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滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


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第19話 標準化の実験

 王都からの通達は、書状一枚だった。


 文面は丁寧で、言葉も柔らかい。

 だが、そこに選択肢は書かれていなかった。


本領地のダンジョン管理方式を、

王国内標準化の試験運用対象とする。


 エルナは、最後まで黙って読み終えた。


「……実験場、ですね」


「そうだ」


 アルノルトは、否定もしなかった。


 会議は、翌日に設定された。


 王都監督官セルジオ。

 中央ギルドの管理担当。

 法務局の文官。


 前回と同じ顔ぶれ。

 だが、今回は決定事項の確認に近い。


「まず、五層の結晶についてですが」


 セルジオが、淡々と口を開く。


「異常反応と判断します」


「除去対象です」


 アルノルトは、反応を示さなかった。


「管理対象では、ありませんか」


 一応、確認だけする。


「標準化できません」


 セルジオは、即答した。


「再現性がない」

「原因が特定できない」

「判断基準に落とせない」


「よって、排除します」


 それは、合理的な結論だった。


「次に、作業者の判断権限」


 法務局の文官が続ける。


「現場判断は制限します」


「撤退判断は、

 事前に定めた数値に基づく」


「規定外の場合は、

 上位管理官へ即時報告」


 エルナが、思わず口を挟む。


「それでは……

 判断が遅れます」


「遅れても構いません」


 文官は、感情を挟まない。


「勝手な判断をされるより、

 安全です」


 アルノルトは、そこで初めて口を開いた。


「……試験期間は?」


「三十日」


 セルジオが答える。


「結果次第で、

 王国内への展開を判断します」


 つまり。


 この領地のダンジョンが、

 基準になる。


「異論は?」


 セルジオが、形式的に尋ねた。


 アルノルトは、一瞬だけ考えた。


 そして、首を振る。


「ありません」


 その答えに、

 エルナが驚いた表情を見せる。


 会議は、それで終わった。


 反対も、衝突もない。

 すべては、決まった通りに進む。


 翌日。


 五層の結晶は、撤去された。


 破壊ではなく、回収。

 専用の箱に収められ、

 王都へ送られていく。


 光は、最後まで消えなかった。


「……いいんですか」


 エルナが、低い声で尋ねる。


「いい」


 アルノルトは、短く答えた。


「これは、実験だ」


 三層、四層、五層。


 すべての管理規定が書き換えられた。


滞在時間


作業範囲


許可行動


報告手順


紙の上では、完璧だった。


 作業者たちは、戸惑いながらも従った。


「今日は、

 規定どおりだな」


「数値、問題なし」


「……なら、続行か」


 誰も勝手な判断をしない。


 それが、正しい管理だからだ。


 夕方。


 帳簿上の数字は、悪くなかった。


 事故なし。

 遅延なし。

 規定違反なし。


「……順調です」


 エルナが、報告する。


 アルノルトは、頷いた。


 だが、その視線は、帳簿ではなく、

 現場の地図に向いていた。


 三層から五層へ伸びる線。

 魔力の流れ。


 微細な歪み。


「……始まったな」


 誰に言うでもなく、呟く。


 この管理は、

 悪意ではない。


 むしろ、

 多くの命を救うだろう。


 だが。


「これは、

 判断を止める管理だ」


 アルノルトは、そう確信していた。


 夜。


 迷宮の奥で、

 魔力が、わずかに滞った。


 誰も気づかない程度の、

 小さな違和感。


 だが、それは――

 確かに、存在していた。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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