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奇跡の子  作者: 藤居英明
3/3

事件発生

まえがき

これは実話です。全て伏せると来なく書かれてます。何度か作品化するつもりでしたが、ためらわれた作品です。

全て事実のため、中には差別的表現が出る時がありますが、悲しいことにそれは現実にありました。真実を伝えるため、修正せずに載せます。

この殺人未遂事件は、妻の無罪判決を受けています。子供は今でも母親と暮らしています。様々な苦難を乗り越え、大きく育ちました。漫画家として中学生生活送りながら、自分を磨く日々です。父親としてふがいないと批判する人もいましょう。しかし、私は一生十字架背負うことになりました。それぐらいの大事件を越えた家族のきずなをえがきました。子供を落とされ、殺人未遂事件に関わり、全く漫画界とは関わりないおっさんが、漫画家になり、今では殺人事件を扱う本格推理小説を書いてます。

あまりにショッキングな内容が含まれているので、いつまで続けられるか、分かりません。あらかじめご了承ください。



子供は目が見えないためか、それとも不安なためか私と会話はなかった。だが、聞かねばと

「ヨシが落ちた時、他に誰かいたんだな?」

しばらく、考えていたようだが

「・・・・うん・・・」

生返事に答えるだけだった。私はどうしても妻の犯行だけは信じたくなかった。他のものと、妻、母親の立場の者が犯行に及ぶのでは話がだいぶ違う。私の鼻をベッドの上の、まだ幼い手が掴む。

しばらくCTスキャン、MRIなどの検査で体の診察をすることになっていた。診察の時などはパニックになっていた。泣き叫ぶ我が子をなだめて、時には病院が眠らせて診察していた。四歳で人間ドックのような検査などそもそも難しい。

夜中一時、時計でもついてるかのように同じ時刻に、

「ぱーぱー、まーまー、ぱーぱー、・・・・」

「俺はここにいるぞ。俺はここだ。」

眠っているか、起きているのかわからないが、はげしく毎日病室で泣き叫んでいた。この後も四カ月ほど同じ状況が続く。


子供の検査結果が出たというので、担当医の説明を受けた。なにしろ、十メーターの落下でまともなはずはない。下はコンクリートの床だ。ガン告知のような気分だった。病室そばの一室に呼ばれた。

中にはパソコンが置いてあった。説明はMRIか何かのデータを3D映像化したものだった。医療の進歩はともかく、骨格の様子が生々しかった。

「ここに大きなヒビがあります。ここですね・・・」

担当医には申し訳ないが、親の私にはむごい説明だった。

頭蓋骨にあからさまな3本の大きなヒビがあり、まるで卵をぶつけたようなクモの巣状に複雑に骨折していた。あと左目の眼窩が抜けていた。眼球に押し出されて囲っている骨が、脳の方に突き抜けた。さらに脳内出血と、肝臓損傷であった。明らかに大きなダメージだった。よく生きていたと思うしかないし、後遺症が・・・。デパートの三階から落ちたのだ。生きているだけでも奇跡的だ。

私は先立って、三つの可能性を感じていた。あの時、少しでも条件が違えば眼球破裂による失明、頚椎の骨折による下半身まひ、後、当然考えられる脳挫傷による即死などだ。このシビアな状況でなんとか生きている。奇跡を感じていた。この子が後遺症を負った人生なら私は生きて、この子の面倒を見ようと思っていた。

人にはいえなかったが、もしこの子がこの子が死んでいたなら、追って死んでいただろうと何度か思うのだった。近所の東名高速の欄干にこのままぶつかったら、楽になれる、と何度思ったか。この子が自分を生かしている、と実感していた。この後に降りかかることを思えば当然かもしれない。

ともあれ後遺症は医者でもあると言っていた。しかも診察はこれからで、大きな可能性のある目の検査は、半月後までわからなかった。青く腫れたまぶたに目は見えなかった。


病院で看病し、抜け出ては嫁さんの処遇について話す日々が続いた。このころには状況は皆大筋でつかんでいた。通院していた嫁さんだ。検察は不起訴処分すると思われた。ところが、検察は起訴をした。簡易鑑定の結果、責任が問えるとしたのだった。こちらも弁護士を立てた。深谷弁護士というひとだ。

「奥さんに精神疾患があるにも関わらず、検察は起訴しました。検察の根拠とした簡易鑑定をひっくり返さなければなりません。そこで確かめたいのは、旦那さん。」

深谷弁護士は言った。

「あなたは子供さんについて検察側につきますか。それとも弁護側につきますか。」

私の立場はいわばどっちでもあるのだ。被害者の父親であり、加害者の夫であるのだ。やった行為を怨んで検察側につけば、計画性の証言を展開するだろう。あるいは夫婦として嫁さんの弁護につけば病気の状況を証言するだろう。真実は一つでも裁判では正反対の立場になりうると思える。確かに旦那がどちらに着くかで裁判の流れは変わるだろう。

どんな理由であれ、子供に手を出すことを私は許せなかった。しかし、旦那としてのふがいなさを考えれば自分にも非がある。さんざん脱落する姿をさらした自分にも非がある。むしろ大きい。

それに、精神疾患については実は理解できる部分もあるからだった。それゆえに結婚していきさつもあった。だが母親の資格があるのか、傷ついた絆を取り戻す方法など、考えも及ばない。家庭内の不幸は私の大きな失敗が絡んでいる。前途のシナリオも描けないまま、私は弁護側に着くことに決心した。


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