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滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


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第3話 最初に回った金

 翌朝、ダンジョンの入口前に人が集まっていた。


 昨日潜った冒険者たちだ。

 だが、表情はどこか落ち着かない。


「……今日も、行くのか?」


 誰かが、探るように聞く。


「三層までだ」


 アルノルトが答えると、数人が肩をすくめた。


「分かってる。

 分かってるが……」


 言葉は、続かなかった。


 浅層に潜る理由を、まだ自分で肯定できていない。


「条件を決める」


 アルノルトは、全員が聞こえる声で言った。


「登録制だ。

 潜れるのは三層まで」


「持ち帰った素材は、

 すべて領地が買い取る」


 ざわめきが起きる。


「ギルドじゃないのか?」

「値段は?」


 アルノルトは、迷いなく答えた。


「相場より少し安い。

 だが――」


 一拍置く。


「即金だ」


 空気が変わった。


 即金。

 その言葉は、冒険者にとって重い。


「……本当に、その場でか?」


「検品後、すぐに払う」


 エルナが帳簿を広げる。


「品質が揃っている素材は、

 評価も一定です」


「当たり外れはありません」


 最初に並んだのは、昨日も潜った男だった。


 差し出したのは、三層で採れた鉱石片と魔物素材。


「……これで、いくらだ」


 エルナが秤にかけ、帳簿に目を走らせる。


「――銀貨三枚」


 男は、一瞬固まった。


「……少ないな」


「はい」


 エルナは正直に言った。


「深層なら、十倍も狙えます」


 だが、続ける。


「その代わり、

 確実に今日の宿代と食事代が出ます」


 男は、しばらく銀貨を見つめていた。


 そして、受け取った。


「……悪くない」


 誰に言うでもなく、そう呟く。


 二人目。

 三人目。


 銀貨が、次々と手渡される。


 量は少ない。

 だが、誰も損をしていない。


「……あれ?」


 若い冒険者が、首を傾げた。


「昨日より、軽い気がする」


「装備が、だろ」


 仲間が答える。


「消耗してない」


 昼前。


 買い取り所の前で、小さな動きが起きていた。


 鍛冶屋が、素材箱を覗き込んでいる。


「……均一だな」


 次に、薬師。


「不純物が少ない。

 加工しやすい」


 誰かが言った。


「仕事が早くなる」


 それは、商人にとって何よりの価値だった。


 市場。


 昼を過ぎても、完全には静まらなかった。


 昨日までとは、違う。


「今日は、仕入れがある」

「材料が回るぞ」


 そんな声が、聞こえ始めている。


 夕方。


 帳簿に、初めて意味のある数字が並んだ。


 大きな黒字ではない。

 だが――


「赤字では、ありません」


 エルナの声に、確信がこもる。


「冒険者、黒字。

 商会、ほぼトントン。

 加工職、仕事増」


 アルノルトは、静かに頷いた。


「回ったな」


「……はい」


 エルナは、少しだけ笑った。


 外では、冒険者が酒を飲んでいた。


「英雄気分じゃないが……」


「今日は、腹いっぱい食える」


 その言葉に、誰も反論しない。


 アルノルトは、窓からそれを見ていた。


 派手な称賛はない。

 歌にもならない。


 だが――


「生活が戻り始めている」


 それだけで、十分だった。


 そして彼は、ようやく口にする。


「……ここは、冒険の舞台じゃない」


 エルナが、顔を上げる。


「ええ」


「公共事業だ」


 誰もが命を賭けなくても、

 誰かが英雄にならなくても。


 回り続ける場所。


 それを、この迷宮に与える。


 その瞬間、

 歯車は確かに噛み合った。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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