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第45話 収穫と店と甘い罠?

 開店から一月が経過した。店の方は真也の予想通り少しずつ客足が伸び、もう少しで黒字になるまでになった。その報告にティリナ達の顔も明るくなる。噂の上書きも順調に推移している。そろそろ一気に変わると様子を見ている真也は予想している。


 今日は休みなので真也は家の庭で鎌を持ち、奇妙な鼻歌を歌いながら稲の収穫作業に勤しんでいる。天音と双子も同じ作業をしているが、人目があったなら他人のふりをしたかも知れない。そんな中で楓と桜はのんびりと昼寝をしている。


 一応手作業での収穫は一部だけで、残りは森羅が収穫する事になっている。手作業を行う理由は作物に対する感謝と、収穫を天音達に経験させてやりたい真也の親心である。もちろん真也も実際に全部の体験をしてきた訳ではないので一緒に楽しんでいる。指示は真也が出しているが総監督は資料を持つ森羅だ。


 天音と双子は楽しそうにゆっくり稲を刈り取っている。手作業の範囲は腰が痛くならない程度のほんの少しだ。本業ではないので遊び感覚で十分なのだ。


 ザク、ザク、ザク、キュッ、パサ。ザク、ザク、ザク、キュッ、パサ。


 天音は一回の動作で稲を刈り取っていく。手に持つ鎌は真也が作った真銀製の植物刈り取り専用魔道具だ。植物に対しては大した抵抗も無く入っていくが、それ以外には斥力が働いて怪我をしない様に作ってある。ミリルとリシルが持つ鎌も同じ物だ。普通の鎌では力を入れ過ぎて怪我をしかねないので、安全を最優先に考えて収穫作業の為だけに作った一品だ。


 手に取って、刈り取って、紐で結んで、横に置く。多く束ねても重くなるので今回は小さい束にしている。これを何度か繰り返して最後に集めて真也の前に集合した。残りは森羅が刈り取って運んできている。


「大体良いな。次はこれを干して乾いたら脱穀だ。今回は干した後に森羅が乾かしてから、脱穀する。干すのはあっちだ」


 真也の指示に従い、横長の干し竿に藁を吊り下げていく。すぐ森羅が乾かすなら不要な作業と思うことなかれ。料理番組でも最初から作っていた物を出さないのと同じ事だ。手順が大切なのである。変なこだわりを持つ真也だった。


「気候にもよるが、こうやって一週間から二週間乾燥させる。これによってきちんと乾燥させれば籾の状態なら一年以上保存する事が可能になる」


 この辺は資料からの受け売りだ。実際に農業をしていなければ微妙な加減は分からない。すぐ脱穀して機械的に乾燥させるよりは分かりやすいだろうとこの方法を選択した。


「では次にいこう。森羅、良いよ」


「分かりました。解析術式、時空術式、元素術式、波動術式起動」


 森羅が干した稲に魔法をかけると、残っていた緑色の部分が変わっていき見事に乾燥した状態になった。ちなみに水分を抜いたのではなく、空間を閉じて中の時間を早める方法を使った。その際にはきちんと擬似日光や風も使用している。乾燥の度合いは解析しながら資料通りになる様にしている。三人は見る間に変わっていく色に目を輝かせて驚いている。


「黄色くなった」


「「綺麗ですね」」


 真也はそんな三人の様子を見ながら、作業が順調に推移している事に笑みを浮かべて頷いている。


「これが乾燥した状態だ。そしてこれを使って脱穀する」


 真也は事前に作っておいた千歯こきを三台リュックから取り出して設置し、脱穀の準備を行う。もちろんこれも稲の収穫の為だけに作成したものだ。これも分かりやすさで選んでいる。準備が完了したらまず真也が手本を見せて、それから天音達に実際にやらせる。


「ここに入れて手前に引くと、金属の隙間が穂の部分より狭いから引っかかって実の部分と茎を分離できる」


 真也は稲を一束を手に持って、千歯こきの歯に対して上から入れて手前に引く。するとパラパラと穂の部分が下に落ちた。何度か繰り返すと手に持つ束は単なる藁束になった。その様子を三人は頷きながら見つめている。


