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滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


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第7話 境界の向こうで

 知らせは、朝ではなく昼に届いた。


 それが、かえって重かった。


「……中層で、戻らない者が出た」


 ドグラスの声は低く、余計な感情が削ぎ落とされている。


「何層だ」


 アルノルトは即座に問う。


「十層」


 その数字に、場の空気が凍った。


 十層。


 それは、誰もが知っている数字だった。


 かつて、この迷宮で最初の死亡事故が起きた場所。

 封鎖され、立ち入り禁止とされた中層の入口。


「作業者ではありません」


 エルナが、先に言った。


「ギルド登録の冒険者です。

 正式な許可を得ていました」


「規則違反は?」


「ありません」


 その言葉が、一番重い。


 現場は、歪んでいた。


 通路の途中で、空間がねじれている。

 壁が壁でなくなり、床が天井へと繋がっている。


「……構造歪曲だな」


 ドグラスが、歯を食いしばる。


「逃げ道が、消えるタイプだ」


 戻ってきたのは、二人だけだった。


 三人で潜り、

 二人で帰還。


 残る一人――

 名は、ロイス。


 二十代後半の斥候。


「……一瞬だった」


 生存者の一人が、震える声で語る。


「揺れも、前触れもなかった」


「気づいた時には、

 通路が、無かった」


 アルノルトは、何も言えなかった。


 管理はしていた。

 規則も守られていた。


 それでも、死は起きた。


 遺体の回収は、できなかった。


 歪曲した空間は、安定せず、

 入れば二次被害が出る。


「……封鎖します」


 アルノルトは、即断した。


「十層以降、全面封鎖」


 ドグラスが、強く頷く。


 夕方。


 噂は、市場を一周していた。


「また死んだ」

「やっぱり、迷宮は呪われてる」


「公共事業だなんだ言っても、

 結局は同じだ」


 言葉は、容赦がない。


 アルノルトは、人々の前に立った。


 逃げなかった。


「……管理下で、死亡事故が起きた」


 ざわめき。


「これは、私の責任だ」


 誰かが叫ぶ。


「冒険者だろ!」

「作業者じゃない!」


「ギルドの仕事だ!」


 すべて、正論だった。


「分かっています」


 アルノルトは、声を張る。


「だから――」


 一拍置く。


「中層を、全面停止する」


 どよめきが起きた。


「冒険者も、作業者も関係ない」


「この領地では、

 十層以降を使わない」


 ギルド代表が、前に出た。


「それは、越権です」


「冒険者の挑戦権を奪う」


「夢を、殺す行為だ」


 アルノルトは、真っ直ぐに見返した。


「夢のために、

 管理者が死を見過ごすことはできない」


 静かな声。


「挑戦するなとは言わない」


「だが、

 管理できない場所を“許可”はしない」


 沈黙。


 冒険者たちの中にも、

 言葉を失った者がいた。


 誰もが、

 ロイスの名を知っていたからだ。


 その夜。


 アルノルトは、一人で帳簿を見ていた。


 数字は、まだ回っている。


 三層の作業者。

 浅層の素材。


 だが――


「……止めたな」


 自分に言い聞かせるように呟く。


 儲かる場所を。

 夢を生む場所を。


 自分の判断で、止めた。


 恐怖が、遅れてやってくる。


 もし、これが間違いだったら。

 もし、領地が持たなかったら。


 それでも。


「……逃げるわけにはいかない」


 アルノルトは、顔を上げた。


 管理者である以上、

 選び続けなければならない。


 三層の奥。


 誰も足を踏み入れなくなった迷宮で、

 魔力が、静かに沈んでいく。


 深層への流れが、

 抑え込まれるように。


 それが、偶然なのか。

 それとも――


 まだ、誰も知らない。

ここまでご覧いただきありがとうございます。


次の投稿からは、1日1回の更新になります。


ブックマークをして、楽しみにお待ちいただけると嬉しいです。

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