(六)少女の機転
「せい、……のッッ!!」
まず、痺れを切らしたアイダが飛び掛かっていた。
が、これは鎌の間合いに食い込めず、後退を余儀なくされた。
「ヤバいよオッさん、あの鎌、何だか嫌な感じがする……!!」
離れ際に小手で一合打ち合ったアイダは、持ち前の直感で、ジュリエの担う大鎌"蛇の舌"の特性を、瞬時に読み取ったようだ。
「オッさんって言うな!!……ああ、ヤバいのは俺だって分かる。だが、一体何だってんだ」
言外に慄きをみせたシダルは、頼りなげに己の槍をぎうと握りしめると、
「カイナさん。あんたのご友人だ、何か知っているんでしょう。あの鎌、何なんです」
と、助け舟を求めた。
「あれは──巷説に過ぎないが、遥か昔、奴が神殺しを企てた際にも用いられ──幸いにして、それは失敗したというが」
カイナが滔々と語ろうとする出鼻を、シダルは挫いた。
「ええい、話が長い!つまり、何なんです」
鼻白んだカイナだったが、別段引きずる風もなく、簡潔に纏めようとする。
「つまり、あれは神の護衛──戦乙女の血をゴマンと吸い、呪われているんだ。女は特に、分が悪い」
そう、吐き捨て結んだ。
「じゃあ、俺とあんたで何とかするしかないでしょうよ……!!ここに、男手は二つ切りっしか無いんだ」
シダルが呻く。
「カイナ」
シュリエが親しげに声を掛ける。
「久方振りに──稽古を付けてやろう」
言うが早いか、ゴブレットを放り上げると、
「地に落とすなよ。幼子の首だと思え」
総毛立つ思いのする声で、幕開けの合図を告げた。
「フッ──」
キィン。
「ハ──」
カァン。
「厶──ッ」
コォン。
ゴブレットを跳ね回しながら、二人の剣戟──否、それは最早、剣舞にも近い──は続く。
「す、凄い……」
シダルが固唾を飲む。
「間に入れないね……」
アイダは、不安そうに見守っている。
「あ、あああ……どうしよう」
気が気でないのは、少女アリシアだ。
「わ、私があんなもの持ってたから……カイナさんが!」
今にも泣き出しそうで、正直見ていられなかった──とは、後に二人の巡回兵が、異口同音に述べた述懐だ。
「落ち着け、嬢ちゃん。マズい空気だが、きっと──何とかしてくれるさ。カイナさんを信じてる、そうだろう?」
自身不安も尽きないだろうに、シダルは少女に優しい言葉を掛けた。
「!──は、はいっ」
少女はここに来てようやく、腹が決まったようだった。
(そうだ、私が──私が、何とかしないと)
腹の中で、己に何が出来るか、算段する。
(私だって、今までメルバーユ様の元で、辰術の手解きを受けて来た。きっと、何か出来ることはある、はず)
頭がクリアになる。思考が回転し出す。
(アイダさんは、動けない。拳の間合いじゃ鎌には届かないし、何よりアイダさん、きっとまだ、男の人を知らないから。血の呪いに飲まれちゃう──じゃあ、シダルさんは?ううん──)
そこに来て、少女はようやくその男の、真実の姿を直視した。
頼りない、人任せ──叱りはするが、声を荒げはしない。
けれど、どこかひねているようで、まだ少年の純粋さを捨て切れていないような──そういう男。
「シダルさん」
「……ん、どうした。嬢ちゃん」
「話があります。大切な」
そこから、二人は額を突き合わせ、束の間の作戦会議に入った。
「俺が、槍を?あの──ゴブレット、目掛けて?」
アリシアの腹案を聞いた時、シダルは我が耳を疑った。
「いや、無理だって。槍投げなんて、学生時分の競技でもやったこと無いんだぜ?何より、あの低空を揺れ動くゴブレットが目標だ。それは──至難の業だよ」
非常に難しい顔をするシダル。けれど、
「でも。他に手段がないんです。アイダさんは動けないし、私が使えるのは治癒の辰術だけ。──こうしている間にも、カイナさんは消耗しています。早く、決断を」
優柔不断な中年管理職の、ここが正念場だった。




