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奇跡の子  作者: 藤居英明
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事件発生

まえがき

これは実話です。全て伏せると来なく書かれてます。何度か作品化するつもりでしたが、ためらわれた作品です。

全て事実のため、中には差別的表現が出る時がありますが、悲しいことにそれは現実にありました。真実を伝えるため、修正せずに載せます。

この殺人未遂事件は、妻の無罪判決を受けています。子供は今でも母親と暮らしています。様々な苦難を乗り越え、大きく育ちました。漫画家として中学生生活送りながら、自分を磨く日々です。父親としてふがいないと批判する人もいましょう。しかし、私は一生十字架背負うことになりました。それぐらいの大事件を越えた家族のきずなをえがきました。子供を落とされ、殺人未遂事件に関わり、全く漫画界とは関わりないおっさんが、漫画家になり、今では殺人事件を扱う本格推理小説を書いてます。

あまりにショッキングな内容が含まれているので、いつまで続けられるか、分かりません。あらかじめご了承ください。



第一章   事件発生



私にとって平成十五年五月二十一日は忘れられない日付となった。私が当時三十四歳の出来事だった。

テナント開店前の西友岡崎支店の一階エレベーターホールに子供が落ちてきた。見る間に人垣ができた。

私はその一報を職場の昼飯時に聞いた。当時、私は金属加工の旋盤工だった。急に実家から電話が会社にかかってきた。祖母(実母)からだった。

「秀ちゃん、ヨシが階段から落ちてケガをしたの。有紀ちゃんの話だとたいしたことないというけど・・・。いま市民病院のICUにいるから、すぐ来て。」

電話の内容からすると、通常なら大変心配なことが起こったとは思わない。しかし、電話を受けた私は大きなショックを受けた。言われたことは嘘だがもっと深刻な事の始まりだった。電話後、押して詰所から会社の専務を連れだした。聞かれてはまずいと思ったからだ。

「藤井、何かあったのか・・・」心配顔の専務は優しい人だった。

「子供が怪我で市民病院に運ばれたのです。それで、今から早退を・・・」

それを聞いて専務は

「こっちはいいからすぐにいけっ!どうした?」

少し動けない私を見てなのだが、後から述べるが私には予感はあったのだ。とても辛い予感が。

「子供だけは守りたかった・・・っ!」

百八十cmを超える大男が目を伏せ涙を流した。体格だけならプロ野球選手並みのがっしりした体の男だ。その男が震えていたことだろう。その当時の私はその時の専務の顔を覚えていない。見る余裕もなかったかもしれない。


状況はわからない。だが何か起きたことだけは確かだ。自宅に戻る車の中で思わず叫んでいた。

「ヨシ、死ぬんじゃねぇぞっ!」

だれよりも何が起きているかわかっていたかもしれない。借りていたアパートが、向かう途中にあるということもあるが、直接病院に向かわずアパートに寄った。どうして寄ったかは覚えていない。もっとも最悪を思ったかもしれない。

アパートは2階の角部屋だった。極ありふれたものだ。その周囲は騒ぎになっていない。ベランダから放り出したのではなさそうだ。部屋に入ると、何も荒らされてなかった。出かける前と同じだ。

「何も起きてないじゃないか!なぜだ。」

部屋が荒れてたのならある意味納得いく。だが部屋から異常性は感じられなかった。病院に向かった。

ついに嫁さんが子どもに手をかけた。そう確信していた。


岡崎市民病院のICUにつくと、私の両親が先に到着していた。まだヨシを見てないということだった。嫁さんの言うことが正しいなら集中治療室に入っているわけがない。ICUの入室は二名づつというので、私と祖母(私の実母)とで白衣に着替え入った。当時病院自体が最新で近代的な施設だ。周りはやはり重病、重症患者ばかりだ。うめき声も時々聞こえる。運ばれたというベッドについた。中を見ると異様な雰囲気だった。中には五,六人の警官が取り囲んでいる。女性看護師が言う。

「お父さんですか?子供用のオシメがありません。大人用で代用します。」

岡崎市民病院は大病院だ。大病院のICUに四歳の子供の子供用オシメがなかった。

子供はたった一人の四歳の男の子で名を善将といった。母親から愛情をもらえないかわいそうな子だ。とうとう起こってしまったのだ。この時点、予感はあっても状況は誰もわかってない。警官をかき分けベッドのそばに来た。子供はわめいている。警官がこれだけ囲む状況は、明らかに事故ではないのを示していた。

「わーん、落ちちゃったー!」

見て愕然とした。両目はパンパンに青く腫れ、白目は見えない。唇も腫れあがれ、泣き叫ぶ口に歯が一本も見えない。手には点滴用の管がギプスのような添え木で固定されており痛々しい。不自然に大きな大人用オシメをしていた。

(全部折れたのか・・・)

命があってよかった、なんて感想など出ない。目の前の状況を受け止めることもできなかった。隣の警官が呼んでいる。小さい声で聞こえないのではない。人間はショックだと無感覚に陥ると初めて体験した。

「父さんでしょ。」

「聞こえていますよ!今朝まで笑ってたのに・・・、わかりますか。」

今思えばだいぶかみ合わない会話だ。警官だって少しは状況わかってほしいものだ。もちろん警官は“何が起こった”のか、よくわかっていたはずだ。

「奥さんが廊下で待っています。」

警官はそう告げた。この時警官は夏服の上に皆防弾チョッキをつけていた。この時は凶悪事件の出動の装備と思ったが、後日中日新聞記者の取材で必ずしもそうでない、と知った。ICUを出て廊下に行くと、三人ほどの警官に囲まれた、嫁さんがいた。名を有紀といった。夫婦が会った。どういういきさつにせよ、子供を守らなかった嫁さんだ。たった今、この目で子供の惨状を見た。だが言葉は出てこなかった。あまりのことでどんな言葉も出ない。無言の時間が流れた。後思えば、警察から見れば「共犯」かどうか、確かめたのだろう。こういう家庭は旦那もひどいやつが多いということだ。甲斐性なしといえばそうかもしれない。現在まで至る差別と、偏見に対する長い戦いの始まりだった。


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