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第43話 双子

 真也は止まる事無く天音の所に移動する予定だったが、ふとある事に気が付いて街道に出る手前で停止する。


「……そう言えば助けたかどうかは天音は分からないから、二人をどうするかは会わせる前に決めよう」


 このまま連れて行って拒絶された場合、見ているだけと言っても確実に悩ませる事になる。わざわざそんな事をさせる必要も無いと、自分が泥を被る事にした。そう決めて連れてきた二人を見ると、二人は真也のあまりの速さに驚いて気絶していた。目は涙で濡れている。下は言ってはならない状態になっている。二人の様子に気が付いて真也は頬を掻きながらしまったと思った。


 真也は二人を下ろすと縄を切り、猿轡を外す。森羅に【浄化】をかけてもらい、大丈夫な状態に戻す。流石にあれは気が付いたら死にたくなるだろうと思ったのだ。そして少女達をどうするか考える。


「森羅、魔眼の封印は可能かな?」


 これが一番物事を複雑にしてる原因なので、封じる事が出来れば大部分の問題は解決する。


「出来ますが、精神に歪みが出ます。そして高い確率で将来封印を破壊して暴走します」


「駄目か。さて後は何があるか……」


 真也は頭を掻いて次の手を考える。封印も消去も無理となると、後は見捨てる以外はどう反応するかで決める事しか考えつかない。こればかりは聞いてみないと分からない事だ。暫くどうするか悩んでいたが、無理な時は自分の手を汚す覚悟を遂に決めた。流石に敵対していない者の行く末を自分の都合で決めるのだから、今までの事とは訳が違う。緊張の為に心臓は徐々に早鐘をうち始め、手の平に汗が出てきた事を自覚する。そんな状態の真也に、肩の上で静かにしていた森羅が助け舟を出す。


「主様、【時空】魔法で対象の相対時間を変化させる事によって擬似的に封印する事は可能です。この場で無理に決定する必要はありません」


「……そうか、その方法があったか。先延ばしに過ぎないけれど、最悪の時はそれを使おう」


 少し心が楽になった所で、自分の視野がかなり狭まっていた事に気が付いて真也は苦笑してしまった。森羅の提案は問題の先延ばしであり逃げの方法だが、それすら思いつかなかったのだから相当精神的に追いつめられていた事を今になって自覚した。


「まいったな。慣れない事はするものじゃないな」


 頭を掻いてから真也は気持ちを切り替える為に深呼吸をする。何度か繰り返して、落ち着いた所で懸案事項に取り掛かる事にする。最悪時点の結論は決まっているので先程より緊張がほぐれた状態になれた。


「森羅、二人を起こして」


「分かりました」


 そんな真也を黙って見ていた森羅は、二人に近付くと触れただけで首輪を簡単に破壊し、それぞれの額に同時に手を触れる。暫くそのままの状態でいたが、やがて少女達は身体を一瞬痙攣させ、次の瞬間に目を同時に開き勢い良く跳ね起きた。周囲を見渡し、真也を見つけると膝をついて額を大地につけた体勢になる。所謂土下座だ。起き上がってからここまで五秒。あまりの早業に真也は驚いて言葉が出ない。


「時間が無いので二人には私の方で先程状況を説明しておきました。二人には主様の配下になる様に勧めていてどちらも了承しています。それと二人とも忌み子について教えられておらず、知識を持っていませんでした。そのためその点で天音を忌避する事はありません。これで問題は全て解決です」


 森羅の簡単な状況説明を聞いた真也は、我に返ると内容を検討し頬を掻きながら困ったように質問する。確かに一番良い状態で解決している。しかしいくらなんでも都合が良すぎると思っている。


「あー、いつ説明したの? 後、配下って何?」


「先程触れた時に精神に直接接続して行いました。配下とは特定の獣族特有の本能で、主と認めた者を決して裏切りません。一度主を決めれば、主側がよほど酷い行為をしない限り、主が死ぬまで有効です」


 少しずれた森羅の答えを聞いた真也は、自分が想定していなかった条件が追加されていたので一応は納得する。


 二人は未だに一言も口を開かずに頭を下げたままだ。どうにも居心地が悪い。森羅は理由も無く嘘は言わないので、今言った事は本当の事なのだろうと真也は思う。荒唐無稽な事でもあっさり信じる事が出来るほど信頼している。

