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滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


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第6話 作業になった瞬間

 三層の入口は、以前よりも静かだった。


 掛け声もない。

 気負いもない。


 代わりにあるのは、簡単な点呼と、装備確認。


「作業者番号、三番、問題なし」

「五番、魔力灯の残量確認」


 それは、もはや冒険の準備ではなかった。


「……慣れてきたな」


 ドグラスが、腕を組んで呟く。


「良いことです」


 エルナは帳面から目を離さずに答えた。


「無理をしなくなった」


 アルノルトも、それを否定しない。


 作業になった。

 それ自体は、成功だった。


 問題が起きたのは、その日の午後だった。


「……戻りが、遅い」


 三層に入った五人のうち、

 一組が、予定時刻を過ぎても戻ってこない。


「通信符は?」


「反応なし」


 ドグラスが即座に立ち上がる。


「行く」


「待て」


 アルノルトは、短く制した。


「規定時間は?」


「……あと十分」


「待つ」


 その判断に、空気が張り詰める。


 十分後。


 ようやく、三人が戻ってきた。


 全員、生きている。

 怪我もない。


 だが――顔色が悪い。


「何があった」


 ドグラスが、低く問う。


 作業者の一人が、視線を逸らした。


「……奥に、

 見たことのない鉱脈があった」


 空気が、変わる。


「三層だぞ」


「分かってます」


 別の男が、焦ったように言う。


「でも、

 少しだけ、四層の境目にかかってた」


 沈黙。


「……踏み込んだのか」


 アルノルトの声は、静かだった。


「少しだけです」


「すぐ戻りました」


「危険はありませんでした」


 言い訳が、続く。


「規定違反だ」


 ドグラスが、吐き捨てる。


「作業者は、三層までだ」


「分かってます!」


 男が声を荒げる。


「でも、

 作業なんですよね?」


 その一言が、刺さった。


「仕事なら、

 成果を上げろって言われる」


「少しでも多く、

 良い素材を持ち帰れって」


 彼は、拳を握りしめる。


「……冒険じゃないなら、

 成果がすべてじゃないんですか」


 アルノルトは、すぐに答えなかった。


 これは、予想していた歪みだ。


 冒険の価値観が、

 作業に流れ込んでいる。


「違う」


 アルノルトは、はっきり言った。


「作業者の成果は、

 無事故で終わることだ」


 男は、唇を噛んだ。


「……それじゃ」


「儲からない?」


「評価されない?」


 アルノルトは、頷いた。


「その通りだ」


 場が、静まり返る。


「だから」


 続ける。


「作業者には、

 歩合を付けない」


 エルナが、はっと顔を上げる。


「日当制だ」


「成果ではなく、

 遵守に対して支払う」


 ドグラスが、低く笑った。


「……なるほどな」


「そして」


 アルノルトは、男たちを見据える。


「今回の違反は、

 厳重注意で済ませる」


 安堵の息。


 だが。


「次はない」


「四層に足を踏み入れた時点で、

 即資格停止」


「冒険者に戻るなら、

 ギルドへ行け」


 線は、引かれた。


 男たちは、黙って頷いた。


 不満は残っている。

 だが、理解もした。


 作業者は、冒険者ではない。


 夜。


 エルナが、帳面を閉じながら言う。


「……早かったですね」


「ええ」


 アルノルトは、深く息を吐く。


「制度は、

 人の欲を前提に作らないと壊れる」


 三層の奥。


 誰もいない通路で、

 魔力が、わずかに揺れた。


 四層との境界。


 今日、踏み越えられかけた場所。


「……見ているな」


 アルノルトは、そう感じた。


 ダンジョンもまた、

 人間の行動を見ている。


 管理されているかどうかを。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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