第11話 管理協力者、初日
五層の入口には、簡素な柵が立てられていた。
封鎖ではない。
解放でもない。
札に書かれているのは、ただ一言。
「管理協力者以外、立入禁止」
集まったのは、四人。
全員、冒険者としての経験がある。
だが、今は誰も“冒険者”を名乗らなかった。
「……思ったより、静かだな」
一人が、そう呟く。
「そりゃそうだ」
別の男が苦笑する。
「今日は、稼ぎに来たんじゃない」
「確認する」
アルノルトは、入口で足を止めた。
「目的は、調査と安定化だ」
「素材は、
持ち帰れたらでいい」
四人が、顔を見合わせる。
「……変な感じだな」
「だな」
五層。
足を踏み入れた瞬間、
全員が気づいた。
空気が、乱れていない。
「……揺れがない」
「前に来た時は、
もっと、ざらついてた」
誰かが、壁に手を当てる。
「魔力が、流れてる」
「時間を守れ」
アルノルトは、短く言う。
「三十分で撤退準備」
「異変があれば、即戻る」
誰も、異論を挟まなかった。
魔物が出た。
だが、動きは単調。
数も、想定内。
「……これなら」
前衛の男が、息を吐く。
「落ち着いて対処できる」
「欲を出さなければ、な」
別の男が、即座に返す。
通路の奥。
魔力計測具が、わずかに振れる。
「記録取れ」
「了解」
数値は、昨日とほぼ同じ。
変化していない。
それが、成果だった。
三十分。
誰一人、ためらわずに引き返した。
「……戻るぞ」
その一言が、
以前よりも自然に出たことに、
全員が気づいていた。
地上。
全員、生還。
怪我なし。
装備損耗、軽微。
素材は、少量。
「……これで、終わりか」
一人が、拍子抜けしたように言う。
「終わりだ」
アルノルトは、頷いた。
「今日は、
無事に終わった」
その言葉に、誰も反論しなかった。
支払いは、予定通り。
銀貨が、一人ずつ手渡される。
「……歩合じゃないのに」
受け取った男が、呟く。
「妙に、納得感があるな」
別の男が、笑った。
「欲張らなかったからだろ」
夕方。
報告書をまとめながら、エルナが言う。
「数値、安定しています」
「異常反応、なし」
アルノルトは、深く息を吐いた。
「……一歩だな」
「はい」
「ですが、
確実な一歩です」
帰り際。
管理協力者の一人が、立ち止まった。
「……なあ」
「何だ」
「今日の仕事、
家で説明しやすい」
アルノルトは、一瞬、言葉を失った。
「危ない話をしなくていい」
「無茶したって言わなくていい」
男は、照れくさそうに笑う。
「働いてきたって言える」
それだけだった。
だが、十分だった。
夜。
五層の入口は、再び静かになる。
だが、
昨日とは違う静けさだった。
人が、
戻ってきた静けさ。
アルノルトは、入口を見つめる。
「……報われたな」
誰に言うでもなく、呟く。
大成功ではない。
称賛もない。
それでも。
「これなら、
続けられる」
迷宮の奥で、
魔力の流れが、わずかに安定する。
それは、偶然かもしれない。
だが――
管理された一日は、
確かに、何かを変えていた。
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