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第05話 頼れる従者

 気を取り直して続きをしようとした時、真也の目にシートの上に広げられた品物が飛び込んできた。


「忘れていた。まず片付けるか」


 そう言って立ち上がると、品物をリュックに入れ始めた。その間森羅はシートの端で大人しくちょこんと座っていた。どんどん入れてもリュックの重さは全く変わらず軽いままだった。最後に簡易テントをしまうと残っているのは広げたシートだけになった。


 真也は周囲を確認して忘れ物が無い事を確認すると、リュックを置いてシートに座り直す。


「よし、では次に移ろう。……身体能力、特殊技能、魔法の確認か」


 真也は再び手帳を開き、次の項目を見る。どうやって確認しようか頭をひねっていると、いつの間にか隣に来ていた森羅が独り言に答える。


「現時点での主様の身体能力は『知の泉』に記録されている値を参照すると二十歳前後の成人男性の平均値と同程度です。

 魔力のみ数値的に飛び抜けて高くなっていますが、基準が無いため比較できません。参考として私の初回起動時に使用された魔力量は全体の半分です。そして回復量が多いため今現在は完全に回復しています。

 特殊技能は【作図】です。既存の品物の設計図を読み取り、任意の形で設計図を出力できます。改変、新規作成も可能です。

 魔法は私が近くにいる時は『法の理』に記載されている全ての術式を使用可能です。この場合私が制御の補助を行います。また、この世界独自の魔法に関しては私と繋がっているため使用できません。以上です」


「あ、ありがとう……」


「はい」


 片方は間抜け顔で、もう片方は無表情で見つめあう。しばらくして真也は今聞いた情報を考え疑問点を聞くために森羅に話しかける。


「……いくつか質問がある。俺の各能力をどうやって把握したのかと、技能の使い方。それとこの世界の魔法が使えない理由をもう少し詳しく教えてほしい」


「はい。まず各能力は存在情報から読み取っています。これは『知の泉』の能力です。

 次に技能ですが、対象を見て設計図を知りたいと思うだけです。読み取った設計図は自動で主様の記憶と『知の泉』に記録されます。出力する場合は保存されている設計図を選び、出力方法を思い浮かべればできます。記憶ではなく『知の泉』を使用した場合は私が補助をします。

 魔法ですが、私が起動した時に主様との間に共有領域を構築しました。魔力経路の全てが共有領域に使用されているため、他の魔法は使用することができなくなっています。『法の理』に魔法を追加できますので類似の魔法を作成し使用できます」


「ありがとう。森羅がいてくれて本当に助かる」


 聞き終わった真也はそう言って森羅の頭を撫でる。撫でられている森羅は相変わらずの無表情だが、どことなく嬉しそうに見える。


(本当に森羅が居てくれて良かった。自力ではここまで詳細に把握できるわけが無い。

 リュックひとつ調べるのにどれだけ時間が掛かったか。……そういえばリュックのことを聞いていなかったな。まあ、後で良いか。

 さてこれで一通りの確認は終了した。これからどうするか……)


 森羅の頭を撫でながら考える。結論として森羅が居れば大抵のことに対処できると判断し、暗くなるまで移動することにした。まだ太陽は充分高い位置にあるので、それなりの距離を移動できるだろう。


「森羅、移動するから準備終了後に結界を解除。索敵開始、身体能力向上と移動型隠蔽ありの障壁を効果永続で俺にかけてくれ。最後に周りの草を動かしてここの痕跡を隠すように」


 真也は立ち上がって靴を履き、シートを畳んでリュックにしまう。忘れ物が無いかもう一度みて、リュックを背負う。背に掛かる重量はリュックの分しか感じない。


 森羅は浮かび上がってリュックの上に座り、真也の肩に手を置いて落ちないようにする。真也からの合図を受け、結界を解除する。


「結界術式解除。探索術式起動、強化及び障壁術式起動」


 真也の身体を光が包み込み、一瞬で消える。真也は確かめるように手を動かし、足元から石を拾い森の方向へ腕の力のみで投げる。石は百m程飛んで草むらへ落ちた。隠蔽障壁は同一術者ならばお互いが見える素敵な仕様だ。


 森羅から開けている方向を聞き、頷いて森に背を向け歩き出す。草むらの中に入ってから森羅が【元素】の魔法で地面を動かして草を移動し痕跡を隠した。


「それでは冒険に出発進行!」「おー」


 ようやくデコボコ主従が異世界に第一歩を踏み出した。




  

 時刻は夜。日が沈む前に野営地を見つけ、後は寝るだけの状態になっている。真也は手帳に今日あったことを整理し、今後の方針を検討している。森羅は真也の懐の中に入り眠っている。


 ここで、これまでの事をまとめてみよう。


 まず出発してすぐに空腹に気が付いたので実験を兼ねて携帯食料を複製、【元素】の魔法で水を生成して補給した。複製素材として地面に生えている草を利用し、ついでに薬草類も採取できた。


 採取には森羅が【分類】の魔法を使用し、素材調達が楽にできることが分かった。その時に魔石も見つけた。よく見ると周囲に結構落ちているし、珍しいものではないのかもしれない。実験用にいくつか拾っておく。


 さらに進むと動物に初遭遇。額に角が生えた兎【角兎】である。【探索】に反応したので確認のため近づいたら音に反応したのか草の陰からいきなり真也に突進してきて角を突き刺そうとした。