 

「二人とも、頭を上げて」


 その言葉に二人は土下座をやめて真也を見つめる。その瞳は状況に合った真剣な光を帯びていた。その様子に真也は首を傾げる。真剣なのは良いが、二人とも全く同じ表情である事に違和感があった。双子だとしても、多少は別の表情の方がしっくりくる。


「森羅、何かしたのか?」


「いいえ、都合の良い本能があるのを見つけましたので特に何もしていません。行った事は誘導程度です」


「えーと、それで間違いないかな?」


 真也は頬を掻きながら今度は少女達に問いかける。何となく先程まで心の中にあった重圧が無くなっている様に感じている。


「「はい、間違いありません。危ない所を助けて頂き、ありがとうございます」」


 少女達は見事に同調して言葉を紡ぎ、軽く頭を下げる。真也はそういえばさっきの一連の行動も同じだったなと思い出して、説明を求めて森羅を見る。森羅はそれだけで真也が聞きたい事を把握し、頷いて報告する。


「彼女達は意識の一部を共有しています。そのため個々の認識が大きく分かれていません。そうですね、自分がもう一人居るような感覚でしょうか」


 なるほどと真也は納得する。誤認しているのではなく、実際に共有しているのなら全く同じでもおかしくは無い。


「ふむ、なら良いか。そうだ、名前は?」


「私はミリルです」

「私はリシルです」


 今度はきちんと分けて返事をした。しかしいくら見ても判断が付かない。またもや森羅を見る。


「今の彼女達にとって名前は記号に過ぎません。己の認識がそうなので情報も区別されず分からないのだと思います」


 真也はため息をついてリュックからルードの店で買っておいた赤と青のリボンを取り出すと二人に渡す。区別する事を早々に諦め、次善の策に頼ることにしたのだ。


「すまないがそれで髪を結んでくれ。私では二人の区別が付かない」


「「ありがとうございます。分かりました」」


 二人は嬉しそうに受け取ると早速髪を結ぶ。サイドポニーと呼ばれる髪型だ。尻尾はブンブン振られている。


「赤の左リボンがミリルです」

「青の右リボンがリシルです」


 二人は付け終わるときちんと報告してきた。真也は頷いて自分達の名前を教え、真也が抱える事情も簡単に話す。話した内容を二人が理解した事を確認して、これなら大丈夫と判断した。


「さて、問題はひとまず解決したからそろそろ行くか。森羅、準備お願い。……天音も待っているだろうから、急いで向かうか」


 最後にポソリと言った独り言はミリルとリシルには聞こえなかった。聞こえていたら先程の体験からこの時点で何かを言っただろう。残念ながら二人の運命を握る者は、そんな事情は気にしない。ちなみに真也は驚きの連続で最初の出来事が頭からすっかり抜け落ちている。


「分かりました。……準備出来ました。どうぞ」


「「……!」」


 森羅は先程と同じ様にミリルとリシルを浮かべて固定する。この状況に二人は先程の素敵な体験を思い出して身体を硬直させる。そんな様子を知ってはいたが、森羅は何も言わずに空中を移動して真也の肩に座る。これから一緒に居るならばこの程度は慣れてくれなければ困ると考えたのかは分からない。


「良し、今度は障害物もないし、もっと速度を上げる事が出来るな。では出発!」


 指示を出した段階で街道の方向を見ていたため、ミリルとリシルの様子に気付かない真也は容赦なく出発する。森羅もしっかりと補助を行っている。背後の二人はその速度に声にならない悲鳴を上げていた。






 真也は最大速度で止まる事無く天音の所に移動する。天音は傍に楓と桜がいたし、二時間程度だったので真也が居なくても普通にしていた。真也が近付いてきたのを事前に察知した楓が結界を解除し、天音は立って真也を待っていた。


「待たせた」


 真也は二人を降ろすように森羅に指示してから天音を見る。天音はミリルとリシルを見ても特に怖がっている様には見えなかった。その様子にほっとして息を吐いた。


「……お師匠様、二人とも大丈夫なのですか?」


 そんな真也に天音は心配そうに尋ねてくる。真也が首を傾げて後ろを見ると、二人とも青い顔をして地面に這いつくばっていた。今回は障害物が無かったので大惨事は免れている。二人の様子に気が付いて真也は頬を掻きながらしまったと思った。


