第12話 数字で測る人々
王都監督官が来る、という知らせは前日の夕方に届いた。
事前連絡。
日程確定。
拒否権なし。
「……早いですね」
エルナが、静かに言った。
「噂は、もう王都まで届いている」
アルノルトは、そう答えた。
五層調査。
管理協力者制度。
十層封鎖。
どれも、王都にとっては――
放置できない判断だ。
監督官は二人だった。
一人は壮年の男。
もう一人は、若い補佐官。
どちらも、武装は最低限。
だが、視線は鋭い。
「王都監督官、セルジオ・ハルトマンです」
名乗りは簡潔だった。
「まず、確認したい」
セルジオは、着席するなり言った。
「この迷宮に関する一連の判断は、
すべて貴殿の独断ですか」
「はい」
アルノルトは、即答した。
言い逃れは、しない。
「十層以降の封鎖」
「五層の限定調査」
「冒険者と作業者の区分」
セルジオは、指を折っていく。
「いずれも、前例がない」
「承知しています」
「では、成果を」
セルジオは、感情を挟まず言った。
エルナが、帳簿を差し出す。
「作業者稼働率、九割」
「事故率、ゼロ」
「五層調査、無事故で終了」
淡々と読み上げられる数字。
「……悪くはない」
セルジオは、そう評価した。
だが、その後に続く言葉は冷たい。
「しかし」
一拍。
「突出した成果ではない」
空気が、わずかに張り詰める。
「税収は、まだ低い」
「人口回復の兆しも、限定的」
「周辺領への波及効果も、見えない」
どれも、事実だった。
「つまり」
セルジオは、結論を出す。
「現状は、
よく管理された停滞です」
その言葉は、鋭かった。
エルナが、思わず口を開く。
「ですが、
死亡事故は止まりました」
「それは当然です」
セルジオは、遮る。
「人が死なないのは、
評価点ではありません」
その言葉に、室内が静まり返る。
「王都が見るのは、
増えるか、増えないかです」
「人が」
「金が」
「影響力が」
彼は、冷静だった。
アルノルトは、ゆっくりと息を吸う。
「……なら、聞かせてください」
「何を、ですか」
「王都が求めるのは、
冒険者の夢ですか」
セルジオは、一瞬だけ考えた。
「いいえ」
そして、はっきり言った。
「管理可能な利益です」
「夢は、
管理できない」
それは、正論だった。
「五層を使うなら」
セルジオは続ける。
「成果を、数字で示しなさい」
「いつまでに、
何を、
どれだけ」
「それが示せないなら――」
視線が、突き刺さる。
「封鎖判断は、
一時的措置と見なします」
「十層の再開を、
求める声も、無視できません」
圧だった。
会談が終わった後。
エルナは、珍しく感情を滲ませた。
「……冷たいですね」
「冷たいが、正しい」
アルノルトは、そう答えた。
「王都は、
感情で領地を見ない」
窓の外では、
作業者たちが帰ってきていた。
怪我はない。
今日も、無事だ。
だが、それは
数字になりにくい。
「……示さなければならないな」
アルノルトは、静かに呟く。
「止めただけでは、足りない」
「守っただけでも、足りない」
エルナが、顔を上げる。
「何を、示しますか」
アルノルトは、少しだけ考えた。
そして。
「増えることだ」
人が。
仕事が。
選択肢が。
五層は、まだ実験段階。
だが――
ここを“停滞”で終わらせる気はなかった。
管理とは、
止めることではない。
前に進ませることだ。
その夜。
迷宮の奥で、
魔力が、ほんのわずかに強く脈打った。
まるで――
次を、待っているかのように。
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