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滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


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第17話 真似できなかった理由

 失敗の知らせは、早かった。


 隣領から視察に来た代官が帰って、

 十日も経っていない。


「……事故が、起きました」


 エルナの報告は、短かった。


「浅層です」


 アルノルトは、すぐに顔を上げた。


「何層だ」


「二層」


 その数字に、

 一瞬、理解が追いつかなかった。


 二層。


 誰もが「安全」と思い込む層。


 だからこそ、

 起きた事故だった。


 話を持ってきたのは、隣領の若い文官だった。


 顔色は悪く、

 目の下に隈ができている。


「……あなたの領地を、真似しました」


 その一言で、

 すべてが分かった。


「浅層を開放し」

「日当制を導入し」

「作業者という呼び名も使いました」


「ですが……」


 文官は、唇を噛む。


「管理者が、現場にいませんでした」


「どういうことだ」


 アルノルトは、静かに問う。


「数字だけを見ました」


「規則を作り、

 張り出し、

 守らせたつもりでした」


「ですが……」


「“安全だから”という理由で、

 監視を減らしました」


「判断は、作業者任せです」


「結果――」


 言葉が、詰まる。


「一人が、

 規定を少し越えました」


「二層の奥です」


「“少しだけなら”と」


 アルノルトは、

 ゆっくりと息を吐いた。


 覚えがありすぎる。


「事故内容は?」


「落盤です」


「浅層でも、

 構造は壊れます」


 それが、

 “管理されていない浅層”の現実だった。


「……遺族は?」


「領主が、

 “安全だと言った”と」


 文官の声が、震える。


「責任を、

 問われています」


 しばらく、沈黙。


 アルノルトは、

 責める言葉を選ばなかった。


 代わりに、言った。


「作業者は、

 安全な存在ではない」


 文官が、顔を上げる。


「作業者は、

 管理されている存在だ」


「その違いを、

 あなた方は飛ばした」


 厳しいが、事実だった。


「規則だけでは、足りない」


「数値だけでも、足りない」


「判断を預けないことが、

 一番重要だ」


「……では」


 文官が、声を絞り出す。


「我々は、

 どうすればよかったのでしょう」


 アルノルトは、少しだけ考えた。


 そして、答える。


「最初は、

 止めるべきだった」


 文官は、愕然とした。


「使う前に、

 管理者が歩く」


「判断基準を、

 体で知る」


「数字ではなく、

 違和感を共有する」


「あなた方は、

 結果だけを欲しがった」


「だから、

 過程が、抜け落ちた」


 その言葉は、

 残酷だが、正しかった。


 文官は、深く頭を下げた。


「……戻ります」


「もう一度、

 止めるところから始めます」


 それは、

 勇気のいる決断だった。


 夜。


 エルナが、静かに言う。


「……広まるほど、

 歪みも増えますね」


「当然だ」


 アルノルトは、頷いた。


「正解は、

 輸出できない」


「それでも、

 教えるんですね」


「教える」


 即答だった。


「だが、

 同じやり方を、

 勧めはしない」


 この領地の管理は、

 奇跡ではない。


 才能でもない。


 向き合い続けているだけだ。


 迷宮の奥で、

 魔力が、静かに脈打つ。


 急がず、

 溜めすぎず、

 壊さず。


 それを理解するには、

 時間がかかる。


 そしてアルノルトは、

 はっきりと悟っていた。


「……これは、

 広める話じゃない」


「引き受ける覚悟の話だ」

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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