「……よいしょ、こんな感じだ。ではどうぞ」


「「「はい」」」


 三人は早速稲の束を手にとって脱穀に挑戦し始めた。


「よいしょ、うんしょ、うんしょ? ……えい、えい、や! ……お師匠様、抜けない……です」


「……一本ずつにしよう」


 天音は最初、一束を千歯こきに入れて抜こうとしたが、挟まった稲を抜き取るには力が足りず、何度か踏ん張ったがピクリとも動かなかったので真也に涙目で訴えた。真也は奮闘していた天音の仕草が可愛いかったので温かい目で見ていた訳だが、泣きが入った所で助け舟を出した。


「あ、これなら大丈夫です」


 束をばらして一本ずつ入れた天音は、成功した事でご機嫌になる。真也は楽しむその姿をにこにこと見ていた。


「さてミリルとリシルはっと」


 真也は暫く天音を見て、大丈夫そうだと頷いてから双子の方を確認する。


 バサッ、ズリズリ、ズボッ。バサッ、ズリズリ、ズボッ。


「「……」」


 双子は束を手にとっては脱穀し、取っては脱穀し、と黙々と作業を行っていた。顔には特に表情は浮かんでいないが、尻尾はブンブンと振られている。どう見ても大変気に入って作業に熱中している様にしか見えない。


「……まあ、気に入ったなら良いか」


 真也は頬を掻きながらそのままにしておく事にした。そんな事があった脱穀は、三人とも収穫作業の中で一番喜んでいた。終わってからの集めてふるいにかける作業は森羅が行い、次の手順に移る。


「次はこの外側の籾を取って玄米にする。更にそれを精米すれば完成だ。ただこれはとても時間が掛かるから少しだけやってみよう」


 真也はすり鉢を出すと脱穀した籾米を少しだけ入れ、米が割れないようにゆっくりと慎重にすりこぎを回していく。これは資料に簡単な手作業の方法が載っていなかったので代用品になっている。臼では味気ないし杵では重労働になるのでこの様な方法になった。作業は少量なのですぐ終わり、天音達にも挑戦させる。


「こんな感じにすれば出来るから。それではやってみよう」


「「「はい」」」


 ゴリ、ゴリ、ゴリ。ゴリ、ゴリ、ゴリ。


「出来ました。お師匠様」


「おお、上手に出来ているな、よしよし」


 天音は真也のやり方を良く見て慎重に行い成功したので、真也は天音の頭を撫でて褒める。天音は嬉しそうに笑みを浮かべて下を向いた。


「さてこっちは?」


 真也は撫で終えてから双子の方を見てみる。


 ゴリゴリゴリ、ゴリザリゴリ、ゴリザリザリ。


「「……」」


「だ、大丈夫、まだあるから」


 対照的に双子は力を入れすぎて見事に米を割っていた。涙目になって無言で訴えて来たので再挑戦させ、今度はうまく行った。真也は成功した事をしっかりと褒めて、最初の失敗を無かった事にした。それによって双子の機嫌は良くなったので、作戦成功に真也は胸を撫で下ろした。


「最後にこの外側についている糠を取れば一応作業は終了だ」


 精米は玄米を口が狭まった瓶に入れて棒を何回も突く方法を使った。大変だが結果が分かりやすい。三人とも汗をかきながら、それでも楽しそうに行っていた。


 そして夕食の時間になった。メニューは当然カレーである。今まではルウのみを食べていたので真也の中では他の選択肢は存在しない。わざわざ寸胴鍋いっぱいに新たに作ったこだわりの一品である。真也の計画では次の日もカレーを堪能出来る予定だ。


「それではいただきます」


「「「「いただきます」」」」


 天音と双子は一口食べてみて、今までルウだけ食べていた時との違いに驚いていた。そして目を輝かせて食べ続ける。森羅はいつもと変わらないが、それでも何となく嬉しそうに見える。そんな様子に微笑みながら真也は久しぶりの米を堪能したのであった。


 本来ならば次の日も楽しめたはずのカレーであったが、残念ながらその計画は実行されることは無かった。真也がゆっくりと堪能している間に、突如として現れた食欲魔人達の活躍によって未然に防がれたのだ。お代わり用にと居間に寸胴鍋を持って来ていた事も原因にあげられる。目の前にあれば食べたいと思うのは自然な事だ。その夜、誰かが枕を涙で濡らしたかは定かではない。


