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滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


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第14話 管理しすぎた場所

 異変は、報告書の端に書かれていた。


「……数値、微増?」


 エルナが、指先で帳面を叩く。


「五層の魔力密度です」


「危険域ではありませんが……

 安定値を越えています」


 アルノルトは、すぐに顔を上げた。


「作業回数は?」


「規定通りです」


「人数も?」


「問題ありません」


 つまり――

 ルールは、すべて守られている。


「……現地を見ます」


 アルノルトは、即断した。


 迷いはない。

 だが、胸の奥に小さな違和感があった。


 五層。


 足を踏み入れた瞬間、空気が違った。


 重くはない。

 だが、澄みすぎている。


「……静かすぎるな」


 ドグラスが、低く言う。


「魔物反応は?」


「……薄い」


 薄すぎる。


 通路の中央。


 かつて、何度も通った場所。


 そこに――

 小さな結晶が生えていた。


「……昨日は、なかった」


 エルナの声が、わずかに硬くなる。


 人の背丈にも満たない。

 だが、明らかに“自然発生”ではない形。


「魔力が、溜まっている」


 アルノルトは、結晶に近づきすぎないよう注意する。


「……放出されていない」


「封鎖したから、ですか」


「いや」


 首を振る。


「使っているからだ」


 三層は、人の出入りが多い。

 五層は、管理された少人数。


 十層は、完全封鎖。


 結果として。


「……行き場を失った魔力が、

 ここで固まり始めている」


 ドグラスが、顔をしかめる。


「それは……危険じゃないのか」


「今は、まだ」


 アルノルトは、即答しなかった。


 その時。


 結晶が、かすかに光った。


 攻撃ではない。

 威嚇でもない。


 呼吸のような明滅。


「……生きてるみたいだな」


 誰かが、そう呟いた。


「壊すな」


 アルノルトは、強く言った。


「管理対象だ」


「これも、ですか」


 エルナが問い返す。


「ああ」


 アルノルトは、結晶から目を離さず答えた。


「ダンジョンは、

 管理されることに、反応している」


 地上。


 作業者たちには、即時通達が出された。


「五層、作業一時停止」


「理由は?」


「調査だ」


 不満の声は、ほとんど上がらなかった。


 止まることに、慣れ始めている。


 夜。


 アルノルトは、机に向かいながら考えていた。


 止めすぎれば、溜まる。

 使いすぎれば、壊れる。


「……道具じゃないな」


 迷宮は、

 人が思うほど単純ではない。


「管理とは」


 呟く。


「制御じゃない」


「対話だ」


 数値だけでは足りない。

 感情だけでも足りない。


 反応を見ることが、必要だった。


 五層の結晶は、その夜も静かに光っていた。


 敵意はない。

 だが、無関心でもない。


 まるで――

 様子を見ている。


 この人間が、

 次に何をするのか。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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