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滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


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第8話 それでも、止めた理由

 ロイスの死は、翌朝には町中に知れ渡っていた。


 名を知る者は多かった。

 無茶をする男ではない。

 腕もあり、判断も冷静。


 だからこそ、噂は重くなる。


「そんな奴が死ぬなら、誰が助かるんだ」

「結局、運じゃないか」


 市場の空気は、冷え切っていた。


「……来ると思います」


 エルナが、低い声で言った。


「遺族です」


 アルノルトは、黙って頷いた。


 逃げる気はなかった。


 昼前。


 執務室に現れたのは、一人の女性だった。


 ロイスの妻――ミレイア。

 まだ若い。

 だが、目の下には寝不足の影が濃い。


「……お話を」


 声は震えていなかった。


 それが、かえって痛かった。


「ご主人は、正式な許可を得て十層に入りました」


 アルノルトは、事実を隠さずに伝えた。


「規則違反はありません」


「……分かっています」


 ミレイアは、短く答えた。


「夫は、冒険者でしたから」


 しばらく、沈黙。


 そして、彼女は問いかける。


「それでも……

 なぜ、止めたんですか」


 十層の封鎖。

 全面停止。


 それは、ロイスの死を無駄にした判断に見える。


「同じことが、起きるからです」


 アルノルトは、正面から答えた。


「今日でなくても。

 明日か、来月か」


「管理できない場所である以上、

 必ず、また誰かが死ぬ」


 冷たいほど、理屈の言葉。


 ミレイアは、唇を噛んだ。


「……夢を、奪ったんですね」


 それは、責めだった。


 アルノルトは、否定しなかった。


「はい」


「奪いました」


「それでも」


 続ける。


「これ以上、同じ立場の遺族を作らないためです」


 ミレイアの肩が、わずかに揺れた。


「……ずるい人ですね」


 そう言って、彼女は苦く笑った。


「正しいことを言えば、

 怒れなくなる」


 涙は、まだ落ちなかった。


「夫は」


 静かに言う。


「浅層に戻るという選択を、

 一度も考えなかった人です」


「冒険者ですから」


 アルノルトは、頷いた。


「でも」


 ミレイアは、顔を上げた。


「もし、

 生きて帰れる仕事がある世界だったら」


「……夫は、

 迷ったかもしれません」


 その言葉は、希望だった。


 ミレイアは、深く頭を下げた。


「止めてくれて、ありがとうございます」


 アルノルトは、何も言えなかった。


 感謝される資格があるとは、思えなかった。


 彼女が去った後。


 ドグラスが、ぽつりと呟く。


「……重いな」


「ええ」


 エルナも、視線を落とす。


「でも」


 アルノルトは、静かに言った。


「これが、管理だ」


 夕方。


 十層封鎖の前で、冒険者たちが立ち尽くしていた。


「夢を奪われた」

「だが……」


 誰も、声を荒げなかった。


 死を、知っているからだ。


 その夜。


 三層の作業者たちは、変わらず戻ってきた。


 怪我人はいない。

 日当は支払われる。


 静かな日常。


 アルノルトは、迷宮の入口を見つめる。


 深層を止めた代償は、大きい。

 だが、守れたものもある。


「……次は」


 呟く。


「管理できる場所を、広げるしかない」


 止めるだけでは、終われない。


 この判断を、

 “正しかった”と証明するために。


 三層の奥で、

 魔力の流れが、再びわずかに動いた。


 まるで――

 上を見ているかのように。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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