 また作れば良いは無粋な考えだ。余り物だから良いのだ。変なこだわりを持つ真也だった。








「おかしい。何故あの店の客足が伸びているんだ? 開店早々に店じまいする位客が入っていなかったのに……。値段もこちらの方が安い。なのに何故なんだ?」


 ルードの店が開店してから二月が経過した。季節は夏真っ盛りを多少過ぎて、もうすぐ秋の気配が漂い始める頃である。真也の予想通り、順調に客足は伸びている。


 ルードが修行した店の現在の店主であるローラスは、安売りを続けながら落ち込み続ける売り上げに頭を悩ませている。計画では安売りして客を掴み、売り上げは変わらない予定だったのだ。前回はこれでうまくいった。だが今回は逆に客足が落ち込んでいるのだ。


 ルードの店は安い素材を使って技術で良い物を提供しているのに対して、この店は同じ安い素材でも技術がルードより劣るのでどうしても粗悪品になる。


 よほどの理由でも無い限り、悩むほど金額に差が無い安い商品では良い品質の物を選ぶ。高額商品の方が意外と妥協するものだ。


 ローラスは安ければ粗悪品でも売れると思う傾向がある。それは確かに間違ってはいない事だ。そのためなぜルードの店の客足が伸びるのか理解出来ないのだ。前回と違い資金が乏しくなっているので、粗悪品で妥協出来るだけの価格差になっていない事に気が付いていない。


 要するに貧乏人は粗悪品でも安い方を買うと今でも思っているのだ。利益だけを重視し、自分より立場が下の者を軽く見る性格がここで災いしていた。


 それにルードの店が導入した会員証は、買えば買うほど還元される金額がたまっていく。ローラスの店で買っても還元されない。ならば少々高くても後で還元される店で集中して買うのは当たり前の心理だ。


 だが、今までそんなものは無かったので、ローラスは何故高いのに売れるのかが理解出来ないでいる。所謂ポイント還元は使ってみなければ実感がわかないものだから理解出来るはずも無い。


 割引券を出せば良いと思うかもしれない。それは下策だ。必ず偽物が出回るだろう。それに何を基準に割引をするのかもある。後で割引するなら今引けと言われるだろう。定価が無く、客ごとに値段が変わる店では使えない。原価を細かく割り出して定価を決めているルードの店の方がこの世界では異常なのだ。


「くそ、おい! ちゃんと噂はばら撒いているだろうな!」


 ローラスは近くにいた店員に当り散らす。言われた方は理不尽に当たられて不愉快になったが、指示通りに行っている事を報告する。


「だったら何で客が入るんだ。今まではこれでうまく言っていたのに……。くそっ! あの恩知らずが!」


 実はルードが商業ギルドに店員募集を出している事を知ったので、商業ギルドの職員に賄賂を渡して無能な店員を雇わせて中から崩そうとした作戦も行ったが失敗している。


 ちなみにこれは実行されれば御の字程度の認識で行ったものだ。流石にその職員とアランとの確執やルードの担当がアランとまでは分かりようが無い。唯の『偶然』だ。


 実行された時は手を叩いて喜んだが、まさかルードが不手際を商業ギルドにねじ込む度胸があるとは思っていなかったので即座の失敗は想定外の事だった。実行したのはルードではないのだが、そこまで詳しい顛末を商業ギルドは公開している訳では無いので勘違いをしている。


 現在でも商業ギルドから何もされていないので、工作した事は露見していないと安堵している。まさか殲滅作戦遂行中なので放置されているとは夢にも思っていない。商業ギルドは明確な敵対行動をした者に甘い行動を取らないと言う有名な事実も勘違いを助長している。


 そんな馬鹿を繰り返した結果、長年の安売りや工作でローラスは歴代が積み上げてきた資金のほとんどを使ってしまっている。安売りを続けても今回は客足が増加しないため赤字がかさむ。愚かな事に値段を上げればルードの店に客が流れると思い込んでいるので、上げる決断も出来ない。


 ローラスはルードの店も赤字を出しているはずだからもうじき続かなくなると考え、もう一つの敵対店の事もあり安売りを続けるのであった。ちなみにルードの店では既に僅かであるが黒字となっている。


 これは原価計算をどんぶり勘定で行っているか否かの違いである。月の収支で比べる場合、その日の収支で比べる場合、売り物自体の収支で比べる場合、計算の仕方は様々あるが、細かくなるほど面倒が増えるが無駄が無くなる。ルードの店では原価計算を細かく行っているので無駄が少ないのだ。


 これは金が貯まらないと思っている場合の対策として、帳簿を付ける事が意外に効果的な事と類似している。帳簿に細かく記入すると、どれだけ無駄な買い物をしていたかが認識でき、現在の持ち金と将来の出金を無意識のうちに考えて徐々に無駄な物を買わなくなっていくので、常時意識しなくてもそのうち改善されていくのだ。


