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滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


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第21話 管理者の拒否

 王都への報告は、その日のうちにまとめられた。


 事故ではない。

 規定違反もない。

 数字上は、問題なし。


 だからこそ、

 判断が遅れた理由は記載されていない。


 翌朝。


 アルノルトは、正式な書面を一通したためた。


 長くはない。

 だが、言い訳も、感情も削ぎ落とされている。


本領地は、

王都標準化試験より撤退する。


 それだけが、明確だった。


 会談は、すぐに設定された。


 セルジオの顔色は、険しい。


「……理由を聞こう」


 アルノルトは、頷いた。


「昨日、現場で起きたことは」


「事故ではありません」


「だが」


 そこで一拍置く。


「判断が、止まりました」


「止まっていない」


 法務局の文官が反論する。


「手順どおり、

 上位判断を仰いだ」


「それが、制度です」


「その間」


 アルノルトは、淡々と続ける。


「現場は、待ちました」


「危険が、積み上がるのを」


 誰も、言い返せなかった。


「人は、

 待たされると、判断できなくなる」


「これは、

 安全のための制度です」


 セルジオが、そう言う。


「ええ」


 アルノルトは、頷いた。


「多くの命を、

 救うでしょう」


「だが」


 視線を、まっすぐ向ける。


「私は、この管理を引き受けられない」


 室内が、静まり返った。


「属人的すぎる」


 中央ギルド代表が、低く言う。


「あなたがいなければ、

 成り立たない」


「その通りです」


 アルノルトは、即答した。


「だから、

 私が引き受ける」


 セルジオが、眉をひそめる。


「それは、

 制度として成立しない」


「制度に、

 するつもりはありません」


 アルノルトは、静かに言った。


「事故が起きたら」


「判断を誤ったら」


「誰かが死んだら」


 言葉を選ばず、続ける。


「私の責任です」


 それ以上でも、

 それ以下でもない。


「責任を、

 個人に集中させるのは危険だ」


 法務局の文官が言う。


「だから、

 制度で分散する」


「分散した結果」


 アルノルトは、昨日の報告書を机に置く。


「誰も、判断しなかった」


 それが、答えだった。


「……では」


 セルジオが、低い声で言う。


「あなたは、

 何を選ぶ」


「標準化から、降ります」


「ダンジョン管理権を、返上します」


 エルナが、息を呑む。


「ただし」


 アルノルトは、続けた。


「封鎖は、しません」


「私の名義で」


「私の判断で」


「止めます」


 言葉は、簡潔だった。


「それは……」


 セルジオは、言葉を探す。


「制度外だ」


「承知しています」


 アルノルトは、頷いた。


「だからこそ」


「制度にしない」


 しばらく、沈黙が続いた。


 誰も、即座に否定できなかった。


 事故は、起きていない。

 だが、失敗は、見えている。


「……保留だ」


 セルジオが、ようやく言った。


「即時介入は、行わない」


 それは、敗北ではない。


 だが、

 完全な承認でもない。


 会談が終わった後。


 エルナが、小さく言った。


「……怖くなかったんですか」


 アルノルトは、少し考えた。


「怖い」


 正直な答えだった。


「だから、

 判断を手放さない」


 その夜。


 作業者たちは、

 何も知らずに戻ってきた。


 全員、生きている。


 アルノルトは、窓の外を見ながら呟く。


「……これでいい」


 称賛も、評価も要らない。


 ただ。


 待たせない管理を、

 続けるだけだ。


 迷宮の奥で、

 魔力が、わずかに動いた。


 まるで――

 再び、息をし始めたかのように。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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