第04話 説明
この四話は投稿時に何故か三話に上書きされていたのを見つけて、先程慌てて記憶から再構築したものです。
そのため前後の話で話題が重複する可能性があります。一応確認は軽くしましたが、重複や矛盾があったときはご容赦ください。
真也はしばらく女の子を見つめていたが、やがて気を取り直して女の子に話しかけることにした。
「ええと、名前は森羅で良かったっけ?」
「はい、合っています。存在情報にそのように記録されています」
森羅は無表情に真也を見つめながら返事をする。真也は森羅の様子を確認して検討を始めた。
(見た目は自分が脳内設定した姿そのものだ。何故こうなったかは分からないが、リュックの事もある。自分の脳内設定が具現しているなら、確認しなければならない事がある)
「森羅、自分が出来る事を報告してくれ」
「分かりました。まず『法の理』に記述された術理魔法を全て使うことが出来ます。機能として、魔法発動・魔法発動補助・魔力蓄積・記述魔法発動があります。次に『技の礎』に記載された知識を自由に閲覧することが出来ます。最後は『知の泉』にこれまで知りえた情報を記録し、閲覧することが出来ます。また、加工された品物の存在情報を読み取って記録し、複製することが出来ます。それと新たな術理魔法を構築し追加できます」
術理魔法とは真也が考えた独自の魔法である。魔力を供給する主と、それを制御する者との間に魔力を共有する領域を作成し、そこに術式を展開して発動する。今まで魔法の魔の字も知らない自分が魔法の世界に行ってもうまく使えるはずが無い。それならば使える者に使ってもらえば良いじゃないと言う理由で生まれた実に他力本願な魔法である。
報告を聞いた真也は心の中でガッツポーズをした。これで水と食料の問題は解決したも同然だ。水は魔法で確保できるし、食料も記録して複製すればいつでも手に入れることが出来る。真也は追加で質問をしていく。
「記録する場合、経年劣化とかはどうなるか分かる? 傷とかがあったり、色褪せている場合だけど」
「経年劣化は品物の情報としては除かれて記録されます。破損も大きく欠損していなければ周囲の情報から修復して記録します。但し、食料など時間の経過に意味を持つものはそのまま記録されます。腐った食料は腐ったままです」
これは嬉しい情報だった。つまり古いものを記録しても常に新品となるからだ。
「情報の記録はいつから行っているの?」
「先程の起動時から記録を開始しています」
「複製するのに制限はあるかい?」
「はい、現状では魔力の大きいものは複製に時間が掛かります。魔力の無いものでしたら、魔力のみで作成して十個程度でしょうか。素材があれば、それを原料にしてもっと個数を増やすことが出来ます。但し、あまりにもかけ離れた素材の場合は魔力が消費され、個数が少なくなってしまいます。現状では主様の魔力の半分を共有領域の維持に使用しています。私の起動に使われた魔力はすでに回復していますので、よほど数が多くなければ問題ありません」
要するにかけ離れた物だと変換するのに余計な魔力を消費すると言うことだ。これなら問題ないと真也はほっと安堵した。水と食料が確保できるのならば、急ぐ必要は余り無い。
「良し、ではここに結界を張って外から見えないようにして欲しい。それとここに広げてある品物を全て記録して欲しい。……大丈夫?」
「はい、大丈夫です。それでは始めます。結界術式展開、隠蔽・完全・永続、術式起動」
森羅の言葉と同時に半径五m程の光のドームが周囲を覆う。真也は初めて見る本物の魔法に感動して身体を震わせている。
「結界を展開しました。現在問題はありません」
森羅はそう真也に報告すると、次の言われた作業に移るためにブルーシートの上に降りて、品物を一つずつ手に触れながら情報の記録を開始した。
真也の目には記録している品物は淡く光っているのが分かる。記録する時間も差があり、小さい物は短く、大きいものは長く掛かっている。一番長く掛かったのはリュックで、これは魔力があるからかと真也は推測した。
