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世界の勇者

作者: 未来

 夢の続きが気になる。誰にだってそんな経験はあると思うんだ。

 僕は今日、魔女から夢の続きを見るチケットをもらった。

 これから僕は旅に出る。ここ1年間毎晩見てきた夢の続きを見にいくんだ。


 夢の中では僕は勇者だった。僕には使命があった。

 夢の世界の侵略を企む魔王を討つという使命だ。


 夢の中で、僕は旅に出る。

 モンスターを倒し、経験値とお金をためながら次の街へと向かう。

 新しい町では新しい出会いがあった。

 旅を続けるにつれて仲間は増えていった。

 格闘家の熱い男ムロフシにおてんばな魔法使いカワスミ、冷静な僧侶ウチムラが僕の仲間だ。


 僕は仲間と共に7つの海を越えて、ドラゴンの国を攻略し、囚われの魔女を救い出した。

 そして、魔王の城に乗り込み、いよいよ魔王との決戦が始まる。


 いつもそこで目が覚める。最近の1年間ずっとだ。


 現実の僕は、鋼の鎧ではなく学生服に袖を通す。勇者の剣ではなく鉛筆を装備する。魔王ではなく、退屈な毎日と戦うんだ。寝て、起きて、学校に行って、寝て…。エンドレスな退屈。

 

 だけど、今晩は違う。実は昨日の夢の中で、魔王の城に乗り込む前に救出した魔女からチケットをもらったんだ。

 そのチケットには「夢の世界・永住権」と書かれている。

 今朝、目が覚めた時、僕の手にはそのチケットが握られていた。

 僕は歓喜した。これで一生夢の世界で暮らせる。

 しかし、そのチケットの裏面にはこんな但し書きがある。

 「一度このチケットを使用すると二度と現実の世界には戻れません」


 僕の脳裏には学校の同級生の顔が浮かんだ。

 毎日のように僕を虐げる馬鹿な連中。

 僕を殴っては下品な笑い声を立て、僕をクラスの女子の前で裸にしては喜ぶ連中。

  

 続いて担任の顔が浮かんだ。

 教師は敵だ。一度だけ教師を信じていじめの相談に行ったことがあった。

 その時教師は僕に言った。

 「悪いのはお前だ。お前が我慢すればすべてが丸く収まるんだ。」

 僕は教師に絶望した。

  

 現実世界の僕はいじめられっ子。

 夢の世界の僕は世界を救う勇者。


 現実世界で僕はいじめっ子を倒してくれる勇者を1年間待ったけど、現れなかったんだ。

 

 僕は決心した。チケットを使い、夢の世界に永住することを。

 僕は勇者だ。世界を救わなければならない。魔王を殺すんだ。

 

 夜が来た。いよいよ僕は永遠の夢の世界へと旅立つ。

 マンションの屋上に僕はたっていた。

 僕の右手には自筆のチケットが握りしめられている。

 僕が救った魔女からもらった夢の世界の永住券。

 僕が昨日つくった自筆のチケット。


 僕は自分の頬が濡れていることに気付いた。

 あれ?なんで僕は泣いているんだろう。

 僕は勇者なのに。

 これから魔王を倒しに行くのに。


 僕は世界が震えていることに気付いた。

 違った。震えているのは僕の方だった。

 怖いのか?仲間が僕を待っているのに。


 違う!僕は悔しいんだ!

 僕が倒したいのは魔王じゃなくていじめっ子の連中だ!

 殺したいほどに憎いのに、僕には何もできない。そう、死ぬことしかできない。


 でも、もう疲れたんだ。1年間ずっと戦ってきたんだ。毎日、逃げずに学校に行ったんだ。

 もう、許してよ…。


 その夜、一人の男子中学生がこの世から旅立った。 

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― 新着の感想 ―
[一言] 何と言うか………凄く、さみしいお話ですね。 構成も内容も個性的で、とっても面白かったのですが、終わり方がなんとも切ないです。 特に"僕の右手には自筆のチケットが握り締められている〜僕が昨日作…
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