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滅びかけ領地の問題ダンジョンを、冒険者じゃなく作業員で回してみた結果 ―命を賭けないダンジョン経営録―  作者: 山奥たける


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第10話 使えると分かった、その後で

 五層の調査結果は、すぐに広まった。


 意図して漏らしたわけではない。

 だが、隠しきれる話でもなかった。


「……領主が、五層から生きて帰った」

「素材も、持ち帰ったらしい」


 その噂は、冒険者にとって一つの意味しか持たない。


 行ける。


「五層を開けろ」


 最初に来たのは、冒険者だった。


 顔なじみもいれば、久しく見なかった者もいる。


「作業者じゃない。

 俺たちは、冒険者だ」


「十層が駄目なら、五層でいい」


 その理屈は、分かりやすかった。


「……開放はしない」


 アルノルトは、即答した。


 場の空気が、凍る。


「何だと?」


「行けるんだろ?」

「領主が証明したじゃないか」


 ドグラスが、一歩前に出る。


「下がれ」


「まだ話は終わってない」


「行けることと、

 使っていいことは違う」


 アルノルトの声は、低いが揺れていない。


「五層は、安定していない」


「今回は、

 人の流れが止まっていたから生きて帰れた」


「なら、制限すればいい」


「人数を絞ればいい」


「俺たちは、慣れてる」


 冒険者たちの言葉は、切実だった。


 浅層に戻るという選択肢を、

 まだ受け入れきれていない。


「……聞いてくれ」


 アルノルトは、深く息を吸った。


「五層を使うなら、

 冒険ではなく、管理作業になる」


 ざわめき。


「時間帯固定」

「人数制限」

「装備規格」

「即時撤退ルール」


「そして――」


 一拍置く。


「報酬は、固定だ」


「……は?」


 誰かが、素で声を上げた。


「五層だぞ?」

「中層相当だぞ?」


「歩合じゃないのか?」


 アルノルトは、首を振る。


「歩合は付けない」


「危険に対して、

 報酬を釣り上げるとどうなる?」


 問いかける。


「無理をする」

「境界を越える」

「事故が起きる」


 沈黙。


 誰も、否定できなかった。


「五層は、

 実験層にする」


「作業者でも、冒険者でもない」


 エルナが、補足する。


「参加者は、

 “管理協力者”として登録されます」


「目的は、

 利益ではなく、安定化」


 冒険者の一人が、歯噛みする。


「……夢がないな」


「そうだ」


 アルノルトは、否定しない。


「夢は、六層以降にある」


「だが、

 そこへ行く道を壊さないために、

 五層を管理する」


「順番を、逆にしただけだ」


「今までは、

 行って死んで、学んでいた」


「これからは、

 学んでから、行く」


 しばらく、誰も口を開かなかった。


 やがて、一人が言う。


「……金は、いくらだ」


 アルノルトは、即答する。


「三層作業者の、

 二倍」


 場が、ざわつく。


「安くはない」

「だが、夢ほど高くもない」


「生きて帰れるなら、

 悪くない」


 誰かが、そう呟いた。


 それが、決定打だった。


 夜。


 エルナが、静かに言う。


「……反発は、残ります」


「当然だ」


 アルノルトは、頷く。


「だが」


 窓の外を見る。


「一度、戻れる場所を作らないと、

 誰も先に進めない」


 五層の入口。


 簡素な封鎖札が、設置された。


 解放ではない。

 拒絶でもない。


 準備中。


 迷宮の奥で、

 魔力が、静かに流れを変える。


 人が、

 踏み込もうとしていない場所。


 だが、

 管理しようとしている場所。


 それを、

 迷宮がどう受け取ったのか――

 まだ、誰も知らない。

本話もお読みいただき、ありがとうございました!


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