 この時点でもローラス達が流した噂が変質しているのに気が付いていない。わざわざ黒い噂を本人に告げる人は普通いない。ローラス達がいつまでも最初の噂を流しているので上書きされた噂に信憑性を与えている事にも気が付いていない。


 ローラスは資金を調達する為に正規の金貸しではない所から借り入れを行っている。きちんとした所はもはやローラスの店に融資する事は無い。情報通なら商業ギルドが裏で動いた事を簡単に理解出来る。馬鹿な二店舗は真也の予想通りどんどん深みにはまり抜け出せなくなっていった。


 ちなみに恩知らずと呼ばれた事をルードが知ればこう答えただろう。『世話になったのはお前じゃねえ』と。それ以前に自分で解雇したのだから恩も何も無いと普通の人は考える。


 もう一店舗の店主もローラスと同じように考えている。もしかしたら似た者同士だからここまで争ったのかもしれない。






「はいどうぞ五Aになります。ありがとうございます。申し訳ございません現在会員様限定となっております。登録は無料ですのであちらで手続きをお願い致します。おまたせ致しました。製法はお答えできません。一点物のため販売しておりません。売り物ではございません……」


 森羅の補助を受けながら、次から次へと真也は客をさばいていく。暑さが過ぎたといってもまだ十分暑い。カキ氷は瞬く間に評判になり店の売り上げに貢献している。当初は買い物のついでに購入する客が殆どだったが、今ではカキ氷を目当てに来店する人が増えた。そのため急いで休憩所を拡張し、店にはみ出ないように対処した。


 他の飲食店で類似品が出たが、シロップに砂糖を使えばとても五Aで販売出来るものにならず、使わなければルードの店の物より甘さが足りないのでそんなに売れていない。氷も短時間に雪の様に細かく砕いて大量に作る事が出来ないのでお粗末な物になっていた。


 シロップはどう見ても足りないので毎日作成している。季節物で手に入らない味は最初から出していないので何とかなっている。ちなみに真也の砂糖に比べて売っている砂糖は若干黒く、えぐみが残っているのでシロップも同じ味にならない。シロップだけ売ってくれと言う客もいるが、今は断っている。


 店の方も順調だ。最近では注文服も入るようになり、職人達は忙しそうだが満足している。ティリナ達も慣れて来てきちんと接客している。


 何故か真也がカキ氷の専門店員になっているが、これは涼しくなるまでの応援である。一応火付け役の責任者として放り出す訳にもいかなかった事が理由にある。天音は営業中は店の奥で大人しく勉強している。だんだんティリナ達には慣れて来たらしく、家に独りでいるより店にいる方を自分で選んだ。傍らには楓と桜が寝そべっている。


 たまに貴族らしい人が庶民に混ざってカキ氷を食べに来るが、真也は気にしていない。早く涼しくならないかなと思う毎日だ。






「しかし商業ギルドの担当がアランさんで良かった。他の人なら今頃酷い事になっていただろうな……」


 真也は閉店した後で、片付けをしながらカキ氷での大失敗を思い出してため息をついた。


 それはまだ今より暑い日の事だった。閉店する頃にまたもや青白い顔で訪ねてきたアランが、カキ氷製造機を一台で良いので納品してほしいと頭を下げて来たのだ。


「納品先は王宮ですか……」


「はい。何でも今度来る他国の使者に振舞う料理のひとつとして出したいとの事でした。そのため時期を外す訳にもいかないので、出来るだけ急いで納品して頂きたいのです」


 貸与については最初から除外されている。そんな事をすれば確実に厄介事が付いて来るとアランは分かっている。そんな事になれば真也は全ての契約を反故にするかもしれない。そんな危険をわざわざ冒す事は出来ない。納品ならギルドが盾になる事が出来る。


 真也としては納品した魔道具を詳細に調べられる事によって、発想が変な所を見つけて欲しくないのであまり気が進まなかった。しかしアランには散々世話になっているので断る事も出来ない。暫く良い方法が無いか考えていたが、業務用の凝った物では無く、もっと簡単にした物で納品すれば良いとの結論に達した。