「大丈夫じゃ……ない、かな」


 今後は注意しようと反省しながら、真也は二人に水を飲ませて落ち着くのを待つ。暫くすると、何とか復活して立ち上がってきた。


「「申し訳ありません」」


 そんな事があったりしたが、自己紹介も済ませたところで念のため二人に天音の事を確認する。


「二人とも、この子は怖く無いか?」


「「はい」」


 真也が天音の傍に行って問うが、二人の表情に変化は無い。天音を見ても、怖がっても厭ってもいないのはこれで確定した。


「天音は大丈夫?」


 真也の問いかけに天音は小さく頷く。不思議と見つめられても他の人の様に怖さを感じない。もしかしたら元の真也と同じ黒髪黒目だからかもしれないと天音は思っている。天音を見て、無理はしていないと判断した真也は、これなら問題ないと結論を出して最後の選択を行わなくて済んだ事に安堵した。そして正式に自分の家族として迎える事を決めた。ミリルとリシルにとっては主でも、真也にとっては配下と認識する事に慣れていないためだ。


 ちなみにミリルとリシルの天音への呼び方はお嬢様だ。呼ばれた天音は真っ赤になってへんてこな踊りを踊っていた。




 一段落した所で今晩の本題に入る。もう時間は夜中に差し掛かっている。双子の事情に真也は興味が無いので一切聞かない。この辺りは家族として受け入れた真也にとっては問題にならない。言いたければ後で言ってくるだろう程度だ。そんな訳で大至急狩りを行ってきた。内容はいつも通りとしておこう。


 街道に戻り野営地に移動して結界を張ると、真也は森羅を連れて人攫いの様子を見に行った。ちなみに双子は家の様子に口をあけて驚いていた。説明は天音に丸投げした。仲良くなって欲しいと真也は願っている。


 人攫いの拠点へは三十分程度で到着出来た。まだ見張りがいて入口が開いているのを見ると、後続はまだ帰っていない事が分かる。なので真也は隅に座って見張る事にした。


 二時間ほど経過すると複数の足音が聞こえてくる。そちらを確かめると、身なりに気を使っていない武装した男達が向かってきている。こちらは魔物を連れていない。通過した時に念のため表層意識を調査して、仲間である事を確認した。やがて全員洞窟に入っていったが、戦利品はいなかったので真也は安堵する。入口を見ると見張りが奥に行く所だった。


 姿が消えると入口が粘土の様に柔らかくなり、上の重さに耐えられずに崩落した。他に出口が無い事を確認して真也はその場を後にする。以前に予想した通り、自責の念に苛まれる事も無く何も感じなかった。そんな自分を自覚した所で暴走しないように基準となる一線を決めて、再度気を付ける様にした。実際は森羅によって精神が一時的に強化と保護をされているためなのだが、真也は気が付いていないし森羅もそれを言う事は無い。


 夜明け前には野営地に戻り、ひと眠りしようと寝室に入ると、天音がミリルとリシルに挟まれて眠っていた。三人とも良い表情で眠っている。その光景に微笑みながら真也は眠りについた。全員が眠ってから森羅はミリルとリシルの持ち物を取り出すと、【浄化】できれいにしてから二人の枕元に置いておく。そしていつも通り真也の懐に潜り込んで静かに目を閉じた。






 次の日の朝食後、ミリルとリシルを入れて今後の事を話し合う。真也は何かしたい事があるならば、余程荒唐無稽な事で無ければそれをやらせようと思っている。二人は朝起きた時に枕元に置かれた持ち物を発見して、またもや真也に土下座して礼を言う出来事もあったが、現在は落ち着いている。


「二人とも、王都でしてみたい事とか何か希望はある?」


「「……働き口を紹介して欲しいです」」


「へ?」


 意外な要望に真也の目が点になる。ミリルとリシルとしては何もしないで居るのは大変心苦しい。何もせずに家に居た場合、身の回りの世話をすると言えば聞こえが良いが、立場的には居候と大差ない。元々働き口を探す予定だったため、この様な要望となった。


