表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/9

(七)その一投は、光陰の如く

「槍投げの逸話──あったなあ、あの名にし負う、クランの猛犬──光の御子、クー・フーリン様の伝説にもよお」

シダルが、場違いに夢を見るかのような声を出した。

「いいぜ──やってやる。やってやるよ。シダル・コムトック様、一世一代の晴れ舞台だ。……でも、ハズしてカイナさんに当たったりした時は、そん時は嬢ちゃん──君の辰術の出番だ。それでいいな」

けれど最後は、存外に落ち着いた声色に戻っていた。

「はい。──どうか、カイナさんをよろしくお願いします。シダルおじ様」

何だってアイダも俺のことをオッさん扱いするんだろうな、髭か、髭がいかんのか?などとぶちぶち零しながら、それでもシダルは、槍を構えた。

「──え?お、おい。シダルのオッさん、全体何をしようってんだよ。お嬢ちゃんも」

一人はらはらと、双剣と鎌の剣舞を見守っていたアイダが、二人の異変に気付き、声を掛けた。

「止めないでください、アイダさん。これは──シダルさんの、けじめでもあるんです」

けじめぇ、とアイダが頓狂な声を上げる。

「そんなこと言ってる場合かよ。おいおい、あのお兄さんに任せておけば、きっと──」

「それじゃ、駄目なんです。これは、私の──……私たちの、戦いですから」

真剣そのものの、アリシアの眼差しに、アイダも束の間、黙り込んだ。

「──いいぜ。アタシにできることは、何かあるか」

「ゴブレットが弾かれたら、地に落ちる前に受け止めてください。アイダさんの素早さなら、きっと何とかできます。それで、それで──私の首も、きっと繋がるんです」

アリシアは、柄にもなく物騒なことを言う。

「首、ねえ。そういや、あの魔女も、そんなことを言ってたよな。何だよ、これはそういう──遊戯なのか?」

アイダが、場を和ませようと茶化す。

「まあ、向こう様がどう考えているかまでは分かりませんが、少なくとも──私達は、真剣です」

アリシアは、ふ、と、柔らかな微笑みをアイダに見せ、そして、頬を引き締めた。

「狙いを」

アリシアがシダルに命ずる。

「あいよ。南無八幡大菩薩──は違うか。こういう時は、あれだな。<◯>(創ノ神)様に祈るに限る」

シダルは大きく息を吸うと、朗々たる美声で詠唱を始めた。

"空に誓えよ人の子よ、その身を賭して祈りを立てよ。

天に唾せよ神の子よ、降り落つ先には(なれ)あるのみ"

そして、大きくその身を引き絞ると、小さな的──ゴブレット目掛けて、古馴染みの、名も無き槍を、金輪際無いくらい、勢い良く投擲した。


その狙いは過たず。

槍先は、ゴブレットの、ボウルの底に到達し。

カイナとシュリエ、二人の頭上から、その黄金の器を、勢い良く奪い去った。

「「!」」

打ち合いを続ける二人に、僅かな揺らぎが生じる。

「今です!アイダさん」

赤毛の淑女は、短距離走(スプリンター)の要領で、勢い良く駆け出すと、そのまま、地に落ちるはずだったアリシアの首──否、に掛かっていた、ゴブレット──を、(しっか)と掴み込んで、地面に伏臥(ふくが)した。

「おのれ──、やりおったな!!」

だが、言葉とは裏腹に、シュリエの口調は楽しげだった。

「まあ、良い。佳い余興となった。──ではな」

そう言うと、鎌"蛇の舌"の穂先を地面に垂直に付け、

"OpenSesame(開門)!"

と一言、朗と吟じた。

すると、緋色の月ルレイナから、一筋の光が差す。

彼女は束の間、主だった観衆に、腰を深く折って一礼すると、

「また会おう!──誉高きオーセオンの諸君!」

と言って、大仰な所作で、光の内に歩み行った。

すると、まるでそこに幕でもあったかのように、シュリエの姿は掻き消えてしまった。

さしものカイナも、これには呆気に取られ、目を(しばた)いている。

そして、皆が我に返った頃には、魔の月ルレイナの、その禍々しき姿も、宵空から消え去っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