第4話 それはギルドの仕事だ
昼過ぎ、市場に見慣れない紋章が現れた。
銀の剣と天秤。
冒険者ギルドの正式印。
それを見た瞬間、空気が変わる。
「……来たな」
誰かが、低く呟いた。
「領主殿」
ギルド支部長レインハルトは、穏やかな笑みで言った。
「最近、この迷宮で
“冒険者ではない者”が出入りしていると聞きまして」
その言い方に、引っかかりがあった。
「彼らは、登録されています」
アルノルトは答える。
「三層までの作業に限定した――
ダンジョン作業者です」
ざわめきが起きる。
「作業者?」
「冒険者じゃないのか?」
レインハルトは、眉をひそめた。
「……妙な呼び方ですね」
「呼び方ではありません」
アルノルトは静かに言う。
「役割です」
「冒険者は、
深層を目指し、名を上げる者」
「作業者は、
浅層で素材を回収し、生活を支える者」
場が、静まる。
「そんな者を、
冒険者とは呼べません」
レインハルトは、はっきり言った。
「冒険者は、夢と危険を引き受ける存在です」
「三層で引き返すなど、
ただの臆病者でしょう」
何人かの冒険者が、視線を逸らした。
「違います」
アルノルトは、首を振る。
「彼らは、
冒険をしていないだけで、仕事をしています」
レインハルトの目が、細くなる。
「命を賭けない仕事など、
迷宮では価値がない」
「それは、ギルドの価値観です」
アルノルトは、一歩も引かない。
「この領地では、
生きて帰ることに価値を置く」
「だから、役割を分けた」
「冒険者と、作業者」
レインハルトは、少し笑った。
「危険ですね」
「何がです?」
「冒険者の誇りを、
壊してしまう」
「壊していません」
アルノルトは、即答した。
「冒険者は、冒険をすればいい」
「ただし」
一拍置く。
「それを全員に強制しない」
沈黙。
レインハルトは、周囲を見回した。
即金で銀貨を受け取った作業者たち。
怪我なく帰ってきた元冒険者たち。
「……なるほど」
彼は、ゆっくりと言った。
「ならば、これは明確な越権です」
「冒険者以外を、
迷宮に入れている」
「正式に問題提起しましょう」
「王都と、中央ギルドへ」
それは、宣告だった。
レインハルトが去った後。
「……俺たち、冒険者じゃないのか?」
誰かが、不安げに言った。
「違う」
アルノルトは、はっきり答える。
「冒険しない日は、作業者だ」
「冒険する日は、冒険者だ」
混乱と、静かな納得。
新しい区分は、
まだ完全には受け入れられていない。
だが――
確実に、言葉は生まれた。
「名前を付けた以上、
守らなきゃな」
アルノルトは、ダンジョンを見つめながら思う。
冒険者の夢を壊さず、
生活の場を作る。
その両立こそが、
この領地経営の核心だった。
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