「ミリルとリシル程度の子達も沢山働いています。おかしい事ではありません。いずれにしても良い経験になると思います」


 森羅はこれまでに得ている情報より助言を行う。それを聞いた真也はこちらでは働き始める年齢も大分早い事を思い出した。


「ふむ、それもそうか。それじゃあルードさんの所を紹介するか。丁度募集中だし、知らない所に行かれるより安心できる。二人とも、接客になるけれど大丈夫かな?」


「「はい」」


 無意識に親馬鹿な発言をしている認識はない。そんな訳で、二人はルードの店で働く事になった。






 王都に帰ると早速二人をルード達に紹介した。これで人数の問題は無くなったとティリナは喜んだ。ミリルとリシルはティリナが指導する事になり、暫く店の方に泊り込んで研修する事になった。


 ここでリフィアから双子と混血はエルフ、獣人共に良くない事と忌避されているので接客に影響が出るのではないかと意見が出た。黒髪黒目については王都にもいるし、抱く感情は嫌悪ではなく恐れなので、避けられるかもしれないが慣れれば良いだけなので特に大きな問題にはならない。


 リフィア自身は気にしていないが、この手の物は感覚的な物なので懸念を表明したのだ。ちなみに真也に褒められて一時的に壊れたのは秘密だ。


 少しの間全員で検討した結果、ここは人間の国なので大きな問題にはならないが除ける物は除いておこうと言う結論に至った。そして双子が忌避される事については、大元の理由が失われているので真也がでっち上げる事になった。エルフの双子は優秀さに嫉妬した時の王が妬んで広めた事にして、獣人の双子は生き残る事が厳しい時代の名残と言う事にした。


 嘘は言っていない。実際に歴史書に書いてある事実を森羅が拾い集めただけだ。それ以前から言われているかもしれないが、その点を心配する必要はない。こう言う事は真実ではなく声が大きい方が勝つのだ。それに王都で広まれば十分なので、それぞれの国元まで広める気もない。混血については種族としての問題なので効果的な方法は考え付かなかった。それでも半分無くなれば大分風通しは良くなる。


 こうして作戦が決定し、ミリルとリシルの外部に対する露出を多くしてティリナとリフィアが連れ立って歩いて噂をばら撒いた。人間は双子を何とも思っていないので、すんなり浸透していった。混血である事も大きな問題にならなかった。ここは人間の国だから良い意味で誰も気にしないのだ。両種族とも他国に来てまで騒ぐ様な真似をする者は少数と言う事もある。黒髪黒目も彼女たちは人間ではないので居る事に慣れれば問題ない。


 ついでに真也は酒場等に行って歌い手達に新しい物語として話題を提供した。こちらは広く浅く広まる事を目的としている。こうして徐々にこの国にいるエルフや獣人達にも広まっていった。


 この時期はアランが良く店に来て真也と打ち合わせをしていた。内容は省略する。ただ徐々にやつれていったため、全員が心配していた。


 しばらくすると噂作戦はある程度成功して、今では勝手に広まっている。たまに噂を聞く前に双子に冷たくしてしまった獣人が謝るために土下座をして行くが、誰が土下座を教えたんだろうと真也は首を傾げている。そんな獣人達を見て、ミリルとリシルの真面目さは獣人の気質だなと思いながら観察していた。エルフの方は反応は無い。リフィアは違うが、大抵のエルフは気位が高いのでこの違いとなった。


 土下座の犯人はもちろん森羅である。最初の時にミリルとリシルに最上級の謝罪と忠誠を表す方法だと教えたのが真面目な獣人達に伝染病の様に広まったのだ。謝らなければならない対象から直接教えられたのだから、殆どの者が実行する。こうやって変な文化が広まっていくのである。


 ミリルとリシルは物覚えも良く、あっという間に店のやり方を覚えていった。真也が確認のため順にやらせた所、一位リフィア、二位ミリル&リシル、四位ティリナとなった。この結果にティリナがショックで寝込んでしまったが、真也はリフィア達に指示を出してティリナを持ち上げさせ、何とか復活に成功した。


 ルードはこのネタでしばらくティリナをからかっていたが、食事抜きにされて土下座している。実に愚かである。古来より胃袋を掴まれた男に勝ち目は無いというのに。


 色々あったが、季節は夏に差し掛かり、いよいよ本番の始まりである。






 約一名燃え尽きているが、多分復活出来るだろう。出来る男は不死身なのだから。


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― 新着の感想 ―
[一言] 昔は双子はやはり忌み子でしたよ、どうしても未熟児になって長生きできない場合が多いのが原因です。
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