(十)宴の席で
再び、ところ変わって、レングーンの王都、ロドレスに、舞台は移る。
「"雪降る渚"!」
王の声が、広間に朗々と、響き渡る。
それもその筈、その場は、既に宴もたけなわだった。
「お見事!」
賓客達が、口々に、称賛の声を揚げる。
王の持つ"遺物"、その全容が、いよいよ、あらわになろうとし掛けた時──
「大変です!」
急の使者が、渚の街オーセオンから、この王都ロドレスの宮殿内に、馳せ参じていた。
「無礼者!王の御前であるぞ!頭を低くせんか!」
宰相大臣が、場を代表して、その者に声を掛ける。
「はっ!──……それで、で、ありますが」
「うむ。続けよ」
年若い王は舞台から飛び降り、使者を労おうと駆け付けた。
「はい。その、実は、ですが。──オーセオンに、月の大魔女が現れました!」
その場が、一様にどよめく。
それもその筈。
大魔女は、以前、王の双子の妹君であらせられる、エティエンヌ・アウリオレにも、その毒手を伸ばしていたのだ。
「何、あのモートゥネイめが、か!」
「で、どうなった」
激昂する王殿下エイゼイアを諌めつつ、宰相が、使者の口上の、その続きを促す。
「は──そ、それが、ですね──……何と、我らが巡回兵団の者らが、これを退けた、とのことです!!」
おお、と、場に快哉が戻る。
「何、あの木偶の坊らが、か。まあ、無駄飯も偶には役に立つ、ということだな」
はっはっは、と、王が柄にもなく、大きな声で、高笑いをした。
「悪に二心無し、とは言うが、性懲りも無く戻って来たか、あの魔女めが」
そう言うと、王は深く息を吐き、そして吸った。
「だが!御安心召されよ、賓客の方々。我らレングーンは、そう易々と、奴めの魔手になど、落ちたりはせぬ!!」
豪語した。
これには再び、おお、と、どよめきの声が揚がる。
「で、ですね……」
及び腰になった使者が、小さく付け足した。
「ム?何だ」
王は、怪訝な顔で、使者の顔をまじまじと見た。
強い眼力に会って、使者は三度頭を垂れる。
「はい。その──……実は、それに加勢した者がいたらしく」
「何、加勢?」
「はい。何でも、鴉羽色の髪をした、蒼眼の男と、まだ年端も行かぬ、金の髪に琥珀色の瞳をした少女だった、とのことです」
「ふむ……知らぬ者だな、流れの武人か?」
宰相が取り成す。
「は。男の方は、恐らく。で、この少女なのですが……どうやら、あの、失踪中の近衛兵団長、ガルシア・ハスペル様の御娘子ではないかとの、推測が立っております」
これには一同、大いに色めき立った。
「何と、あのガルシアの…!!」
「さしずめ、健気な少女なのでしょうな」
「今、その子は何処に……?」
口々に、思い思いの言葉を上らせる賓客達。
「──お静かに、皆々様。王よ、これをどう捉えられます」
宰相が、二度取り成した。
「ふむ。そうだな、縁は異なもの──と言ってしまえば、それまでだが。どうも、偶然にしては、出来過ぎているな。……大臣、急ぎ運命宮の者達の元に、使いを走らせよ!」
宴の席は踊る。そして、進み行く。