 幸い障壁が角を弾いたので怪我を負う事は無く、森羅がすぐさま【元素】の魔法を使い風の刃で首を刎ねて殺したので初遭遇は残念な結果で終了。


 死体は【分類】で素材化した。真也は解体をしたことが無いし、魔法の方がきれいに素材化できるからこれからも魔法を使うことに決める。


 この時にリュックの機能を森羅に聞き、無限・重量無視・時間経過無などを確認して、安心して素材を入れる。なまものは意外に腐りやすいからだ。


 以後、道中に遭遇したのは角兎二十五匹、五m程の緑色の蛇【大緑蛇】十匹、地面に巣を作り獲物を狩る三十cm程の蜘蛛【穴堀蜘蛛】五十匹。素材は全てリュックに入れてある。


 ……多すぎである。森羅がいなければ確実に死んでいる。もはや森羅なしでは生きられない身体になってしまったようだ。


 ちなみに記録された大分類では全て『魔物』となっていた。違いは食べなくても生きていけるのが魔物となっていた。襲い掛かるのはより強くなるか、個体を増やすため。中々迷惑な存在である。


 歩いている最中は魔法の種類や効果、記録されている知識等を森羅から聞いて記憶を補強する。忘れていたり、効果が微妙に異なるものなど、これからの役に立つ情報を収集していく。


 驚いたのは『知の泉』に書いていない知識が記録されていたことだ。どうやら真也の記憶から内容が構築されたようだ。


 後は野営地にて森羅に指示を出して野営の準備をした。【結界】を張り、【元素】の魔法、風と火で結界内部の温度を調整、水でクッション、土で整地を行う。ついでにトイレ用の深い穴と目隠し用の衝立も土を整形し、作成した。


 次に火を熾し薬草と兎と蛇の肉を使ってスープを作り、【浄化】の魔法で身体と食器の汚れを落とす。この時に塩と胡椒を少量まぜて塩入胡椒として記録し、複製してスープに使用している。


 狩った魔物の食材は食べても問題ない事を森羅に確認している。むしろ自身の基礎能力をほんの少し強化するらしい。摂取上限や最大限界はあるらしいが、これなら高く売れるのではないだろうかと真也は予想する。


 全部の部位を食べたらどうなるか森羅に聞いたところ、「死にます」の一言で終わった。特定部位以外は毒と変わらないようだ。


 後は毛布を取り出し、クッションに身を沈めれば寝る準備の完了だ。ちなみにテントは結界で代替できるので使っていない。準備を終えた真也は情報の整理と今後の方針を検討し始める。




(姿を隠していても音を消さないと意味が無い事をすっかり忘れていたのはまずかった。早々に気が付けて良かったと思おう。


 生き物を殺したことについては予想通り『気持ち悪い』で済んだな。よくある『命を奪ったことに対する罪悪感』を抱くことは無かった。これはおそらく事前に予想していた『殺すことによって生じる不利益が無い状況』だからだろう。この分だと俺は社会的制裁が無い状態なら敵対する者の命を奪うことにためらいが生じないかもしれないな。……まずいな、暴走する危険性が高い。意識しておこう。


 魔法はかなり応用が利く。これからの研究で発展が期待できるから頑張っていこう。

 これからの予定は、まず町を探し隠れて調査する。交流が可能ならば溶け込むことにし、無理ならば山の中にでも住居を作って暮らそう。


 帰る手段は探す必要がない。家族がいるわけでもなし、切実な理由も無い。第一簡単に見つかるものならば元の世界にも異世界の住人がいなければおかしい。

 おそらくあの召喚陣は呼ぶだけの物だろう。要請も隷属も自分勝手であることに変わりは無い。そんな連中が便利な道具を逃がす訳が無い。

 期待するだけ無駄だし、相手は規模から考えておそらく国単位だ。下手に探してもし召喚者の耳に入ったら危険すぎる。


 他にも巻き込まれた人がいたはずだが、周囲には誰もいなかった。魔法陣に何らかの不具合があったのだろう。厄介事はごめんだ。自分と同じ考えの者はまずいないだろうし、基本は無視でいこう。


 一応【時空】魔法を使って過去に戻れば歴史改変は出来るが、救われるのはその他だけで、実行した俺は元には戻れない。矛盾を解消するために元の俺とは別の存在になる可能性が高いが、下手をすると消滅するかもしれない。……問題外だな。俺は英雄になりたい訳じゃない。


 溶け込む場合の職業は何が良いかな……。小説に良くある冒険者は危険が大きいし止めておこう。薬師や魔道具師は知識と腕が今のところ無い。将来はともかく今すぐは駄目だ。

 そうなると当初は素材の卸商人が無難かな。調達できる量はかなりのものになりそうだし、最初は足元を見られるだろうけれど品物が良質だからそのうち信用も上がる。必要経費も低くて済むから地道にいけばお金も貯まり易いだろう。


 明日は探索範囲を最大にして文明の痕跡を探そう。森羅のおかげで大分楽ができそうだ。本当に助かる。こんな情けない主だけれどもこれからもよろしくな)




 検討を終えた真也は胸元にいる森羅の頭を撫でながら、毛布をかけて目を閉じる。疲れていたのかすぐに意識は闇の中に落ちていった。





 その姿は……どう見ても、小太りの中年のおっさんが人形を抱いて眠るという、特大に危険な姿としか思えない。目撃者がいないのもささやかな幸運のひとつだろうか。

 

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