しばらく待っているとブルーシートにあった全ての品物を記録した森羅が座っている真也に近づいてきて手を伸ばし、無表情に真也に告げる。
「記録します。服を脱いで下さい」
悲鳴が響いたかどうかはご想像にお任せします。
「言われた作業は全て終了しました。記録できなかった品物は、水、植物の種、塩、胡椒、乾燥麹、ドライイーストです。容器は全て記録してあります」
真也は服を身に付けながら報告を聞いていた。ちょっと疲れたような顔をしているが、気のせいだろう。真也は身だしなみを整えると、疑問点を聞くことにした。
「いくつか疑問がある。まず記録出来なかった理由と、醤油や味噌は麹菌を使っているのに記録出来た理由、それと七味唐辛子が登録できて胡椒が記録出来ない理由を詳しく教えて欲しい」
「分かりました。まず種、乾燥麹、ドライイーストは生命体のため記録出来ません。醤油や味噌は品物として完成していましたので今回は記録しました。複製したものには麹菌が含まれていないので、再発酵は行われません。これは他の物も同様です。例としてヨーグルトを記録した場合、複製した品物には発酵菌は含まれません。
水と塩と胡椒は自然にある物と素材の形が変化しただけの品物なので記録出来ません。記録出来るのは加工された物のみとなります。七味唐辛子は加工されているため記録出来ました。仮に一粒ずつ分けた場合は記録することが出来ません」
森羅の報告に真也は頷いて納得する。確かに脳内設定ではそうなっていた。これなら他の脳内設定も有効になっているとほっと息を吐いた。ちなみに塩は工業加工品なのだが、真也の脳内設定で記録出来ない品物になっている。意外と間抜けだ。
素材を記録出来ないのは無限生成を出来ない様にするためだ。加工されれば良いのかと思うかもしれないが、何事にも制限は必要と当時の真也は考えたのだ。
とりあえず水と食料も確保でき、寝床も結界があれば安心なので、真也はゆっくりと後の作業を行う事にして、ポケットから手帳を取り出し次の確認作業に移ることにした。
「あれ? 何だこれ」
手帳を見た真也が疑問の声を上げる。広げた手帳に書かれていた文字が先程までは手書きで書かれていたのに、今は印刷したような綺麗な文字に変わっていた。
その様子を見た森羅が追加で報告を行う。
「その『導きの詩』は膨大な情報量でしたので記録出来ませんでした。ただし、私と同じく主様が作成したものであることは分かりましたので、私と存在を統合しました。その時に書かれていた文字を修正しています。現在は外部端末として『法の理』、『技の礎』、『知の泉』の機能を一つだけ使用できます。
私が傍に居る場合は私が補助を行いますが、居ない場合は主様が直接制御する事になります。『導きの詩』の機能としては、精神を強化し、混乱したときは精神を落ち着かせる魔法が自動発動します。また、運命を改変しささやかな幸運を常に招きよせます」
「……導きの詩と言うのはこの手帳の事?」
「はいそうです」
森羅は無表情に報告を行ったが、何処と無く申し訳なさそうだ。真也は手を額に当てて考える。
(この様子を見ると報告を忘れたのではなく、記録出来なかったが代替手段で記録したのと同じ状態になったから報告しなかったみたいだな。で、俺が驚いたから説明の必要があると判断して追加で報告を行った。これから分かる事は失敗を修正できる学習能力があると言う事だ。これなら将来は期待できる。ここは怒る所じゃないな)
真也は手を下ろすと森羅に話しかけた。
「報告ありがとう。次は忘れずにしてくれると助かる」
「分かりました。申し訳ありません」
森羅は小さくお辞儀をする。相変わらす無表情だが、何処と無くほっとした声で答えた。
真也はその様子を見て『かわいいは正義』は世の中の真理だなと、くだらない事を思った。
当然中年のおじさんには適用されません。