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(二)雪解け

男はアリシアを縛っていた縄で、今度はチビを縛り上げた。

そしてノッポの骸を丁重に遠退けると、少女を介抱したのだった。


「先は酷い所を見せた。すまない」

目を覚ました少女に向けての男の第一声は、それだった。

少女はまだ少し動転しているようだったが、それでもぺこりと頭を下げ、男に礼を述べる。


「大丈夫、です。あの、危ない所を……ありがとう御座いました」

それを聞いた男は、柄にもないように、少しく破顔した。

先ほどノッポに見せたものとは大分印象の違う、どこか少年じみた雰囲気のものだった。


「良いんだ、君が無事なら。……ああ、オレはカイナ。流れの武人だ」

カイナはそう言うと、少女に手を差し伸べる。

束の間ぽかんとしていたアリシアだったが、すぐに了解し、その手を握り返した。

「はい、カイナさんですね!私はアリシア。アリシア・ハスペルって言います。

あの……カイナさんこそ、あまり大丈夫じゃないような……」


それもそのはず、カイナの頬はげっそりとこけ、目の周りには色濃い隈ができていた。

「確かに、ちょっとな。ああ、近くに…布施所(ふせどころ)でもあると良いんだが」


言葉の意味が分からなかった少女は少しく怪訝な顔をしたが、

「もし良ければ、ですが……私の住んでいる救貧院に来ませんか?

きっと、院長さんも歓迎してくれる……はずです」


それを聞いたカイナは、今度は決まりの悪そうな顔をした後、

腹を括ったのか、少女に向かって頭を下げた。

「君のような幼子に頼み事をするのはとても申し訳ないのだが……よろしく頼む」


こうして二人は、旧市街から救貧院への道を一路辿る。


「それにしても、何故あんな場所に……?」

道すがら、アリシアが尋ねた。


「それはこちらの台詞でもあるが……致し方ないな。

実のところ、オレはある組織から逃げて来たんだ。

さっきの……背の高いやつも言っていただろう。"緑陰の声"がどうの、と」

ノッポを殺めたことを思い出し、カイナは後味の悪そうな顔をする。


「ええっと、確か……戸外がどう、とか……お外で会議するんですか?」

動転していたためか、要を得ないアリシアの返事にカイナは苦笑し、

「子飼い、だ。体の良い、雇いの殺し屋さ。だが、ふと嫌気が差してしまってな。

足を洗おうと思い、どうにかこの地まで落ち延びて来たものの、気付けばまた殺しだ。

つくづく、オレの運命は血に塗れているようだ」


深い諦念を籠めて吐かれた息の音を聞いて、けれど少女は口を──閉ざさなかった。

「そんなのおかしいです。カイナさんは私を助けてくれました。救われて良いはずです」


少女は憤っていた。それは彼個人の、諦めという、人生に対する降伏宣言に対してではなく、

もっと大きな、運命というものへの宣戦布告じみていた。


「そうか……暖かいな、君の正義は。無軌道で、眩くて……春の日の、木漏れ陽のようだ」

そう言って男は二度、少年のようにはにかんだ笑みを見せた。


人の心の雪解けをも糧として、少女はひとつ、大きくなる。

「知ってますか?カイナさんって、笑う時、とっても素敵な顔をするんですよ。だから、ほら」

少女はそう言って、今度は自ら、男の手を取った。


お互いに繋がれた(たなごころ)は、じきに来たる春を兆して、

柔らかく暖かなものとして、二人の記憶に、この先何があろうとも、永く留まることになる。

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