想通りに動いています。追い立てた人は徐々に標的の近くに集中し始めていますし、標的は動いていません」


 調査の結果、住民は『陛下』に対して精神的に依存していると感じたので、王城で殺戮を行った場合、もっとも頼りになる『陛下』の所に逃げるだろうと予想していた。その位置と高密度意思体の位置が一致すれば、同一の存在と確定する。


「多少は動くかと思ったのだがな。動けない、動かない、動く必要が無い。どれだと思う? 俺は動く必要が無いだと思うが」


「集めた情報では傲慢で自信過剰な性格の様なので、こちらの戦力を問題無いと考えているのではないでしょうか。現状行われている事は自分でも出来る事ですし、主様の発散魔力から推測出来る力も相手にとっては全く問題にならない程度ですから」


 森羅の推測も真也と同じだ。取得した情報から、今から戦う相手は己の力を他者に見せつける事を渇望していると分析していたので、現状は不思議な事では無い。


 真也は自分の力がかなり強い事は自覚しているが、自分が最強だとは思わない。対策は相手の事を知れば知るほど立てる事が出来るのだから、自分の事が知られるほど弱くなると思っている。だから見せつけようとは考えない。そのため現在は魔力をある程度解放した真也と、楓と桜の眷属をおとりに使う事によって、森羅達の存在を隠している状態だ。


「と言う事は目の前に行くまで反撃は無いな。自己顕示欲が強そうだから、手下の目の前で一方的に蹂躙したいのだろう。こちらがそれに付き合う必要は全く無いが……。森羅、うまく演技出来ると思うか?」


 真也は立ち止まり作戦の検討を始める。今は取得した情報によって行動を考察しているが、まだ欺瞞である可能性は残っている。そのためある程度情報を収集して確定させなければならない。そして向こうからいきなり攻撃してくる性格なら既に行われている筈と考え、時間を稼ぐために一芝居打つ事を思いついた。


「こちらは弱いと言う先入観を持って行動すると思うので、大丈夫では無いでしょうか。物事は上げてから落とす方が面白いと資料にもあります。怪我なども幻影を被せればそれらしく見えると思います。防御は障壁で十分対応可能です」


 主の敵には容赦する必要が無いので、なかなか酷い事を森羅は平然とのたまう。


 真也はこの街で情報を集めるまでは、高密度意思体を侮れない強敵と認識していた。しかし、調べれば調べるほどそうは思えなくなっていった。魔人等で力を誇示したかと思えば、精神支配を配下に対して行う。それも歪んだ思想による支配だ。


 他者をねじ伏せたがるのは不安の裏返しだ。自分より強い者が存在しないと確認しなければ安心できない。本当に自信がある者はそんなものは気にしない。


 もしこれまで得た情報が真実なら、搦め手は考慮しなくても良い。森羅は既に相手の力量を把握して、大丈夫と言っている。直接的な対決なら障害にならない。


「ではやってみるか。うまく行かなければやめれば良いだけだしな。やるなら相手が最高に良い気分の時に落とすのが一番だから、基本は力尽きるまで抵抗して殺される事にしよう。きっと最高の高笑いを聞かせてくれるに違いない」


 真也としては笑って欲しくない。『フハハハ』なんて笑われたら、吹き出してせっかくの作戦を台無しにしてしまう。 


「森羅はその間に相手の情報を取得しておく。そうすれば聞いたり調べたりする手間が省ける。おそらくこちらに注目するから些細な事は気が付かないだろう。それで欺瞞かどうかは確定できる。相手が精神系の攻撃をした時だけ見えるように防いだふりをしてくれ。さすがにその演技は無理だ」


「分かりました」


 現在の真也の精神は森羅が完全に防御しているので、生半可な精神攻撃では攻撃を受けた事すら真也には認識出来ない。そのため仕掛けられた時にわざと防いだ演技を行う様にした。性格的に支配系の魔法は最初に使うと予想しているので、そうしなければ早いうちに怪しまれてしまう。


 詳細な情報の取得には触れるのが一番だが、今では時間を掛ければ近くに居るだけでも十分取得出来る。


「楓と桜は眷属を二十ほど出して、部屋の隅にでも隠れている事。倒された眷属はすぐ回収して良いよ」


 楓と桜は尻尾を振って了承する。楓と桜が本気で隠れると森羅でも見つけるのは難しい。


「で、可能性は低いが欺瞞だった時は逃げ出して、仕掛けられた罠ごと王都を吹き飛ばす」


 ここに高密度意思体が居る事は確定しているので、その時は憂いを断つために強引に全てを吹き飛ばす事になる。たとえ目の前に居たとしても、何の手も打っていない筈がない。この場合は知恵比べでは敵わない事が確定しているので、考えなくても良い方法を取らざるをえない。そしていずれ復活する時に備えて対策を考えなければならないが、時間があれば対処はしやすくなる。


「そうで無い時はおそらく最後に大技で倒そうとするだろうから、終わって満足している時に平然と俺が出現して相手を挑発する。情報通りなら簡単に引っ掛かってくれるだろう。森羅はその時の攻撃を片手間に防いで登場する。楓と桜も同じタイミングで俺の左右に出てくる。ここで俺が何か言えれば良いんだが……、まあ、その時に考えよう。これで良いかな」


 ここまでうまく行く事は無いだろうと真也は思っている。だが大体同じ流れになれば、十分効果は期待できる。


「魔人は今まで通りに処理をして構わないですか?」


「……ああ、そうしてくれ」


 森羅の問いに短く答える。真也はすでに覚悟を決めている。『魔人』と呼ぶのもそのためだ。


「では行こう。後は臨機応変に対応する」


 真也は奥に向けて歩みを再開した。森羅、楓、桜は姿を隠したまま付いていく。



 そして時間は冒頭に戻る。







 ノーヴォテインは傲慢であっても決して愚か者ではない。今回の計画も二百年かけて慎重に準備を行い、事が始まるまで誰にもさとらせなかった。現状で各国が全く対処出来ておらず、押し込まれている事がその証明となる。


 もし真也が介入しなければ、今回の戦争は早々にシーヴァラスが勝利していた筈だった。そこまで確実な作戦を組み立てた。そして力は既に元に戻っている。だからわざわざ隠れる事はしなかったのだ。しかし今、予想していなかった存在によって、綿密に立てた計画は力任せに食い破られようとしている。


 自分の理解を超えた出来事に思考が停止しているノーヴォテインを見て、真也は人の悪い笑みを浮かべる。森羅が集めた情報によって、既に欺瞞が無い事は確定している。後はここにいる黒幕を倒せばすべてが終わる。そして真也はあっさりと片付ける気は無い。自己満足と分かっているが、手向けの為に報復をきちんと行う事に決めている。


「道化になった気分はどうだ? 神を演じている時より似合っているぞ。さあ、遊びは終わりだ。矮小な己を呪いながら滅びろとは言わない。無力な自分に絶望し、泣きわめいて無様を晒せ」


 真也の宣言と同時に、今まで森羅が制御していた魔力が完全に解放された。そして真也が右手を左から右に振りぬいた動作に合わせて森羅が衝撃波を放ち、ノーヴォテインが張り巡らせていた防御魔法を破壊する。


 その結果、物理的な圧力さえ感じる膨大な魔力に直接晒された人間達は全身が硬直し、そのまま心臓の鼓動も止まってしまった。ノーヴォテインはその想定外の魔力を受け、高密度意思体になって初めて死の気配を無意識に感じ取り、恐怖した。




 ノーヴォテインの過ちは唯一つ、二百年前に真也を召喚してしまった事、それだけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