「アランさん、急ぎとなると店にあるような大型の物では無く、もっと小さくて機能も簡易的にした物になってしまいますがよろしいですか?」


「それは大丈夫です。無理を言っている事は承知していますので、そちらの良いようにしてください」


 それを聞いて、これなら大丈夫だろうと簡単な物に変更して納品する事に決めた。ここまでは特に問題は無かった。いつもであれば販売金額はアランに任せるのだが、アランの青白い顔を見て場を和ませようと真也は慣れない冗談を言う事にした。


「分かりました。急ぎと言う事と、材料も高価な物を使用しますので簡易版と言っても価格はかなり高くなってしまいます。四百万Aとなりますがよろしいですか?」


 真也としては冗談の金額なのでにこにこと笑みを浮かべたまま金額を伝える。予想ではアランなら冗談と分かるはずなので、アランも笑って交渉の真似事を行う筈だった。だが相手はそんな真也の思惑を承知の上で更に上をいった。


「はい。それではそれでお願い致します。それと外装はこちらで装飾を施しますので、大きさを教えて頂けると助かります。今契約書を作りますので少々お待ちください」


 アランは真面目な顔でそれに応じた。真也はそれを聞いて浮かべていた笑みを固まらせてしまう。冗談を本気に取られる事ほど気まずい事は無い。そして今更訂正すれば真面目に応じたアランを馬鹿にした事になるので冗談ですとも言えなくなってしまった。


 アランはもちろん真也が冗談を言った事は承知していたが、真也の提示した金額が予想より安かったのでそのまま行く事に決めた。真也は忘れているが、魔道具は基本的に一点物なので普通は金額が恐ろしく高いのだ。それを考えれば現状で他の者が同じ物を作れない以上、もっと高額でも不思議ではない。そして今回は国の威信がかかっているので絶対に手に入れる必要がある。外交に関する仕事と言う事で、高額な場合には商業ギルドから補填する為の予算まで最初から与えられていた。そのため金額交渉を行わなかったのだ。


 真也は思わぬ所でぼったくってしまった事に引きつった笑みを浮かべているが、アランが安くついたと安堵している事を知らずにいる。もちろんそんな事を悟らせるアランでは無い。親しくなろうがそれはそれ、これはこれと割り切って利用する事が出来る。そこが付け焼刃の真也とは違う所だ。もちろん損をさせるつもりはない。だから冗談と分かっていても値切らなかったのだ。それに今回はいつも以上に情報統制を行って迷惑を掛けない様にするつもりだ。


 そんなこんなで、いつもとは違う状況で契約を交わす事になった。最終的に変に目立つ部分を仕様変更して納品し、シロップも一瓶おまけで付け、無くなったらそちらで作ってくださいと言う事にした。






 片付けが終わった後で真也はまたもやため息をついて反省している。


「そういえば同じ様な失敗をなにかで読んだな、何の話だったかな……。売るつもりが無い物に金額提示したら即金で買われた話だったかな。何にしても慣れない事はするものじゃないな。もうしない事にしよう」


 自分には冗談を言って場を和ませる才能は無いと悟った真也は真実を知らないまま、もう慣れない事はやめようと固く誓ったのだった。






 最後にカキ氷に関する余談を三つ紹介する。


 一つ目はおまけのシロップを使い終えた後、同じ味を出せなかった王宮に勤めるとある偉い料理人が店まで来て作り方を教授してくれと頭を下げてきた。面倒なので真也は『内緒で一瓶千Aで販売するので無くなったら買いに来てください』と言って一瓶売りつけた。だいぶぼったくりな価格なので毎日こっそり買いに来るのはやめて欲しいと思っている。


 二つ目はカキ氷製造機納品後に暑い日が続いた時があった。その時にカキ氷を食べ過ぎたとある偉い王族がトイレの主になり、政務が一日滞った事件があったが、当然闇に葬られた。記録は夏バテとなっている。このため特定の人物には数量制限がかかったが、苦情が出たのかは記録に残されていない。


 三つ目はとある会合の出席者が全員怪しげな格好でルードの店の会員になった。目的は言う必要がないだろう。大平原の支配者になった者がいたかは残念ながら不明である。


 この出来事によって、冷たい物を大量に食べると大惨事が起きる事が世の中に広まったのかは定かでは無い。



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― 新着の感想 ―
[一言] 臼と杵は元々餅つきの道具ではなく 米から糠を脱穀する為の道具です!プロの精米者は 水車で動く杵を使い柱の様な杵を水車で上下させ 脱穀をしてたよ?杵の原型は兎の餅搗きで使ってる 棒状の杵ですよ…
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